「あれ、当真じゃんおかえり。帰ってくんの早くない? 顔面パイ用意する暇もないじゃん」

 暫くして、当真たち遠征部隊が帰ってきた。何だっけ、遠征に行ってたのは太刀川隊、風間隊、あと当真のとこの…冬島隊?の三つだったかな。A級の超精鋭って感じだ。いやあなんかこう言うの聞くと当真って実はホントに凄いんだなーって思うよね。まあ狙撃手個人ランク一位ってだけでかなり凄いんだけど。でも私だって結構やると思うんだけどな。この間の奈良坂くんのお陰でプライドズタズタだけど。
 当真は出会頭の私の冗談に笑う。

「なんだよ顔面パイって。嫌がらせかよ」
「おかえり三割面白そう三割嫌がらせ四割」
「嫌がらせが一番多いじゃねえかよ!」

 ゴン、と額を小突かれてお互いに笑う。まあ顔面パイは冗談として、なにやらまたどこかに行くつもりらしい当真の格好に首を傾げる。なんでまだトリオン体?

「いやーちょっとな。これ言ってもいいんかな。…まあいっか」

 ブツブツと何か言っていたがしばらくしてうんと頷いて話しはじめた。え、なにそれ言っていいやつ? ホントに言っていいの?

「玉狛支部にある黒トリガーの確保、って任務を帰還早々任されてな」
「……黒トリガー? 玉狛支部? は?」
「何だっけな、玉狛支部が近界民を匿ってて、その近界民が黒トリガーを所持してるらしい」
「……何言ってんだお前」
「いやほんとほんと」

 近界民が? 黒トリガーを所持? 黒トリガーってアレだよななんか人がトリガーになった超強力な………いやうん、色々違う気もするけど大筋は間違っていないはずだ。それよりも近界民って? いつも私らが倒してるあれだよな? あれを玉狛が匿ってる? は??

「玉狛カピバラだけじゃなくでっかいペット飼いはじめたのか……もう次元すら違うじゃん…」
「ぶはっ、…違う違う! 近界民っていうのは人型! 向こうの世界にいる近界民は俺らと同じ人間なんだよ」
「………ダウト」
「ブブー、ホントです」

 えー何それ初めて知った………何このカルチャーショック。あれ使い方違う? まあいいんだよ別に。っていうか近界民って人間だったんだ……まあトリオン兵って言葉と近界民って言葉があるのはちょっと不思議だったけど……そういうことか……

「んでその黒トリガーを確保…? しに行くのか」
「そーそー。帰ってきて早々酷使してくれるよな」
「なんで確保しに行くわけ?」
「ん?」
「玉狛が匿ってる? んでしょ? 玉狛を盾にして立てこもってるわけじゃないし、玉狛が進んで保護してるんなら危険はないってことじゃないの?」
「…いやー、そこは知らねーなあ」

 素直に疑問をぶつけたら、困ったように笑われた。ふーん。知らないのか。いやまあ、別に言及したいことじゃないからいいけど。
 というか、近界民か。私と同じ人間ってことは、言葉を話せるってことだ。…もしかしたら鳩原のこととか、知らないかな。

「……ちょっとその近界民に会ってみたいかも」

 当真は何も言わずにひらひらと手を振って任務へ向かって行った。


 ▽


 次の日、本部の廊下を歩いていると迅さんに出会した。玉狛の人に本部で会うのは珍しく、思わず足を止めた。

「どうも。迅さん」
「、おー、橘。久しぶり。あ、そういえばA級昇格もおめでとう」
「ありがとうございます。迅さんが本部にいるなんて珍しいですね」

 普通にそう聞いてみれば「いやーちょっとなー」と誤魔化されそうになったので、ふと昨日の当真との会話を思い出して口を開く。

「ウワサの近界民? のことですか?」
「、……知ってるんだ」
「昨日当真に会って、ちょっとだけ聞きました。黒トリガーとられちゃいました?」
「結構知ってんじゃん、お喋りだなあ当真は。…いや、遊真……近界民のは無事。おれの黒トリガーを取り引きに使ったから」
「へえ」

 迅さんって黒トリガー使いだったのかっていうまずそこからの驚きなんだけど口には出さないほうが良さそうだったので黙っておいた。
 えーと、つまりあれか、近界民の黒トリガーを守るために迅さんの黒トリガーを本部に譲渡した? なんかよく分かんないけど迅さんの自己犠牲ってやつなのかな。よく分かんないから言わないけど。

「…今更ですけどこれ私が聞いても良かったんですかね」
「うーん………言いふらしたりしなけりゃ大丈夫…じゃない?」
「はあ、まあ口は固いほうなんで」
「それは安心だな」

 ポンポン、と褒めるように頭を叩かれた。なんか凄い子供扱い感……何これうわあ…

「あ、そういえばちょっとお願いがあるんですけど。…お願い? か? …まあいいか」
「ん? なに?」

 近界民に会ってみたいんですけど――と、それを言う直前、迅さんの携帯が鳴った。ごめんねの断って電話に出る迅さん。どうやら呼び出しがかかってしまったらしい。

「ごめん、なんだった?」
「あー、またでいいです。早く行ったほうがいいんじゃないですか」
「あーごめんね、じゃあまた」

 去っていく迅さんに軽く手を振りながら、嘆息。うーん、近界民に会う道は遠そうだ。

人型近界民について

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