「あっ、橘先輩! 見ましたよーこの前の試合の映像! 相変わらず見事な脳天ぶち抜きでしたねー」
「おう佐鳥」

 とある日、狙撃手合同訓練にて、同じ狙撃手の佐鳥賢が話しかけてきた。賢という名前に似合わず少しアホっぽい面をしているが中々気さくでいいやつではあると思う。二つ下の後輩で同い年の当真よりは話す機会も少ないが、ボーダーの中でも割と話す仲である。というか向こうが話しかけてくるので話しているのいうのもあるのだけども。
 よーと片手を上げ応えつつ、目線は的に向けたまま、問うた。「で、何か用?」そうだ今度は的に佐鳥の顔を思い浮かべよう。

「いやあ、別にそんなのはないですけど。ただ橘先輩がいるの見えたから」
「……ふーん。まあいいけど。というか早く位置につかないと訓練始まるよ」
「えっ、わ、ホントだ!」

 佐鳥の顔を思い浮かべた的に弾は見事命中して、内心でガッツボーズを決めながら佐鳥に忠告した。慌てて隣のブースに入り準備を始める佐鳥を横目で見やり、ふうと溜息を吐き出した。


 ▽


「よう橘。試合見たぞ。相も変わらず残酷だなお前は」
「ねえその声のかけ方流行ってんの?」

 訓練後、訓練前とデジャヴを感じる声のかけられ方に若干の訝しみを覚えつつも、それに片手をあげて応えた。声をかけてきた同級生の荒船哲次は、クラスやポジションこそ違うものの同じ学校ということもあり仲は良い。余談ではあるが、いつもボーダーでは帽子をかぶっているので、学校で帽子を被っていない荒船と出会した時は正直一瞬誰だか分からなかった。本人にも秘密の話だ。
 荒船は薄く笑ってラウンジに行こうと声をかけた私に並び一緒に歩く。そういえば今日は当真を見かけなかったな。サボっているのか他の階の訓練室にいるのか。さてどっちなんだか。

「悪い意味で言ってんじゃねえよ。ある意味潔くて好きだぜ俺は」
「そりゃーどーも。お陰様でドライモンスター扱いですよ」
「拗ねるな拗ねるな」
「拗ねてねーよ」

 荒船の軽口に返しながら、通りがけにあった自販機でジュースを買った。荒船もそれに倣って、ジュースを買っていた。真似すんなよと冗談半分で言ったらその後の行動全部そっくりそのまま真似してきた。やめろ。
 そうして荒船と巫山戯ていれば、「あ、穂村いたいた!」とボーダー内では珍しく私のファーストネームが呼ばれた。聞き覚えのあるその声に振り向けば、最近友人になったばかりの犬飼澄晴がこちらに駆け寄ってきていた。
 犬飼は学校もクラスも一緒でついでに席も隣ということもあり、結構仲も良かった。しかし犬飼が私を名前呼びなのはその条件下によるものではなく、単に犬飼のコミュ力が異常だったというだけだ。意味が分からん何初対面の女子を名前呼びできるって怖い。しかし犬飼曰く名前呼びできる女子とできない女子を見分けているらしいがまあそんなことはどうでもいい。心底どうでもいい。

「なに」
「明日さ、英語あるじゃん? 予習見せてくんない? 今日夜中に任務入っちゃってやる時間ないんだよー」
「えーやだよ」
「えーケチ! いいだろそのくらい」
「じゃあ駅前のケーキ屋のバウムクーヘン奢りで手を打とう」
「ゲッ…………うーん………まあいい、か?」

 割と高めの条件を出すと犬飼は渋りつつもその条件を呑み交渉は成立した。明日朝見せるわと約束すると、犬飼はありがとうと盛大に感謝の意を示しながら去っていった。これから模擬戦の約束があるのだとか。そりゃあまあ忙しいことだ。走っていく犬飼の背中を若干冷めた目で見ていると、暫く放置していた荒船が犬飼の去っていった方を見ながら「お前犬飼と仲よかったんだな」と呟くように言った。

「ん? まあ同じクラスだし」
「割と顔広いよな」
「そー? 別に普通じゃない?」

 興味なさ気な反応を返す私をつまらなく思ったのか、荒船は先ほどの続きとして私の真似を再開した。だからやめろっての。

多分顔は広いほう

SANDGLASS