ぷー様 伊代様リクエスト
ズドン。
痛みはない。しかし、確かな重みと、衝撃が体に走った。弾を撃った相手の顔が、遠いが辛うじて見えた。
「(…………うわ、)」
その表情を見た、瞬間。おれは。
▽
「出水! 凩隊と模擬戦やるぞー!」
「……はあ? 何言ってんすか太刀川さん」
ある日のこと。突然作戦室の扉を開けて入ってきたと思ったら、そんなことを言い始めた我らが隊長、太刀川さん。馬鹿なのは知っていたがここまでとは…と、少々哀れみの目を送っていれば、太刀川さんに気付かれて軽く頭を叩かれた。「いてー」と全く痛くもない頭をさすりながら、太刀川さんの言う凩隊≠ノついて考える。確か去年辺りに出来た隊で、今はB級中位辺りにいたはずだ。そこの隊長が太刀川さんと仲が良いらしくよく話題に出ているので知っている。いやしかし、それがなくたって凩隊は有名だ。まず隊長の凩さんはとても温和な性格をしているが、A級と渡り合えるほどの実力を持っている、と知られているし、オペレーターの…名前は忘れたが確か同い年の女の子は、情報処理能力がずば抜けて高く良い仕事をすることで有名だ。そして何よりも広く知られているのは、狙撃手であるドライモンスターだ。確か名前は橘穂村、だったと思う。あちこちでよく聞くから覚えてしまった。橘さんは容赦なく脳天を狙ってくることで恐れられており、人の気持ちを理解しようのしないその姿勢は正にドライモンスター。出来れば相手にしたくない。しかしそんな実力を兼ね備えた隊員の集まる隊が何故中位止まりなのか、というと、太刀川さん曰く「凩には積極性っていうもんがねえんだよなあ」らしい。よく分からないが。
しかしそんな凩隊と模擬戦をやるというのは一体どういうことなのか。模擬戦大好き野郎である太刀川さんだが凩隊とやると言ったのは今回が初めてのことだ。
「いやなあ、ようやく凩が首を縦に振ってくれたからな。これを逃すのは勿体無い」
…あんただけでやれよ、と思ったがどうやら隊でやることは決定しているようで、俺には止める術が見つからなかった。
▽
「(うわ………やる気なさげー)」
太刀川さんと凩さんが話をしている横でぼうと呆けて突っ立っている女の人……橘さんを目の前に、おれは思わず乾いた笑みを浮かべた。とっても帰りたそうな顔をしている。おれも帰りたい。
何やら模擬戦と関係ない話で盛り上がっている太刀川さんに呼び掛け(盛り上がっていたのは太刀川さんだけだ。凩さんは苦笑を浮かべて困っていた)、早くやろうと促す。おうそうだなと漸く始めるらしい太刀川さんに着いて行く間際、ちらりと橘さんを見た。変わらずやる気のなさ気な顔をしていた。
模擬戦が始まり、俺はいつもの通り太刀川さんの援護にまわる。太刀川さんは凩さんと弧月を交えてとても楽しそうだ。…いやしかし凩さんすげえな、と、アステロイドを撃ちながら思わず感心する。太刀川さんのほうが勿論優勢だし強いのだが、凩さんもだいぶ善戦している。先程までのほわほわとしたヘタレ感はどこかへ行ってしまって、戦っている姿は真剣そのものだ。太刀川さんが押して押して押して、凩さんが押して押して、押し返されて。やっぱり凩さんのほうが劣勢だけども、見応えのある試合だと思った。
「おい出水! 狙撃に注意しとけよ!」
「っ! あ、ハイ!」
ヤッバイ、普通に試合を見てる場合じゃなかった。おれも試合に集中しなければ。
狙撃はどこから来る? と、目だけで姿を探すがやはり見つかるわけもなく、とりあえず脳天への狙撃を警戒して、頭に集中してシールドを張った。あの人が脳天以外を狙ったという話は聞いたことがない。
まあしかし、そんな考えは本当に馬鹿だったとすぐに後悔することになるのだけど。
ズドン。
何かが、心臓辺りを貫いた。
「っ…………は……?」
「出水!」
太刀川さんの声が聞こえた。戦闘体の壊れる音がする。撃たれたと理解するのに、少し時間を要した。
痛みはない。しかし、確かな重みと、衝撃が体に走った。弾を撃った相手の顔が、遠いが辛うじて見えた。
「(…………うわ、)」
笑っていた。それはもう、晴れやかな、先ほどのダルそうな顔が嘘のような、明るい、誇らしげな笑顔。遠くて、戦闘体も壊れかけで、よく見えないはずなのに、それだけが、はっきりと良く見えた。
その表情を見た、瞬間。おれは。
「(…………やっば)」
文字通り、心臓を撃ち抜かれ、おれは、確かにあの人に、恋に落ちた。
▽
心臓を撃ち抜かれ、同時に恋に落ちるという壮絶な体験の後、おれはすぐに橘さんに絡みに行った。名前も橘さんから穂村さんへと呼び変えて、馴れ馴れしく、少しでも印象に残るようにグイグイと押していった。しかし流石に人の気持ちのわからないドライモンスター、おれの気持ちなんて気づきやしない。きっとおれの絡みだって「心臓撃ち抜かれたくせに絡んでこれるとか神経おかしい」くらいにしか思っていないのだろう。まあそれでこそ穂村さんだとは思うが。
「穂村さん! 今暇っすか!?」
「暇じゃない」
「暇なんすね! じゃあ模擬戦しましょう!」
「やめろ離せ馬鹿脳天撃ち抜くぞ」
「できれば心臓で!」
「あんたマジ頭おかしいんじゃないの」
穂村さんの冷めた目を受けながら、おれは今日もアプローチを続けていく。
心臓を撃ち抜かれた出水の心境