しろがね様リクエスト
「よっしゃ勝ったー」
「あーくっそ!! あと一つ!!」
狙撃手の実戦式訓練で、私と荒船は勝負をしていた。どちらがより見つからずより相手に印を付けられるか、つまり順位がより高い方が勝ちという、単純な勝負だ。そして結果はというと、撃たれた数は同数、当てた数は私が一つ多く、かなりの僅差での私の勝利となった。グッと拳を握り、荒船にドヤ顔をしてみせる。荒船は悔しそうな顔で私を睨んでいるがそんなの痛くも痒くもない。荒船には荒船が攻撃手だった頃に何度もぶった斬られた記憶があるので、こうして勝負に勝てるととても嬉しい。
「じゃあ今度のご飯は荒船の奢りってことで」
「くっそ……分かったよ」
今回、私と荒船は勝負と同時に賭けもしていた。負けたほうが勝ったほうにご飯を奢る、というものである。今回は私が勝ったので荒船が私にご飯を奢ることになる。
悔しそうな荒船を横目にどこに連れて行ってもらうか考えていると、荒船がむすっとした顔のまま、「店は俺が選んでいいか?」と言ってきた。驚いたがまあ正直どこでもいいのでいいよと頷くと、荒船は軽く笑った。
「どこ行くの?」
「まあ、当日のお楽しみってことで」
お楽しみってほどのイベントでもない気がするけど。
▽
「ここ?」
「ここ」
荒船に連れてこられたのは、どこにでもありそうな普通のお好み焼き屋さんだった。かげうら≠ニ看板を掲げたそこに、特に変わったところはない。いやまあ、別に変わったところはなくても美味しいならいいんだけど。お好み焼き好きだし。
ガラガラ、と戸を引いて中に入ると、「らっしゃいませー」と店員さんの声……が?
「あれ影浦だ」
「あ? 荒船に橘?」
「よお、食いに来たぜ」
何故か影浦が店員の格好をして店の中に立っていた。どうして影浦がここにいるんだろうか。
「なに? ここでバイトしてんの?」
「あ? ちげーよ、外の看板見てこい」
「見たよ、かげうらって書いて………ああ、そういうことか」
「そういうことだよ」
どうやらここは影浦の家らしい。なるほどと納得して頷く。なんで見た時影浦が出てこなかったんだろうか。まんまなのに。
首を傾げながら、案内されるままに椅子に座る。
「なんで影浦ん家?」
座って、メニューを開きながら目の前の席に座る荒船に聞くと、一言「美味いから」と返ってきた。
「ふーん」
「あとお前影浦の家来たことなかったろ。大体皆知ってるし、教えといてやろうかと」
「なるほど?」
まあ私影浦と仲良くなったの最近だしな。影浦はユズルのとこの隊長だし、鳩原と交流あったりしたのかな。鳩原もここ知ってたんだろうか。鳩原が帰ってきたら一緒に来てみようかな。
そう呟くと、荒船が少し憐れむような目を向けてきた。
「お前さ……鳩原以外に女子の友達いんのか?」
「は?」
かなり失礼なことを問われて、私は眉を釣り上げた。
「いるに決まってんじゃん。オペレーターの子とか先輩後輩関係なく幅広く友達いるし、学校でもそれなりに話す子はいるし」
「マジで?」
「あんたが知らないだけじゃん。今度加賀美ちゃんに聞いてみれば? 仲良いから」
「加賀美と? …ふーん」
加賀美ちゃんは荒船の隊のオペレーターで、同い年なので何度か遊んだこともあるそれなりに仲の良い友人だ。
荒船は加賀美ちゃんの名前を出されて納得したのかそれともどうでも良くなったのか、それ以上は何も言ってこなかった。それにしても女子の友達がいないと思われていたなんて心外すぎる。同い年の子で言ったら国近ちゃんとか、結構仲良いんだけどな、と口には出さないが不満の視線を投げかける。
「橘ってさ」
「あ?」
「変わってるけど結構普通だよな」
「変わってねーよ私は全体的に普通だよ」
「自覚しろドライモンスター」
「うるせー馬鹿」
軽い言い合いをしていると影浦が注文を取りに来た。何やってんだよと呆れ顔の影浦を見て、だってこいつがと荒船を指差し不満の声をあげる。
「いーから注文早くしろバカ」
「…初めてくるしよく分かんないからオススメで」
「じゃあ俺も」
「真似すんなばーか」
「あ? なんだと」
「あーあーヤメロバカ! いちいち喧嘩すんな」
よくキレてる影浦には言われたくないなと思いながら、とりあえず黙った。注文を聞いた影浦はちょっと待ってろと告げると厨房の方へ引っ込んでいった。その後ろ姿を見ながら、ふと思う。
「…実家が店やってるってなんかいいよなあ」
「あ? なんだよ急に」
「いやあバイトとかじゃなくさ、こう……んーと…あーなんか分かんなくなったからもういいや」
「途中放棄すんなよ…」
まあでもニュアンスは伝わったようで「分かんなくもねえけど」と影浦が入っていった入り口を荒船も見た。なんかこう、皆が気軽にこうして遊びにこれる家とかって羨ましい。私の家は叔父さんと叔母さんの家を借りてるから人を呼んだことは一度もない。そういえば鳩原の家にも行ったことないな。お互い、あんまり家の話はしなかった。
「………」
「…橘? なんだよ急に黙り込んで」
「え、ああ、いや別に」
鳩原のことを考えて思考に沈んでいると、荒船が目の前で手を振ってきた。意識が浮上して、不思議そうな顔をしている荒船にはとりあえず誤魔化しておいた。鳩原がいなくなってからこういうことが増えた。寂しいんだろうか。
首を傾げていると、影浦が来て材料を焼き始めた。焼いてくれるんだ、と呟いたら「サービスな」と言われた。おお、正直焼き方分かんなかったから助かる。気が利くな。
「………」
「……なんだよ」
ジッと見ていると、影浦は煩わしそうにこちらを見た。いやあ、と呟いて、思ったままを口にする。
「影浦って意外といい旦那になりそう」
「あ゛?」
「ブッ……ゲホッ、ゲホッ」
そうすると、影浦は大層顔を歪めて、荒船は飲んでいた水を噴き出してむせていた。うわ、きったね。
「ゲホッ……何お前影浦んとこに嫁ぐ気なのか」
「止めろよ犬飼がやかましくなんだろーが」
「は? なんでそんな飛躍すんの? ってかなんでそこで犬飼が出てくんの」
「テメーがいい旦那とか言うからだろーが!!」
そう影浦に怒鳴られて、えっと驚く。いやいや、私は影浦に嫁ぎたいとか思ってないよ? あ、ごめんね期待したの? マジかーほんとごめんないわ。と冗談半分で言ったら殴られた。ひどい。か弱い女の子なのに。
「俺の中でたった今お前は女子じゃなくなった」
「なにそれひどい」
「いや橘は女子じゃないだろ」
「荒船おいこらこの野郎」
女子じゃなくなったとかショック。これでも女子なのに。ちゃんと女子扱いしてくれ。というか荒船はなんなんだよ。私はれっきとした女子だよ。女子じゃないってなんなんだよ。
「あ゛〜、クソッ」
影浦が煩わしそうに頭を掻いた。癇癪でも起こしたのかと影浦を見ると、「お前からの感情やっぱり痒い」と言われた。だからなんだそれ。
荒船と影浦の家にお好み焼きを食べに行く