「凩さん凩さん。大規模侵攻の話聞きました?」
「え? ああ、聞いた聞いた。なんかまたでかいのが来るらしいな……ほんとやだよなあ…」
「安定のビビリ」
「安定とか言うなよ」
防衛任務中、私はあまりの暇さに凩さんへそんな話を持ちだした。どうやら最近、迅さんの予見した未来で近界民が侵攻してくるらしい、という話を上層部から伝えられたのだ。いやでも、凩さんではないが確かに近界民が侵攻してくるのは嫌だ。一応、近界民は私の親の敵で、他の人…三輪くん程とかではないにしても私だって多少なりとも近界民は憎い。ただ、無差別に近界民を恨もうとは思わない。聞いた話では近界にも色んな国があるらしいし、今回の国や今玉狛にいる近界民の国が私の敵がどうかなんて分からない。何が言いたいかといえば、嫌だけど、私はいつも通り近界民を撃ち抜くだけだ。
「あ、そういや凩さん。大規模侵攻のとき隊で行動します? それとも私どっかのサポートに回った方がいいですかね?」
「え、それ今決めるのか? うーん…」
私の突然の問いに凩さんは頭を悩ませる。まあ私はどの道誰かのサポートに回んないといけないし悩ませるだけ無駄なのかもしれないけど。まあでも一応凩さんが隊長だし、こういう時くらい凩さんの言う事聞いたっていいかもしれない。
「そうだな……とりあえずは一緒に行動しようか。でも応援要請が入ったり、俺が落とされたりしたら迷わず他の場所に移動しろ」
「おお、隊長っぽい」
「隊長だから!!」
「はは、了解です」
と、呑気にそんな話をしていると、目の前に大きな門が開いた。おっと仕事かと急いでビルの上に登る。まあ時間的にもこの近界民倒し終わったら今日の任務は終わりだろう。…と、思っていたらどうやら違うらしかった。
「………凩さん、もしかしてこれ」
「かもな…」
目の前に広がる、いくつもの門たち。黒く大きな門がいくつも出現しているその様はとても不気味だ。思わず頬を引き攣らせた。
「もう来たのかよ…」
早いなおい。
▽
「やっばいねえ名風ちゃん、凩さんなんか取り込まれちゃったけど」
『諏訪隊の諏訪さんも同じように取り込まれたようです。あちらは風間隊が駆けつけたようですが……こちらはまずいですね』
私はコソコソと建物の影に隠れながら、名風ちゃんと通信で話していた。
あの後現れたトリオン兵を特に手こずるでもなく破壊し、さあ次に行こうとしたその時、中から少し小さい、新型のトリオン兵が現れたのだ。その近界民の硬いこと硬いこと。私の狙撃も凩さんの打撃も効かず、凩さんが新型に捕まり、更には体の中へと取り込まれてしまった。この辺は打ち合わせしてなかった。まさか見捨てて他のサポートに行くわけにもいくまい。というか凩さんがいないと私が困る。
「狙撃手単体で倒せるシロモノじゃないよね、あれ」
『断言はしかねますが……そうですね。見たところ装甲はかなり硬いようですし、アイビスでも傷が付けばいい方だと…』
だよねえと呟いて、そっと影からその辺を屯している新型を盗み見る。アイビスかあ、アイビスといえばあの玉狛の雨取千佳ちゃんだけど、あの子がいれば大砲でズガンと一発やってくれたりしないだろうか。そしたらあの硬い装甲だって……いや、そしたら中の凩さんに危険が及ぶかもしれない。中がどうなっているかもわからないのだ。
「…あーくっそ……どうしよ」
呟いて頭を掻いた時、不意にポン、と後ろから肩を叩かれた。驚いてその手を振り払うように振り向くと、立っていたのは犬飼だった。
「あー、えっと、ごめん驚かせた?」
「…うん。心臓飛び出るかと思った」
「あはは、やっぱりドライモンスターの心臓は氷で出来てんのかなあ」
「脳天撃ち抜くぞコラ」
そんな軽口を叩きながら、つい安心してしまって、私は軽く息を吐き出した。どうやら一人でどうにかしなければいけないという状況に、思ったよりも心をやられていたらしかった。
「…んで、凩さんは?」
「あの新型の腹の中。どうなってんのかも分かんないから迂闊に手が出せない。っていうか硬すぎて狙撃じゃ装甲剥げない」
「えっ、腹!? マジかー…」
犬飼は引き攣った笑みを浮かべて、新型を覗き見た。そういえばこいつ二宮さんや辻くんはどうしたのだろう。
「ん? ああ、近くにいるよ。穂村見つけてひと声かけてからこっち来たから」
「へー…」
二宮さんたちが近くにいるのか。それなら犬飼に応援を呼んでもらうべきだろうか。恐らく二宮さんなら新型も倒せるかもしれない。そう犬飼に頼むと、「そうだね」と笑って頷いた。
犬飼が二宮さんに連絡すると、少しして二人が現れた。二人に今の状況を伝える。
「……そうか、凩が」
「風間隊からの情報によれば、どうやら捕まった人間はキューブになるようです」
「キューブ?」
「恐らくキューブにして自国に持ち帰りやすくするんでしょう。…凩さんも腹の中でキューブになっているはずです」
「マジか……それ強度とかは?」
「今のところ何しても壊れないそうですよ」
なるほど、と頷いて、新型を見る。それだけ硬ければ、中で凩さんがどうにかなる可能性は薄いだろう。問題はあの装甲だ。
「…二宮さん」
「分かってる。あの装甲を剥げば良いんだろう」
「はい、どうも」
正直二宮さんは最近私のことをしつこくドライモンスターだと言ってくるのであまり話したくなかったのだが、そうも言っていられない。
こうなったら、うちの隊長のために共闘しなければ。
凩さんを救え