『穂村! 戻ったよ!』

 人型近界民を探しつつ雑魚近界民を片付けたり新型を相手にしているB級隊員たちの援護をしたりしていたら、インカムにそんな凩さんの声が聞こえた。うわあはっやと思いつつ「トリオンキューブになってた凩さんご機嫌如何ですか」ととりあえず嫌味を言ってみた。凩さんがインカム越しで苦笑したのが分かった。悪かったよ、と謝罪の声に「焼き肉奢ってくださいね」と容赦無い言葉を浴びせてやる。凩さんははいはいと頷くと、私と合流するために今いる場所を聞いてきた。

「えー、あーえーと。ここどこだ。っていうか名風ちゃんに聞いてくださいよ。放棄地区のことはよく分かんないです」

 そう文句をたれると、『ごめんごめん』と宥めるように言われた。私の元々の家も放棄地区にあるけど、この辺りのことはよく分からない。結構放棄地区の規模も大きいようだ。

 しばらくして凩さんと無事合流した。当たり前だけど普通にトリオン体で、別にキューブにされたからといってトリオン体が破壊されるわけではないのか、と改めて納得する。どうやら一番にキューブにされた諏訪さんも戻ったらしく、本部に突っ込んできた人型近界民と交戦したらしい。

「え、人型近界民?」
「うん、俺もちょこっとサポートしてから来たよ。人型近界民倒したあとに仲間がトリガーを回収しに来て、その近界民自体は殺されちゃってたんだけど」

 怖かった、と苦笑する凩さんに、思わず顔を歪めた。うわあ、殺されたの? 仲間に? 怖いな。結構近界民ってシビアなのかな。っていうか死んじゃったのか。その近界民には話聞けなさそうだ。

「うーん…」
「どうした?」
「いやあ、私人型近界民に会いたいんですけどね? ほら、もしかしたら鳩原の事とか聞けるかもしれないですし」
「えっ、人型近界民に…?」

 凩さんが嫌そうに顔を歪めた。凩さんは強いくせにビビリだから、人型近界民には会いたくないとか思ってるんだろう。太刀川さんとかめっちゃ人型近界民と戦いたそうだったのに。どうしてこうも同い年で違うのだろうか。と呟いたら「太刀川と一緒にするなよ」と言われた。いやまあ、確かに。あの人は特殊か。

「うーん、人型より新型倒しに行かないか? 俺みたいに捕まっちゃうやつ出てきたら大変だし」
「えー……うーん……まあ…そうですね」

 私みたいに隊長が捕まると身動きがとれなくなるところも出てくるだろうしと、私は渋々頷いた。あ、でもさっきから本部長が「玉狛の掩護に回れ」って言ってるんだよな。そっちはどうしよう。

「えっ、じゃあそっち行くか…?」
「どっちなんですか」

 結局、新型を倒しに行くことになった。


 ▽


 その後、私達は協力して何体かの新型を撃破した。今度はキューブにならないんですね、と言うと凩さんが苦笑して「流石になあ」と返してきた。いや今の怒ってもいいところなんじゃ。沸点高すぎないかウチの隊長。

「なんかコツが分かってきたような気がする」
「マジすかさっすが凩さんー初っ端から離脱したくせにー」
「あーもう悪かったって言ってるだろー!」

 いつものように会話をしながら、ちらほらと見かける普通のトリオン兵も倒していく。普通のトリオン兵は市街地に向かっているらしい。新型もあまり見かけなくなってきたし、市街地の防衛に入ったほうが良いかもしれない。凩さんにその旨を伝えると同意が返ってきたので、片っ端から近界民を倒しながら移動した。
 そうして市街地に出て行こうとする近界民を倒していっていると、さっきまでどんよりと曇って真っ暗だった空が急に晴れた。近界民の目のような場所を狙って一発撃ってから、顔を上げた。

「…晴れた?」

 凩さんがこの辺りの最後の一体を片付けたようで、『終わったのかな』と通信で話しかけてきた。だったら良いんですけど、と呟いて息を吐いた。

 暫くして、近界民は撤退していったと全体に連絡が入った。通信室のオペレーターの方に死者を何名か出したようだが民間人の方には死者は出ず、重軽傷者がそれぞれ何名か出たらしい。C級も何人か攫われたようだ。しかし、これでも被害は少なく済んだ方だと思う。民間人が死ななかっただけいくらかマシだ。

「そういえば穂村、家の方は大丈夫なのか?」

 凩さんが作戦室に戻る途中、ふとそんなことを聞いてきた。聞かれてようやく叔父さんと叔母さんのことを思い出した私は、慌てて電話をかけた。

「…あ、もしもし叔父さん。えっと…」
『穂村ちゃん、すぐに病院に……家内が…!』
「…え」

 慌てている様子の叔父さんをなだめて、簡単に事情を聞く。どうやら報告のあった重傷者の中に叔母さんも入っていたようだ。今すぐに行く旨を伝え、電話を切る。

「凩さんすみません、叔母が病院に運ばれたらしくて、ちょっと行ってきます」
「えっ、う、うん、気を付けろよ!」
「はい」

 凩さんの声を後ろに、小走りで病院まで向かった。

「(…まただ)」

 また、身内の顔なんて思い浮かばなかった。叔父さんと叔母さんは警戒区域からそこそこ近い位置に住んでいたから、こうなることだってありえたのに。考えればわかるはずだったのに。

「(凩さんに言われるまで、電話なんて考えもしなかったな)」

 きっと言われなければ、叔父さんから電話が掛かって来るまで連絡なんてしなかっただろう。父さんと母さんの時もそうだった。一人で逃げて、逃げ切るまで、頭にも浮かばなかったんだ。

「(なんにも変わってない)」

 成長しているのは、きっと上辺だけだ。

変われていない

SANDGLASS