ぽー様 名無しタロー様リクエスト
※犬飼がなんか女々しい※


犬飼side

「穂村ーっ! おはようっ!」
「………」
「そのうっわうるせえの来た≠ンたいな目やめない!?」
「いやだって朝からうるせえ…」

 相変わらずのドライな対応にブーブーと文句を垂れつつ、俺は穂村に後ろから抱きついてみる。以前なら思い切り肘鉄が飛んできていただろうが、最近はない。これでも進歩してきているという証拠だろうか。
 俺と穂村が付き合い始めたのは、一週間ほど前からのことだ。周りは驚きつつも祝福してくれたし(多分俺が漸く報われたからだと思う)、穂村の態度もほんの気持ちだけ、柔らかくなった気もしなくもない。まあその辺は俺も好きで告白したわけだから、治してもらう気はサラサラない。ただまあ、恋人らしいことをしたい願望くらいなら、人並みにあったりはする。
 今日は日曜日で、朝から本部に顔を出していた。俺も穂村も、お互いに自隊の隊長に呼ばれたからだ。多分防衛任務か何かだろう。

「歩きにくいんだけど犬飼」
「『澄晴(はぁと)』って可愛く呼んでくれたら放してあげ…グェッ」
「調子に乗るなよ駄犬が」

 ああ……余計なこと言わなきゃよかった。
 肘鉄を食らってしまった俺はそう後悔しながらさっさと進んでいく穂村の名前を呼んで、慌てて追いかける。ううむ、ドライモンスター絶好調。

「穂村って低血圧だよねー」
「寝起き機嫌いい奴の気が知れない」
「俺機嫌いいよ!」
「気が知れんわー」
「うわあ本気で引いてる」

 すごいドン引いてる。いやほらね、皆が皆低血圧なわけじゃないからね? おーい穂村聞いてる? おーい。

「あ、橘、と犬飼」
「あ、凩さん」
「こんにちはー凩さん。というか俺はついでですか」
「え、いやそういうつもりじゃなかったんだけど」

 そんなやりとりをしていると、凩さんと出会した。凩さんは穂村の所属している隊の隊長で、穂村曰くヘタレでお人好しの見かけによらず馬鹿な人らしい。自分の隊の隊長をよくもそこまで貶せるなあと感心した記憶がある。俺は二宮さんをそんなふうには言えない。怖すぎる。
 俺の軽口に苦笑をもらす凩さんは多分とてもいい人だ。今のは怒っていいところだったろうに。

「丁度良かった、二人に用があったんだ」
「はあ、用があるって言われたから来たんですけどね」
「いや、うん…そうなんだけどね。その用がなくなったっていう用なんだけど」
「はあ?」

 穂村が不機嫌そうに眉を寄せる。うわ、と俺は驚いて穂村から少し離れる。凩さんはこれに慣れているのか、いつものように苦笑するだけで怯えた様子はない。…なんか悔しい。

「というか二人にってことは犬飼も?」
「ああ、そう、うん。実は急に隊長に収集かかって。二宮は先に行かなきゃいけなかったから、俺が犬飼にも伝えとくって話になってね」
「ふーん…」

 穂村は変わらず不機嫌そうだ。凩さんはやっぱり困ったように笑ったまま、ごめん、と手を合わせた。

「朝から呼び出しといてごめんな。今日はもう帰っていいし、またなんか別にお詫びするから」

 別に凩さんが悪いわけでもないのに、本当に申し訳なさそうに謝ってくる。だけど今は穂村の機嫌が悪いからどうだろう、と俺は恐る恐る穂村の顔を覗き見た。

「……え」
「はあ、しょうがないですね。じゃあ今度駅前のケーキ屋のバウムクーヘン買ってきてください」
「ははは、好きだなあそれ。いいよ、分かった。あ、名風も呼び出しちゃってるから伝えといて。あとなにかほしいものあるか聞いといてくれ」
「はいはい」

 凩さんは俺にも二宮隊のメンバーに伝えとくよう言い残すと、走って来た道を戻っていった。だけど俺はそんな凩さんには反応できず、穂村を見て立ち尽くしていた。

「はあ……ったく凩さんはしょうがないな」
「(……笑ってる)」

 呆れつつも、穂村は笑っていた。俺に対しては鬱陶しそうにするだけで全く笑ってもくれなかったのに、凩さんに対しては笑っている。いや、分かっている。凩さんは年上だし隊長だし、俺とは違う。凩さんは穂村の中で、恋人の俺とはまた違う特別な存在だ。強いて言うなら、家族みたいな。分かっている。だけど。でも。

「あー用もなくなったし、これからどっか…犬飼?」
「………」

 なんか、悔しい。

「犬飼? どうか…うわっ!」

 穂村に抱き着く。もう肘鉄とかされても気にしない。べつに、慣れてるし。

「ちょ、何す…」
「凩さんが穂村の特別なのは分かってるよ」
「…は?」
「でもさ、でも……なんか、さっきみたいなのは悔しいし、俺にもちょっとくらい笑って欲しいし、構ってほしいよ」
「…何言って…」
「俺も、穂村の特別になりたい」

 穂村に告白して、OKをもらって、彼氏っていう肩書は手に入れた。だけど手に入れただけで、実感なんて全然わかなくて。穂村に変わって欲しいわけじゃないけど、やっぱり少しくらい特別感がほしい。凩さんみたいな、凩さんとは違う特別≠ェほしい。
 しばらくそうして穂村に抱き着いていると、「あー」となんだか罰の悪そうな穂村の声が聞こえた。

「態度のこととかは、まあ……その、寝起きとはいえ悪かったとは思ってるよ」
「……うん」
「多分犬飼はどれだけ冷たくしても嫌わないでいてくれるっていう安心感?みたいなのがあったんだと思う。いや……ごめん、甘えてた。知ってるだろうけど人の気持ち汲み取るのが苦手で」
「…、え」
「えっと……その、心配しなくとも犬飼はちゃんと特別…というか。というかまあ、恋人だし、うん。えっと」

 珍しく戸惑っている穂村にも、その言葉にも驚いた。穂村が、俺に甘えていた?

「…っ、本当!?」
「…!? は!?」
「穂村、俺に甘えてたの!?」
「え、あー、うん? 多分?」
「わっかりづらい!! でも好き!!」
「何これ喧嘩売られてるのか告白されてるのか分からない」

 叫びながら再度抱き着くと、どこか冷静な穂村の声が耳元で聞こえた。喧嘩なんか売ってないよ、可愛い彼女にそんなことするわけないじゃないか。

「…えーっと、機嫌治ったの?」
「まだちょっと治ってないからしばらくこのまま」
「調子に乗るな」
「いてっ」

 ゴンッと頭を殴られて、渋々離れる。やっぱり穂村は冷たいな、と殴られた頭を抑えながら穂村の方を見ると、髪から覗く両耳が、赤く染まっていて。

「えへへへへ」
「なに気持ち悪い」
「何でもないー」
「意味分からん」

 凩さんがいくら穂村にとって特別でも、穂村が一番甘えられるのが俺の前なら、それでいいかな、なんて思った。

犬飼と恋仲になる

SANDGLASS