愛読者c辺り様リクエスト
※辻くんが泣いてます※夢主が凄い悪役感※


『ごめん、ちょっと遅れる』
『俺も! ごめん!』

 鳩原と犬飼とのグループラインに、そんなメッセージが入った。今日は休日で、私もあの二人も防衛任務が午前だけで午後はフリーだからということで三人で遊びに行く予定だった。防衛任務が七時から十一時までだったので、じゃあお昼も一緒に食べようかとラウンジに十二時の待ち合わせだった。私のところはきっちり十一時に任務を終え、その後の報告やその他諸々を全て終えても十一時半には暇が出来た。雑務をすべて終えて、時間まで作戦室でダラダラと凩さんや名風ちゃんと駄弁っていたら時間の十分前になったので作戦室を出た。そうして、ラウンジに着きどこにいるのか確認しようとした矢先のこの連絡である。二人揃って遅れるということは二宮隊で何かあったのだろうか、とその考えを改めることになったのは、ラウンジの休憩スペースに座っている辻くんを見つけたからだった。おや、と首を傾げる。どうやら二宮隊で何かあったわけではないようだ。私は少し考えて、辻くんに近付いた。宿題なのか、勉強しているようだ。

「つーじーくん」

 そう声を掛けると、声で女の人だと分かったのかびくりと肩を震わせて、しかし改めて私の姿を確認すると思いっきり、遠慮なしに、とっても嫌そうに顔を歪めた。うっわあ。

「はっ倒すぞクソガキ」
「何か用ですか用なら早くしてください」

 こいつ、と額に青筋を浮かべながら私は嫌がらせのつもりで辻くんの前の席に座った。嫌そうに眉間のシワを濃くする辻くんはなんというか、ちょっとくらい嘘を吐けないのか。もうちょっと本音と建前を持ったほうがいいよ。社会でやっていけないよ? とそう言うと「貴方には言われたくないです」と言われた。何だとこの前面接練習したら先生に「別人みたいだな」って言われたんだぞ。建前なんぞ余裕だわ。
 何だかこの前焼肉屋で話してから逃げられることはなくなったものの、こうして嫌そうな顔をされることが増えた気がする。多分、私の苦手要素が女の人≠セということだけでなく、他に諸々理由があるからなのだと思う。私に気持ちを察せられるって相当だと思う隠したほうがいいよ。

「それで、なんなんですか」
「ああそうだった。あのさ、鳩原と犬飼と遊ぶ約束してたんだけどちょっと遅れるってライン来てさ。二宮隊でなんかあったのかと思ってたら辻くんがここにいたから」

 そう説明すると、辻くんは少し眉間のシワを薄くして、「ああ」と頷いた。それなら、と言葉を続けた辻くんの話を聞く。

「二人とも今度の遠征のことで二宮さんに呼ばれてましたよ」
「遠征のことで? ふーん……なんで辻くんは呼ばれてないの? 行かないわけじゃないでしょ?」
「行くに決まってるでしょう。二人共、今年は受験生ですし、色々心配してるようで、あの二人が呼び出されたんです」
「あー、なるほど。確かに今長期で遠征行くのはキツイかもね。色々あるのか」
「そうですね。まあ大目には見てもらえるんでしょうけど」

 そういえば鳩原が遠征に行けると喜んでいたな、と思い至って納得した。しかし二宮さんも心配性だ。あの二人はそこそこ成績も優秀で真面目な方だし太刀川さんだって大学生になれたのだから大丈夫に決まっているのに。まあ太刀川さんはボーダー推薦っていうずるい手を使ったんだと凩さんが言ってたけど。凩さんは自力で行ったらしい。馬鹿なのに頑張ったんですね、とからかうつもりで言ったら「ボーダー推薦は太刀川に譲ってくれって忍田さんに頼まれて…」と死んだような顔をしていた。うわあ。太刀川さんすごいな。
 思い出して感心しつつ、そのままその場にとどまっていると、辻くんがまた顔を歪めて私を見た。

「いつまでいる気なんですか」
「もうそろそろ立ち去ろうと思ってたけどそんな反応されたら残らないとなあって使命感が」
「そんな使命どこにもないんでさっさとどっか行ってください」
「まあまあ遠慮せずにさあ、勉強してるんでしょ? センパイが教えてあげるよ」
「いらないですホントにいらないです。どっか行ってください」
「拒否されると突っつきたくなる人間の真理だよね」
「そんな真理はどこにもありませんあっち行け」
「敬語取るなよおい。っていうかどの道待ち合わせここだしさあ、ね。それに辻くんここ間違ってるし」
「えっ」

 そう言ってずっと気になっていたところを指せば、辻くんは驚いた顔をしてそこを確認した。そこの計算ミス、と教えてあげれば額を抑えて絶句していた。

「あはは、どうだよ苦手な先輩にミス指摘されるとか。ねえどんな気分?」
「泣きたい気分です」
「あっははだよね。私も太刀川さんにミス指摘されたら死にたくなるレベルだもん」
「太刀川さん苦手なんですか」
「いやあ苦手だね。馬鹿なくせに読めないところが」

 一回やったことあるけど狙いにくいったらないね、と呟くと、「橘先輩に苦手なものなんかあるんですね」と失礼なのかそうでもないのかよく分からないことを言われた。いやでも多分嫌味だから失礼な部類に入る。
 それからしばらく辻くんが問題を解いていくのを眺めて、最後の問題を解き終えるのを待ってから口を開いた。

「…辻くん」
「…なんですか」
「辻くんって計算ミス多いね」
「え」
「こことここと……あとここも」
「気付いてたんならそこで教えて下さいよ…!」
「いやあだってねー、辻くん生意気だし意地悪したくなって」
「絡んでくるあんたが悪いんでしょう」

 文句を言いながら間違えた箇所を確認して直していく辻くんにあははと笑う。悪いね、だって辻くんあまりにも正直に感情を出してくるからさ。面白いんだよ。

「辻くんテストとかは平気なの?」
「心配されなくとも見直ししてます」
「ふーん」

 そこで言葉を切って、黙り込む。うーん、話すことないなあ。辻くんはあくまでも私をいないことにしたいらしく、黙々と勉強に打ち込んでいる。俯いていて顔は見えないが多分無心で問題を解いているんだろう。まあ話しかけたら答えてくれる辺り良い子さは抜けないんだろうけど…

「…辻くんってさあ、女の子苦手なんでしょ」
「…そうですが」
「それってさあ、結構不便じゃない?」
「………」
「だってランク戦とかさ、女の子がいるチームに当たったら不利じゃん? その辺どうなの? まだ女の子がいるチームってあんまり多くないけど多分この先増えてくるよ?」
「………」

 辻くんは何も言わない。あれ? と首を傾げつつ、まあいいかと言葉を続けた。

「なんか女が苦手とかって理由で負けたら二宮さん怒りそうだよね。そういう意味では苦手を克服しといたほうがいいんじゃないの? せめて戦闘員とかだけでもさあ」
「……なたに、……れな、とも」
「え?」
「あなたにっ……言われなくとも分かってます…っ」
「…!?」

 少し上がった辻くんの顔を見て、私は思わずギョッとする。え、は? ちょっと待って、泣いてるんですけど。ボロボロと子供のように涙を流す辻くんは、見ていて痛ましい。どっからどう見たって私が悪役だ。

「よ、余計なお世話なんですよ…っ うっ、うぅ…」
「えええ、ちょ、え、辻くん?」
「………穂村?」

 辻くんの号泣に柄にもなくあたふたとしていれば、ふと聞き慣れた声が私の名前を呼んだ。うわ、と口には出さず、声の方を見る。そこにいたのは予想した通り、犬飼と鳩原で、私は思わず額を抑えた。

「え!? なんで辻ちゃん泣いてんの!?」
「え……いや、さあ…」
「もーどうせ穂村がなんかデリカシーのないこと言ったんでしょ!?」
「失礼な、そんなこと……うーん、あるのか…?」
「あるんだ…」
「辻ちゃん大丈夫? よーしよし怖かったねー」

 泣きやまない辻くんをあやすように犬飼がそう声をかける。いや多分私が悪いからいいんだけど怖かったねーは何なんだよ。怖かったの? え? 割と私も傷ついてるよ。

「何言ったの?」
「いや……あんまり態度が冷たいからイラッとして辻くんの女の子嫌いについて言及したら泣き出した」
「あー…」

 「穂村が悪いね」と鳩原にまで言われてしまい、少し反省する。いやでもだってまさか泣くとは思わないじゃないか。精々ちょっと怒られるくらいかなって。
 なんだか周りがザワザワし始める。なんだ、と顔を上げて辺りを見渡すと、周りにいたボーダー隊員たちがヒソヒソと何かを話しながらこちらを見ている。

「何あれ?」
「またドライモンスターが誰か泣かせたって」
「またかー」
「流石ドライモンスター」

 耳を済ませるとそんな声が聞こえてきて、ついつい反論したくなる。いや、またってか泣かせたのは初めてなんですけど! あとやめてよそのドライモンスターって! なんなんだよそのあだ名は!!

 その日、噂はあっという間にボーダー内全体に広がり、「橘穂村は心のないドライモンスター」だという認識が改めて刻まれた。

辻くんをいじめてとにかく泣かせる話

SANDGLASS