あき様リクエスト
※暗い※
鳩原が失踪したという知らせを聞いてすぐ、上層部に呼び出された。なんだろう、と思って行ってみると、二宮隊、風間隊、そして凩さんが揃って座って待っていた。驚いて、その場に立ち尽くした。だけど驚く暇も満足に与えられないまま、私は鳩原が近界へ行ったことを聞かされた。その他にも、鳩原が民間人にトリガーを横流ししただとか、私の知っている鳩原からはおおよそ結びつかないようなことを聞かされた。風間隊は違反者捕縛の追手としてここにいるらしい。違反者、と繰り返して、閉口する。
目の前の人たちが何を言っているのか、全く、一つだって理解できなかった。
「……それで……私になにを、聞きたいんですか?」
何も理解できていないまま、私は問うた。いや、全て理解は終えていたし、聞きたいこともなんとなく、分かっていた。何もかもを認めたくなかった。
「単刀直入に聞こう。橘隊員、君は鳩原未来から何か聞いていたんじゃないのか?」
城戸司令が、探るような目つきと口調でそう聞いてきた。おおよそ思っていた通りの問いだった。そんなの知るわけないじゃないか、と喚き散らしたい気分だった。だけどそれも一周回って、どこか冷静な部分も、頭のどこかにあった。
「なにも、聞いていません」
「証拠は?」
「私がなにか知っているという証拠はあるんですか?」
「君は鳩原未来の親友だったと聞いているが」
「なにも」
「…、」
「なにも、聞いていないんです」
凩さんの心配しているような顔が、二宮さんの疑っているような目つきが、風間さんの感情のない目が、何もかも鬱陶しく感じた。鳩原から、私は何も聞いていない。鳩原にとって、私は何も話せないような存在だった。
「…結局、聞いていない証拠はないのか」
「っおい、二宮!」
「うるさい凩。今俺はこいつに聞いてる」
二宮さんの射抜くような目つきに、私は吐き気がした。頭が痛い。なんなんだ、私にはショックを受ける暇もないのか。なんなんだよ。
「橘、無理して答えなくていい。大丈夫か?」
「凩、お前が決めることじゃないだろ」
「橘は俺の隊の隊員だぞ」
二人の言い合いが、どこか遠くに聞こえた。うるさい、と呟いた声は掠れて、声にならなかった。私は鳩原から何も聞いていないし、言われてない。鳩原が近界に行ったというのも、未だに呑み込めていないし信じられない。ああ、本当に。
「鳩原が、私に何か言ってくれていたら、それならどれだけ良かったか」
はっきりと、自分の声が耳に届く。そうして、私は意識を失った。
▽
目を覚ますと、そこは医務室だった。起き上がって額を抑えた。なんとなく、意識を失う前のことを思い出して、溜息を吐き出した。
「あ、穂村。起きた?」
「…犬飼」
「鳩ちゃんの事で尋問されてる最中に倒れたの、覚えてる?」
「覚えてる。あれやっぱり尋問だったんだ」
どこか他人事のようにそう呟くと、犬飼が苦笑した。ごめんね、と謝ってきた犬飼に少し笑う。なんで犬飼が謝るんだか。
「あの程度で倒れるとかそんな軟弱じゃないつもりだったんだけど」
「いやいや、十分でしょ。精神的負担がハンパじゃなかったはずだけど」
「…うーん、まあ」
そうだね、と、やっぱり他人事のように呟いた。犬飼は眉を下げて、ベッドの隣にあった椅子に座った。
「凩さんが怒ってたよ。なんてことするんだって」
「…はは、別に怒らなくてもいいのに。そりゃあ本部側からしたら私は怪しいよね」
実際は何も知らされていなかったわけだけど。そう呟くと、犬飼は困ったような顔をした。ごめん、と謝って、顔を背ける。きっと二宮隊も上層部に疑われたに決まっている。二宮隊も私と同じく何も知らされずに、置いて行かれた。鳩原は本当に、ボーダーには何も伝えずに行ってしまったのだ。
「……私と鳩原ってさ」
「……、」
「本当に、親友…だったのかな」
呟いた、途端。犬飼が、私の頭を思いっきり叩いた。
「っ!?」
柄にもなく驚いて、目を見開いて犬飼を見る。なんだか今日一番、泣きそうな顔をしていた。
「親友だったよ」
「…、」
「二人は、俺が嫉妬するくらいの親友だったよ」
だからそんなこと言わないでよ、と泣きそうな声で言われて、黙り込む。犬飼の頭が、私の肩にもたれかかってきた。
「…鳩ちゃんは優しくて臆病だからさ、多分言えなかっただけだよ。穂村を信用してなかったとかそんなんじゃない」
自分に言い聞かせるような言葉だった。うん、と頷いて、グッと奥歯を噛み締めた。本当にそうだろうか、なんて、口には出さないけど、思う。本当に優しさで言わなかったのか、それとも、単に私が相談するに値しない存在だっただけじゃないのか。そんな卑屈な考えも頭に浮かぶ。
「…もう分かんないよ」
呟いて、目を閉じた。
鳩原の失踪後すぐに事実を知らされていたら