miumiu様リクエスト
※キャラがあんまり出てこない※ちょっと暗い※
穂村がドライモンスターになった理由みたいなもの


 人の心が分からない、なんて、ボーダーに入るまで思ったことはなかったし、言われたこともなかった。

 私は元々、冷たい&迫゙に入る人間だった。冷めてるよね、とは友人からよく言われていたし、私もそれは自覚していた。だけど「人の心が分からない」なんて、そんなことはボーダーに入るまで言われたことはなかったし、自分でも思ったことはなかった。ドライモンスターというあだ名は、恐らくボーダー内で脳天を狙っていくスタイルがあまり確立していなかった頃、私が率先してそれをやっていた数少ない人間だったからついたものだ。きっと言い出したのは当真とかその辺りで、誰でも良かったのだ。多分。私をからかうネタが欲しかっただとか、多分その辺のくだらない理由だ。当真に確かめたことはないけど、恐らくそうなのだと思う。だってその頃から狙撃手として実力を伸ばしてきていた当真が流した噂なら、信憑性も高いだろうし、皆も信じてしまってもおかしくないだろうから。いや、まあそれはいい。問題はその後、いつからか噂が脳天を容赦なく狙うドライモンスター≠ゥら人の心が分からないドライモンスター≠ノなったことだ。本来なら消えてしまってもおかしくない噂のはずだった。だってその後、脳天を狙っていくスタイルは珍しくもなくなっていったのだから。なのに、そこから噂が変化して、まさかあんな事になるなんて思わない。そもそも人の心が分からないなんて、私からすれば不本意すぎる噂だし、あまり気持ちのいいものでもない。だけどボーダーに入ってから、私は皆の言うとおり人の心が分かっていないのかもしれない、と思うことは何度かあった。あまり自覚はなかったのだけど、多分両親が死んでしまってから一年くらい経ってそれが顕著になってきていた、と思う。だって私は元々『冷たい』人間ではあったけど、『人の気持ちが分かっていない』なんてことはなかったのだから。


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「穂村は? 将来の夢とか決めた?」

 中学二年生、侵攻が起こる少し前のことだ。友人たちが集まって、将来の夢について話していた。どこか意識も半分に聞いていた私は少し驚いて、うーん、と考える仕草を見せた。まだあまり、考えたことのない話だった。だって自立なんてまだ先のことだし、少なくとも私は大学生になるまでは親に甘えているつもりでいた。将来の夢なんてその内ふわふわと決まっていくものだ、とどこか楽観的に考えていた。
 私はしばらく考えて、とりあえず適当に返すことにした。

「うーん、そうだね。まあ平々凡々に、そこそこ格好良くて明るいコミュ力の高い人と結婚して幸せな家庭でも作ろうかな」
「あっはは、ちょっと、そこそこ格好良くて明るいコミュ力の高い奴なんてそうそう転がってないから!」
「いや、絶対転がってるね」
「何その根拠」
「うーん、未来予知的な? あれだ、予知夢見た」
「適当!」

 あはは、と友人たちの笑い声を聞きながら、私も笑っていた。かけがえのない、楽しくて大切な時間だった。

「あ、そういえば今月号の漫画見た? めっちゃ切なくない?」
「あ、見たー! アラシくんがチホのこと思って身を引いちゃうところとかさ、ホント切なすぎ!」

 今度は友人たちが今月出た漫画雑誌の話をしはじめた。今女の子の間で流行っている少女漫画の話だ。アラシくんは優しくてどこか遠慮しがちな性格の男の子で、その紳士的な態度から女の子にとても人気がある。ヒロインのチホのことを何よりも一番に考え行動するところがポイントが高いものの、今回はそれが仇となって二人の関係にヒビが入ってしまいそうだ。私も一話から読んでいるが、ここで引いてしまうのはとても悲しい。

「アラシくんがチホを本当に思うなら、最終的にチホを選ばないといけないんだよね」

 少女漫画だし、選ぶ、という確信はある。だって選ばなければいけない。アラシくんはチホが大好きなのだから。チホにとって何が一番いいかなんて、アラシくんの隣にいることに決まっている。そんなの考えなくたって分かる人の気持ちだ。

「ねーちょっとトイレ行こー」

 一人の子がそう言った。すると皆ぞろぞろと立ち上がって教室を出ていく。私も当然のように立ち上がってそれについていく。五人くらいの集団でトイレに向かう光景は異様かもしれないが、それが日常だった。行きたくなくてもついていくものだ、という集団心理みたいなものだろうか。

「でさー、そこで私が…わっ」
「っ、」

 話しながら歩いていると、前から歩いてきていた女の子とぶつかってしまった。ごめん、と咄嗟に謝って、女の子の顔を見る。肩までくらいの黒髪に、そばかすの特徴的な女の子だった。

「……、」
「えっと…ごめんなさい」

 女の子は謝って、さっさと歩いて行く。私は少し固まっていたが、友人たちの呼び掛けにすぐに我に返って後を追いかけた。

 大規模侵攻があったのは、それから暫くしてからのことだった。いつものように学校にきて、友人たちとくだらないことを駄弁っていた。急に地面が揺れ出して、周りに黒い丸のようなものがいくつも現れた。そこから見たこともない化物が出てきた私のその時の心境なんて、もう覚えていない。
 友人とか家族のこととか、全く考えずに夢中で逃げた。頭の中に少しも浮かばなかった。シェルターに逃げ切ってからようやく、周りのことを思い出した。友人たちもお父さんもお母さんも、辺りを見渡しても見つけることができなかった。

「………ぁ」

 そこでようやく、自分のことしか考えていなかったことに気付いた。考えていたら何か変わっていたかもしれない、というのは結局のところ結果論だけど、考えずにはいられなかった。皆、我先にと逃げていった私を見て、どう思っただろう。連絡の一つもしなかった、考えもしなかった娘を、二人はどう思っただろう。分からない。分かりたくなかった。
 だって仕方がなかった。怖かった。だって、だって。人のことなんて考えていられなかった。

「(…考えたくない)」

 だって怖いんだ。知らないほうがいい。


 ▽


「ねー、今度はチホがアラシくんのためにって身を引いてるんだけど!」

 国近ちゃんが雑誌を片手にそう叫んだ。今日は国近ちゃんに誘われて、鳩原と、風間隊の三上ちゃんと一緒にボーダーの食堂でお昼をとっていた。お昼を食べ終えた国近ちゃんは何やら見覚えのある雑誌を読んでいたのだが、なるほどその漫画だったのか。まだ続いていたんだな、と頭の片隅で考えて、中学の頃を思い出した。友達とその漫画についていろいろ話していた気がするけど、どんな話をしていただろうか。もう漫画の内容もうろ覚えだ。

「なんだっけ、アラシくんはドエスの俺様なんだっけ。私俺様苦手なんだよね。なんか殴りたくなる」
「違うよ〜、アラシくんは優しくて紳士的な凩さんみたいな人だよ! 穂村ちゃんはこれ読んだことないの?」
「いや、あるんだけどね。中学の時以来読んでなくて内容忘れちゃってる。っていうか凩さんは優しいけどお人好しなだけで紳士じゃないよ」
「そこの訂正はいいの」

 ばっさり国近ちゃんに切られて、思わずすみませんと謝る。いや、だって自隊の隊長の認識がずれてたら訂正したくならない? 国近ちゃんだったら太刀川さんが「強くて格好良いダンディな大学生」とか言われてたら訂正したくなるでしょ? それと同じだよ。

「そうじゃなくて、今はチホとアラシくんなの!」
「あーうん、分かった分かった。なんかそんな名前のヒーローとヒロインだった気がする、うん。それでその二人がなんだって?」
「あのね、アラシくんのことを狙う超お金持ちな美少女が現れてね、チホが「アラシくんにはあの子のほうがいい」って言って離れていこうとしてるの!」
「…ふーん?」

 よく分からずに、首を傾げた。隣で鳩原が苦笑している。三上ちゃんは「切ないですよね」なんて国近ちゃんに同調しているがよく分からない。

「好きなら好きでいればいいじゃん。まあアラシのほうがお金持ち美少女に靡かないとも限らないけど」
「靡かないよ! だってアラシくんはチホのこと好きだもん!」
「えーでもさ、チホより何倍もいい物件だよ? 逆にアラシはなんでいかないの」
「だからぁ、」
「く、国近さん、穂村にこういう話で同意を求めないほうが…」

 隣で鳩原がそう言って国近ちゃんを宥めた。どうやら私はまた間違えたらしい。うーん、分からん。だって絶対平凡なチホよりお金持ち美少女のほうがいいのに。

「橘先輩はこういうお話はあんまり読まないんですか?」

 三上ちゃんが首を傾げて聞いてきた。うーん、と首を捻る。

「いやー、中学までは読んでたし読めてたような……最近全然読んでないからかな、なんか読めなくなったっぽい。恋愛小説とかもあんまり読まないしなあ」
「? そうなんですか」
「もー、ちょっとくらい読めばいいのにー」
「うーんまあそのうちね」

 ぶーぶーと文句を垂れる国近ちゃんを宥めて、私は食べ終わった食器を片付けるために立ち上がった。

夢主の過去話

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