miumiu様リクエスト
※イニシャルKで名前を変換されている方は少し違和感があるかもしれません。すみません※


「橘さんがイニシャルKだったら良かったのに」

 加古さんが、俺の反応を楽しむようにそう言った。綺麗で妖艶な顔にじっと見られて、思わず少し頬が赤くなる。「美人に見つめられると照れちゃうからあんまり見ないで」と伝えると、加古さんはきょとんとした顔をして、ふ、と溢れるような笑みを浮かべた。

「凩くんは天然タラシね」
「えっ」
「良いと思うけどあんまり言わないほうが良いかもしれないわね」

 何を言われているのかよく分からなかったが、とりあえず笑っておく。昔からよく分からないことは二宮に助けてもらうか、笑って切り抜けてきた。だからお前は馬鹿なんだと二宮によく言われるがまあこれは仕方ないと思っておく。だってよく分からないんだ。どうしようもない。
 そんな俺に加古さんはまだ何か言いたげだったが、「それで」と首を少し、傾げてみせた。

「橘さんがイニシャルKだったら良かったのに、って言ったのだけど」

 先程の台詞を、加古さんはもう一度繰り返した。俺は思わず苦笑する。

「穂村はイニシャルKじゃないからしょうがないね」

 つまらない返しだ、と自分でそう思う。だけど加古さんはそうは思わなかったようで「あら」と笑みを深くした。綺麗だけど、怖い感じがする。綺麗な薔薇には棘がある、って言葉がぴったりだ。

「もし彼女がイニシャルKだったら勧誘しても良かったの?」
「うーん、まあ、勧誘は個人の自由だよね。了承するかどうかは本人次第だけど、俺はあんまりいい気しないなあ」
「あらそう? ごめんなさいね」
「え、いやいや、実際に勧誘したわけじゃないし」

 殊勝な態度で謝ってくる加古さんに慌てて手を横に振ると、隣でバン、とテーブルを叩く音がした。驚いてそちらを見る。

「凩、そいつの話は耳半分に聞いておいたほうがいいぞ」
「…え、でも」
「あら失礼ね二宮くん。私にも、真剣に聞いてくれてる凩くんにも」
「うるさい。凩の反応を見て面白がっているだけだろうお前は。冗談ばっかり言いやがって」
「嫌ね、そんなことないわよ。私は本当のことしか言っていないわよ?」
「どうだかな」
「あああ、ええっと」

 いつものように喧嘩を始めてしまいそうな二人に挟まれて慌てていると、俺の向かいから制止の声がかかった。

「まあまあ二人とも、そのくらいにしときなよ。今日は凩のA級昇格祝いなんだから」
「つ、堤…」

 堤のその言葉に、二人は渋々と言ったふうに引き下がる。なんでこの二人はこんなに仲が悪いんだろう。そしてなんで俺はこの二人に挟まれて座ってるんだ…
 今日は堤が先ほど言った通り、俺のA級昇格祝いとして、同い年のメンバーで飲みに来ていたのだ。二宮、加古さん、堤、そして太刀川と来馬。普段はあまり揃わないが、俺のために集まってくれたのだ。…が。

「大体何なんだ、こんな祝いの席で隊員を引き抜きたいなんて」
「あら、もしもの話をしただけよ。二宮くんに文句を言われる筋合いはないわ」
「あーもう喧嘩するなよ!」

 本当に、なんで俺はこの二人の間に座っているんだか。そして祝いの席で喧嘩をしないでほしい。

「あーえっと、加古さんは穂村をほめてくれたんだよな? うん」
「ふふ、そうね」
「だって二宮! だからな、ほら、怒るなよ、な?」
「怒ってない」
「怒ってるだろ! 何年の付き合いだと思ってるんだよ」
「? 十五年だろ」
「別に正確な年数はいらなかったかな!」

 ここで天然を発揮されると困ってしまう。これには何年経っても慣れない。苦笑をこぼして、えーと、と話題を探す。

「いやーしかし橘も見違えたよなあ」

 俺が見つける前に、ずっと黙っていた太刀川が口を開いた。俺はえ?と顔を上げて、首を傾げてみせた。

「だってあの全然動けなかった橘があんなに動けるようになってんだぞ? びっくりしたよ」

 うんうん、と頷いている太刀川は確か一度俺たちと戦ったことがあるので余計にそう思うのかもしれない。確かにあの時の橘は機動力もクソもなかった。機動力って大事ですね、なんて真剣な顔で言ってきたのは本当につい最近の事だった。お前今更かよ、とは思ったが本当に悩んでいるようだったのでつっこむのはやめておいた。いやでも、よくもまああそこまで機動力を磨かずにやってこれたと思う。本当に。

「まあ腕は良いがな」

 二宮が、腕は、のは≠ノ力を込めて言った。

「あいつの問題点は機動力じゃないだろ。色々」
「あー、あのドライモンスターか」

 二宮の言葉に、堤が頷いた。ああやっぱりこの話になるのか、とひとり苦笑していると、ふとずっと黙って話を聞いていた来馬が口を開いた。

「でも穂村ちゃん良い子だよね。年上への礼儀はしっかりしてるし、うちの太一もすごく懐いてるし」
「でもうちの諏訪さんには中々アレな態度だったよ」
「え、そうなの?」
「二宮は?」
「俺には普通だ。失礼を感じたことはない」
「人によって態度を変えてるのか、世渡り上手ってやつだな?」

 太刀川がニィ、と笑って俺を見た。うーん、まあ穂村のそういうとこは問題だと思ってるから注意はしたいんだけど。でも多分自覚してないから俺が注意しても聞かないと思う。

「来馬くん、堤くん、私…あと二宮くん?には大分礼儀正しいわよね、あの子」
「ん? 俺は? 割と礼儀正しくないか?」
「太刀川くんは気付いてないでしょうけどあの子太刀川くんのこと苦手よ」
「えっマジか」

 太刀川気付いてなかったのか、とそこに若干の驚きを感じつつ、加古さんの言っていった中に俺がいない事実にもう苦笑するしかない。来馬も気付いたのか苦笑をこちらに向けてくる。加古さんはちらりとこちらに視線を向けて、しばらく黙った後、ぽんと俺の肩に手をおいた。

「まあアレよ、ね。きっと気を許してるのよ」

 いや、多分舐められてるだけじゃないかな…とは流石に言わずに、苦笑したまま頷いた。というかあいつは全く、俺だけじゃなくて諏訪さんにまでそんな態度をとってたのか。自覚症状ないって一番厄介なんだけどな…

「でも私正直あの子とあまり話したことがないからどこがそんなにドライモンスターなのかよく分からないのよね」

 加古さんが頬に手を当ててそう言った。俺は出水から聞いてるだけだな、と太刀川。来馬と堤には基本的に礼儀正しいのでふたりもあまり感じたことはないらしかった。

「二宮は?」
「……。……知らん」
「なあに、その間」
「何もない」

 前に一度穂村が「二宮さんすごい私のことドライモンスターって言ってくるんですけど何なんですかね」と文句を言ってきたので多分二宮は穂村のドライモンスターなところを知っているのだろう。面倒くさいのかなんなのか、話す気はないようだけど。
 二宮が話そうとしないので、話の矛先は俺に向いた。

「…うーん、まあ……本当に人の心情を読み取るのが苦手なんだな、とは思うかな」
「あら、人の心情なんて私達にもそうそう分かるものじゃないわよ」
「あーうん、まあそうなんだけど。あるじゃんか、ほら。人が利益とかじゃなくて自分の気持ちに従って行動するときとか。穂村はさ、ああいうのを見てなんで利益のある方に行かないんだろう≠チて考えるんだよ」

 そう簡単に説明すると、加古さんは少し心当たりがあったのか、あー、と頷いていた。

「…前凩くんを勧誘していいかあの子に聞いたとき、凩くんは利益で物事を考えないらしいから無理≠チて言われたのよ」
「? うん」
「私その時、あの子が凩くんに抜けてほしくないからそう言ったんだと思ってたんだけど、本気で不思議に思って言ってたのね」

 そんなことがあったのか、と少し驚きながら二宮を見ると知っていたらしく少し眉を寄せていた。あーそんなことあったな、って顔だ。なんだ、二宮も知ってたのか。

「まーでも凩も大変だな」
「…え?」
「橘って見た感じと聞いた感じじゃ、かなりのクセもんだろ。率いるの大変そうだな」

 クセモノとか太刀川に言われたくないと思うけど、と口には出さず心の中で思って眉を下げた。まあ確かに穂村はクセモノっちゃあクセモノだし、もう少し優しくして欲しいなーってときは何度かあった。まあでも。

「ドライモンスターだけどさ、結構仲間想いの良いやつだから」

 隊長の俺は、それだけ分かってれば十分だと思うんだ。

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