安達様リクエスト
※なんかドロドロしそうだったので犬飼→橘じゃないです※夢主がチョロい※


「橘さんって荒船くんと仲良いよね〜」

 数学の時間、いつものように荒船と口喧嘩しながら自習の時間に問題を解いていると、私の隣に座っていた子がそんなことを言った。その言葉を上手く理解できず、首を傾げて、それから荒船の方を見た。荒船もこちらをちらりと見てきたが、その感情はうまく読み取れなかった。まあ苦手なことはしないに限る。それはさておき、冒頭の言葉だ。仲が良い、のはまあ確かにそうかもしれないが、わざわざ改めて言われることでもない気もする。そんな思いが伝わったのか、その子は笑って一言、付け加えた。今思えばそれが始まりだったのかもしれない。

「なんか、付き合ってるみたい」

 はは、と笑い飛ばした。何言ってんの、とその子に笑ってそうして、荒船にも同意を求めようとそちらを見た。荒船も笑って……いなかった。…え。

「荒船?」

 どうしたんだろうと不思議に思って名前を呼ぶと、荒船がふ、と軽く笑った。いつもの笑顔だ。なんだか安心して、私も笑う。が。

「じゃあ、付き合うか」
「…うん?」

 それが、あまりに滑稽で間抜けな、私達の始まりだった。


 ▽


「ねー穂村ー、なんか荒船と付き合ってるって噂が流れてるんだけど本当?」

 数学の授業が終わり、先程まで荒船が座っていた席に犬飼が座った。そうして先程の話題を出してきて、思わずうんざりした。しかし先程の謎の経緯で頭が混乱している私は怒る気力も否定する気力も残っていなかった。

「なんかそうらしい…」
「そうらしいってなに」
「知らないなんかあっという間にそうなってた…」
「なにそれ」

 いやこっちがなにそれなんですけど。大体さっきの荒船の言葉はなんだ。「じゃあ付き合うか」じゃねえよ文脈おかしいだろうがじゃあってなんだじゃあって。どこと繋がってるじゃあなんだよ。
 あの後、話のきっかけになったあの子が騒いで何やら話が大きくなったしまった。おかげで先ほどの授業はほぼ潰れたようなもんだ。いや皆こっちのことより授業に集中したげてよこの後先生の説明聞く時間なんだから。とは言ってみたが高校生は人の色恋ネタが大好きなので、皆新たなカップル誕生に面白可笑しく囃し立てた。その話の中心であるという実感は、荒船のせいで全くなかったのだけど。いや別に実感とかいらないけど。うん。

「っていうか穂村って荒船のこと好きだったんだ?」
「…? いや別に……普通? イラッとするし普通より下かもしれないけど」
「うわひっどい。…え、普通より下なのに付き合ってんの?」
「だからなんか知らないうちに……いや知ってはいるんだけどあれよという間に………これなら犬飼と付き合うって言われたほうがまだ納得できるわ…」
「え、ごめんね俺は遠慮したい」
「別にお前に告白したわけじゃねーよ」

 犬飼の冗談にイラッとしながら「やっぱりお前も普通より下だ」と軽口を叩いていると、「もってことは俺も普通より下なのか」と、犬飼でない声が頭上から聞こえた。一緒にズシッと重みもかかってきた。

「荒船じゃーん、彼女出来たんだってねオメデトー」
「よー犬飼。まあコレだけどな」
「テメエ荒船コレとはなんだコレとは」

 私の頭に腕を置いて上から話してくる荒船に苛立ちを感じつつ、荒船の発言に反論する。いや、待て待て否定するとこそこじゃなくね? 荒船今付き合ってるってことに対して肯定したよな? 何言ってんだこいつ。

「ちょっと荒船…」
「あ、おい橘帰るぞ」
「え。ああうん」
「ぶはっ」
「? 何笑ってんの犬飼。怖いんだけど」
「いや……意外と流されやすいなーって。…荒船ガンバレー」
「おう」

 二人の会話に首を傾げながら、私は荒船のあとをついていった。


 ▽


「…え。待って。おかしくない?」
「ぶふッ……ちょ、笑かさないで…っ」
「は? 何言ってんの?」

 荒船と付き合っているということになった日から早くも二週間が経とうとしていた。なんか恋人するのがあまりにも自然すぎてツッコミすらできなかったんだけどなんなんだこれ。いや、そもそも荒船と付き合ってるって事実がおかしいんですけど?って気付いてようやく口に出すと、犬飼が噴き出した。なんだこいつ大丈夫か。
 犬飼に不審な目を送りつつ、私の隣の席に座っている荒船を睨んだ。名前を呼ぶと、あ?と少し眠そうな返事が返って来た。

「いや、おかしくない? なんで私と荒船が付き合ってんの? 別に好き同士じゃなくない?」
「ぶっ……くッ…! ちょっと…っ」
「…何言ってんだお前。俺はお前が好きだから付き合ってる」
「……は?」
「あっははは! ちょっと待って…! おかし…っ あはははははっ」
「え、なに犬飼こわ……じゃなくて、は? なに?」
「だから、俺はお前が好きだって」
「………」

 ポカン、と、間抜けな面を晒していただろうと思う。は? 荒船が私を好き? は?

「……へー」
「あっははははは!」
「あー犬飼うるせえ!」
「あっははは! ひぃっ……ははっ……ごめ、荒船、気にしないで……っはははははっ」
「何なんだお前」

 ひたすら笑いの止まらないらしい犬飼に若干の恐怖を感じていると、荒船に名前を呼ばれた。

「お前、この約二週間どうだった?」
「どうと言われても。あまりに自然でびっくりしたよ。したよというかしてるんだけど」
「だろ?」
「は?」

 何がだろ、だよと眉を寄せると、だから、と荒船は人差し指を立てた。

「いいか? お前はこの二週間俺と付き合って嫌じゃなかった。むしろ自然だと感じていた」
「うん…? まあ…?」
「てことはだ。別にこれから恋人と過ごしていくのに特に問題はないってことだろ? この二週間と特に変わることはない」
「…あー……そう…なのか?」

 え? そうか? と疑問は浮上したものの、この約二週間特に問題を感じなかったのも確かだ。自然だと感じていたのも事実だ。…あれ? じゃあいいのか?

「…いいのか。うん」
「いいんだ」
「よくよく考えたらなんか別にいい気がしてきた」
「それ思考を意図的に制限されてるんだよ多分」
「犬飼余計なこと言うな」
「すみません」

 犬飼の笑いは止まったらしく、代わりに苦笑いが浮かんでいる。犬飼の表情筋は忙しそうだ。

「じゃあ付き合うのも続行ってことで」
「あーうん」
「俺教室戻るわ」
「おーばいばい」

 荒船を見送って、次の授業の準備を始める。犬飼は荒船の出て行った方を見つめ、変わらず苦笑している。怖いねー、とその呟きの意味は分からなかったがいやというか犬飼お前は次の授業の準備しなくていいのか。そうじゃないんだけどまあいいや、と犬飼は何か諦めたようにさっさと席に戻っていった。

 こうして私と荒船の不思議な関係が始まったのだ。

荒船と恋仲になる

SANDGLASS