リフィア様リクエスト
「あ」
と、声を上げる前に、影浦は私の存在に気づいたようだった。確か感情受信体質、というんだったか、影浦のサイドエフェクトは。影浦に対してこちらが放った感情を、ちくちくと肌に刺さる感じで受け取るんだそうだ。なんともまあ、苦労しそうなサイドエフェクトだなあと思う。人の感情が分からないのも問題だけど、分かりすぎるのも考えものだ。日本人は特に、本音と建前の世界で生きているから。
「やっほう影浦」
「やっぱりお前かよ」
「やっぱりとは」
「凄え痒かった」
「だからそれよく分かんないんだけど」
影浦は私から受け取る感情を痒い≠ニ言う。会うたびに言われるのだがよく分からない。というかその感情受信の基準からよく分かってないのだけど。
「ねー影浦ちょっと昼飯付き合ってよ。誰も捕まんなくてさあ」
「は? なんで俺が。つーか昼の食堂とかぜってー嫌だ」
「えーなんで……ってそうかサイドエフェクトか。うわあ、難儀だねえそれ」
「うるせえほっとけ」
「まあでも付き合ってもらうんだけど」
「ああ゛? つーかお前誰かと一緒じゃなきゃ飯も食えねーのかよ」
「いやあ最初の頃は平気だったんだけどねー、なんか最近は誰かしら人と一緒だから、それに慣れちゃってさあ」
いやあ慣れって怖いねと頷く私を、影浦は訝しげに見てくる。「お前一匹狼とかかと思ってた」って酷くないか。私普通の女子高生なんですけど。まあ友達と一緒にトイレ行ったりはしないけど。お昼くらいは誰かと食べたい。
嫌がる影浦の腕を引っ張って連れて行く。
「…チッ、たまに来たらこれかよ」
「あはは、すまんねー、皆用事あるか連絡つかないかでホント捕まんなくて」
「犬飼は」
「いや皆って言ったら犬飼もでしょ」
「いっつもベッタリじゃねーか、気色わりい」
そう忌々しげに舌打ちをされて、そういえばゾエさんが影浦は犬飼のことが嫌いらしいと聞いたことがあるのを思い出した。なんで嫌いなんだろう、と首を傾げた。犬飼はウザいけど基本的に人に嫌われるようなやつじゃないと思うんだけど。
食堂に着くと、更に影浦の機嫌が悪くなった。昼のピークを過ぎて大分人も減っているとはいえ、やまだかなりの人数が残っている。少しでも影浦に感情を向けられると受信してチクチクと刺さるのだろう。
「針のむしろってやつ? うわあ、辛いね〜」
「そう思うんだったら腕放せ」
「やだね」
そう言いつつも強くは抵抗してこないので多分言うほど嫌ではないんだろうと思う。それかなんだかんだで優しいのだろう。二人で注文を済ませ、開いている席に向かい合って座る。
「影浦の焼き鳥美味そうだね」
「あ? やんねーぞ」
「えーケチ」
そんな会話をかわしながら、お互いに頼んだ料理を口に運ぶ。うーん、やっぱり食堂の料理は美味しい。
「…あ、そういえば影浦B級降格だって? 犬飼と荒船が笑ってた」
「ああ゛? 笑っ……チッ」
「なんだっけ、根付さん殴ったんだっけ」
「うるせえ、ムカつくんだよアイツ」
「…ユズルとゾエさんかわいそー」
そう呟くと、影浦は流石にバツの悪そうな顔をして目を逸らした。いやしかし、こう言ってはなんだが、降格があの試合を終えた後で良かった。A級に上がるときは絶対にユズルに勝って認めてもらわなきゃいけなかったから。
「…そうだユズルといえば」
「なんだよよく話題変わるなお前は」
「いや、前ユズルにはっきり嫌いって言われてさあ、ちょっとショックでしばらく立ち直れそうにないんだけど。任務に支障が出たらどうすんだよー賠償金よこせ」
「何言ってんだ頭大丈夫かよ」
「うわ影浦に心配された…」
冗談だよ?と伺うように影浦を見てそう言うと、「分ぁってるよンなこと!!」と怒られた。影浦もふざけただけらしい。影浦の冗談分かりにくいよ…
「っていうか真面目な話ユズルどうにかなんない? 鳩原の弟子に嫌われてるのキツイんだけど」
「知るかよ。つーかそういう考え方だからユズルも懐かねーんだろ」
「え、そういう考え方ってどういう?」
「……面倒クセェ」
割とガチの方でうんざりとした顔をされて、少し慌てた。え、ちょっとこれは冗談抜きでほんとに分かんないんだけど? 影浦さん? そう言うとだから面倒クセェんだろ、と怒られた。は? 意味分からん。
「知らねェ、面倒クセェ。勝手にやってろ」
「友達なのにひどーい」
「気色わりい声出すな」
気色悪いって傷付くなもう。何なんだよ影浦隊は揃って私のことぞんざいに扱いやがって。いや、まあでもゾエさんとか仁礼ちゃんは優しいしフレンドリーだけどね? ユズルと影浦がね?
「…つーか、お前のは友達に向ける感情にしてはうっすいんだよ」
「…? は? なに?」
「痒い、って言ったろ。細くて多いから痒い」
「ああ言ってたね」
「不快な感情ではねェが妙なんだよ。こっちに興味ねェ、って感じに細えのにその割に滅茶苦茶量がこっちに刺さってくる。興味ねェだけなら細いだけなんだけどよ、お前のは量が多いから妙だ」
「…? ふーん」
よく分からなくて首を傾げる。いや分かるんだけどよく分からない。だって別に影浦に興味ないんてことないしむしろ大事な友達だと思ってる。なんでそんなふうに感じるのだろうか。
影浦は真面目な顔をして考え込んでいる。
「…ドライモンスターたる所以か…」
「え。やだやめてそれ」
「いやそうだろ」
結局そうなるのか、とうんざりした。まったく、皆すぐ人の事をドライモンスターとか言うんだから。
「…うーんまあでも影浦のことは普通に友達だと思ってるよ私は」
「……」
「お? 照れた?」
「いや、感情って正直だと思ってよ」
「えっ本心なのに」
冗談だ、と影浦が少し笑った。だからお前の冗談は分かりにくいんだってば!!
影浦と絡む話