「凩には断られた」

 部屋から出てきた二宮さんと鉢合わせて、いの一番に言われたそれに、何も言えずに固まった。

「一応伝えておいたほうがいいかと思ってな」

 そう伏目がちに言われて、あぁイエと形式的な返事を返しつつ、どこか安心している自分がいることに気づく。ああやはり、凩隊を思っている以上に気に入っているようだ。あのどこか昔の家族を思い出す空間は、出来る事なら失いたくないものだ。

「わざわざドウモ」
「……いや」

 変わらず済ました顔で去って行く二宮さんを見届けて、私も作戦室に入る。すると丁度凩さんが課題を鞄から出しているところで、私に気づいた凩さんはにこりといつもの笑顔で私に笑いかけた。

「橘。俺が来るまで二宮の相手してくれてたんだってな。二宮あんまり喋んないから大変だっただろ」
「ああ、まあ。そうですね」
「相手に気を使わすなっていっつも言ってるんだけどな」

 そうして話す凩さんはいつもと変わらない。恐らくきっと、今この隊にいるよりも何倍も利益があるだろう二宮さんの誘いを、この人はなんの迷いもなく断ったのだろう。それこそ、この穏やかな笑顔で。きっと二宮さんもそれが分かっていたに違いない。断られると分かっていてなお誘いに来たのはなぜなのか、そこまでは私には分からないが。本当、馬鹿だなあとは、思う。二宮さんの隊に行ったほうが良かったろうに。この隊にとどまらなくたって。

「だからヘタレだって言うんですよ」
「えっ!? なに急に!?」

 断ってほしいとは思ったけども、正直どうして本当に断ってしまったのか、私にはさっぱり分からなかった。


 ▽


「……本当に分からないのか?」
「え? はい?」

 久々の東さんの指導のもと、東さんに先日のことについて相談してみると、先の言葉を複雑そうな顔で返された。言葉の意味がわからず首を傾げる。本当に分からないのかとはどういうことか。分からないから聞いているのだが。

「………いや、それは凩が凩隊のことが好きだからとかそういうことなんじゃないのか?」
「でも二宮さんと隊を作ったほうが上に行けるんですよ」
「いや、だからな」

 東さんは困った顔をして頭を抱えてしまった。「なるほどそうかドライモンスター…」なんて呟きが聞こえたがきっと幻聴だろう。東さんが私をドライモンスターだなんて呼ぶはずがない。

「凩は今の隊が好きだから、利益よりも気持ちを優先したんだ。分かるか?」
「はあ」
「今までお前に教えてきた中でここまで手応えがないのは初めてだよ俺は」

 どう言えば分かるんだとぶつぶつ呟く東さんは一体何に悩んでいるのだろうか。うーむ、まあ東さんが悩んでいるくらいなのだから私に解決できる訳がない。狙撃の練習をしてよう。
 まあ結局のところは凩さんが引き抜かれなくて良かったということだ。うん。

道徳をやり直せ

SANDGLASS