叔父さんと叔母さんは私の卒業式の日までは三門市にいるらしく、それまでは私も今まで通り、二人と暮らすことになっていた。もともと卒業したらひとり暮らしをする予定だったので特にこれからの予定で変わったことはない。しかし叔父さんと叔母さんはボーダーからの援助が出るとはいえ、引っ越すのは中々大変だろうと思う。ので、これまでのお礼とお詫びの印として、大規模侵攻の際にもらったボーナスを二人に渡した。凩隊は新型撃破数が多かったのと一定の地区での被害を抑えたことから一級戦功をもらっていたので、かなりの額を二人に渡せた。しかし二人は遠慮して受け取ろうとしないので、結局渡せたのは半分ほどになってしまった。正直凩隊が隊として機能して被害の食い止めに入ったのはかなり後半からだったから一級は貰い過ぎなんじゃないかと思っている。だから貰い過ぎた分、二人に貰って欲しかったのだが、二人は気持ちだけで十分だと言った。どこまでもいい人たちで、やっぱり罪悪感がこみ上げてきた。
 それはそうと、先日三雲くんをテレビで見かけた。どうやら四十人ほどの被害についてボーダーが責められていたようで、その被害の文句の捌け口に三雲くんは使われたらしかった。まあ妥当な判断だとは思う。ボーダーのこれからの信頼と三雲くんのボーダー隊員としての価値を考えれば、そりゃあ切り捨てられるのは三雲くんだ。好き嫌いは置いといて、考えとしては間違っていないと思う。しかしその記者会見になぜか三雲くん本人が現れて、かなりその会見は荒れた。自分はやるべきことだと思うことをやった、と自分の意志を貫く三雲くんを素直に私はかっこいいと思ったけど、記者はとにかく誰かを悪者にしたいらしく、大人気なく三雲くんを責め立てた。見ていて気分が悪くなったのでテレビを消そうかとも思ったが、三雲くんが必死に戦っているのを見てやめた。結局最後まで見ていると、三雲くんが遠征のことをポロッと話してしまい、記者がそれに食い付き話が逸れて終わった。三雲くんはどうやら近界に行きたいらしい。なるほど、私と目的は同じということじゃないか。
 ふーん、と呟きながらテレビをぼんやり見ていると、その声に反応した凩さんが顔を上げてこちらを見た。今は作戦室で備え付けてもらったテレビを見ていた。

「ん? なに? どうした?」
「え? ああいや、彼が」
「…ああ、三雲修くん…だっけ。あの風間さんと引き分けた」

 多分二十四敗一分けのときのことを言っているのだろう。凩さんから聞いた話を思い出してその子です、と頷いた。

「三雲くんがどうかした?」
「いやあ、なんか近界に行きたいらしくて。目的一緒なんだ、って思って」
「…ああ、そうなんだ。へえ、三雲くんが」
「そうですよ。ほら、三雲くんでさえ近界に行きたいって言ってるのに凩さんがいつまでも怖がってちゃかっこ悪いですよ」
「うっ、うるさいなあ…! もう怖くない……こともないけど! 前よりはマシだし…」

 いや、まだ怖がってたのか。冗談のつもりで言ったのでちょっと苦笑気味になってしまう。本当にだ丈夫なのだろうか。次の遠征にはできれば行きたいのだが。

「ほんっとにビビりですね、凩さんって」
「うぅ…」

 机に突っ伏して頭を抱えてしまった凩さんに笑って、ふう、と息を吐きだした。


 ▽


 B級ランク戦が始まるらしい。海老名隊のオペレーター、武富桜子ちゃんに今シーズン初戦の解説者をするように頼まれてしまった。凩さんじゃなくていいの?と聞くと、「橘先輩の音声が欲し…ゴホン、解説が聞いてみたいので!」と何やら怪しい言葉もあったがその日は暇だったので受けることにした。それにその日は確か三雲くんのところが初めてのランク戦をするのではなかっただろうか。まあしかしその三雲くんらどうやら今回は怪我でお休みらしい。残念だが今回三雲くんは私と一緒に解説席に来るようだ。もう一人佐鳥もいるらしい。なんだか不思議なメンツだ、と笑ってしまう。
 そうして当日を迎え、私は武富ちゃんの隣に座っていた。武富ちゃんは元気に最初の挨拶を終えると、佐鳥、私、三雲くんの順で今日の解説者を紹介していく。いや、うんいいんだけどさ、佐鳥と三雲くんはいいとしても私の「人の心が分からない? 凩隊狙撃手、ドライモンスター橘先輩!」って紹介は何なのかな? 佐鳥も頷くんじゃない。ほら見ろ三雲くんが驚いてるだろ、信じちゃったらどうするんだ。
 なんて文句は呑み込んで、今シーズン初戦ということで佐鳥がB級ランク戦について説明していくのを聞いていく。それを終えるとついに試合が始まった。…とはいえ、いつもよりもずっと早く終わって、私も佐鳥も……いやまだ佐鳥の方が解説してたかなってくらい私はあんまり喋っていない。千佳ちゃんの狙撃のときに興奮してちょっと叫んだのが一番声がでかかっただろうか。いやああれは凄かった。

 と、いうわけで、私の初の解説は開始から30分と経たずに終わった。あの白い子……確か空閑くんだったか、も千佳ちゃんも凄かった。千佳ちゃんの大砲なんか射線関係ないしね。空閑くんもあれどう見たってB級なりたての動きじゃない。やっぱり近界民は空閑くんか、と納得して、その日の試合は幕を閉じた。

「穂村が解説やるって言うから来たのに」
「まーあれはしょうがないね。というか長引いたところで私上手く喋れる自信ないし」
「喋るの苦手だっけ? そうでもないよね?」
「苦手じゃないけど得意でもないよ。普通の域を出ない」
「普通で良いと思うけどねー」

 ランク戦後、犬飼が近付いてきたので一緒に食堂に向かった。本当は三雲隊のところに行こうかと思っていたのだが犬飼が来たのでやめた。まあ別に急いでいるわけでもない。急ぎなら玉狛に遊びに行くし。

「っていうか次荒船隊と諏訪隊か。私どうせやるならそっちの解説やりたかったな」
「? なんで?」
「荒船の無様なところを大声で笑ってやりたかった」
「…そんなことしたらドライモンスターの認識が強くなるよ」
「えー」

 それは困るので、それ以上は何も言わないでおいた。

B級ランク戦開始

SANDGLASS