伊代様リクエスト
「…勉強会?」
「おう。高三組で集まって勉強しようぜってなってよ。ほら俺ら一応今年受験だろ」
ある日、荒船が私と鳩原、犬飼のクラスに来たかと思うとそんなことを言ってきた。私の目の前の席の鳩原と、こちらの席に移動してきていた犬飼とで顔を見合わせる。
「いやまあいいけどさ、受験ってまだ四月も始まったばっかなのに」
「まあアレだ、備えあれば憂いなしってな。それに俺らはともかく当真とカゲがちょっとな…」
「あーね。うん、なんか国近ちゃんもヤバそうだったわ」
「俺はいいよー、行っても」
「あたしも」
「んじゃ私も。皆来んの?」
「ああ。来たがらない奴のために出来るだけ皆で予定合わせて迎え撃つ」
「戦闘かよ」
まあしかし、影浦はよく知らないが国近ちゃんや当真の成績の悪さはよく知っている。特に国近ちゃんは学校も違うのにテストが近くなるとよく泣きついてくる。そっちの学校の範囲知らないんだけど、と言ってもやっぱり頼んでくるのでまあしょうがないとよく教えている。頼んですら来ない当真よりかはマシだ。他の誰かにでも頼んでいるのかと思っていたのだがそんなこともないらしい。今までよく留年しなかったな、と逆に感心した。あいつは将来きっと二人目の太刀川さんになるに違いない。というかボーダーの攻撃手と狙撃手の一位が揃って成績悪いとかどうなんだ。救いは射手一位の二宮さんの成績がいいことだろうか。いやでもあの二人はほんとに勉強したほうが良いと思うよ…
「来たがらないって国近さんとか当真くんとか…?」
「ああカゲもな。他はそうでもねえな」
「ふうん……高三組か。誰がいるっけ。私、鳩原犬飼荒船当真国近ちゃん影浦…? と加賀美ちゃん今ちゃん人見ちゃん……と村上? あ、穂刈とゾエさんもか」
「ああその面子だ」
とりあえず思いついた面子を口に出していくと、荒船が頷いた。なるほど、私が知ってる人はみんな来るわけだ。同じ18歳でも知らない人はまだ結構いるしな。話したことない人とか。なんかB級に同い年のキラキラした人がいた気がする。王子様系イケメンは凩さんだけで十分だなって思って話しかけたことないけど。
「場所は東さんに広い場所を貸してもらえることになった。お前ら予定は?」
予定、と思い出して任務の入っている日を告げていくと、鳩原と犬飼も確認し合いながら任務の日を荒船に伝えていた。なんだかこういうのを見ていると同級生で同じ隊っていうのは羨ましくなる。凩隊の戦闘員は大学生の凩さんしかいないしな……オペレーターの名風ちゃんは年下だし。そう考えるとこうして同い年の人たち同士で交流があるというのはいいことなのかもしれない、と思う。
荒船があらかじめ聞いてきていた皆の予定を確認した結果、今度の日曜日の午後に全員の予定が合うらしい。いやー今更だけどよく全員フリーの時間があったもんだ。高三組今の面子を全員揃えたら、凩隊二宮隊荒船隊冬島隊影浦隊太刀川隊来馬隊東隊…が任務のない日を選ばなきゃいけなくなる。まあ流石に一日フリーにはならなかったけど、休日でこれだけ時間が取れれば十分だろう。
「つーことで今度の日曜の午後な。忘れんなよ」
そう言って荒船は自分のクラスに戻っていく。いやよくやるねほんと。皆の予定合わせるのも場所取るのも大変だったろうに。
「楽しみだね」
鳩原のその言葉はきっと皆で集まるのが≠ニいう意味なので、私もそれに同意を返した。
▽
「で、だからこれをここに代入して…」
「え、これ?」
「ううん違うこれだってば」
「えええ? なんでこれ…?」
「……」
当日、私は主に国近ちゃんについて勉強を教えていた。のだが、早くも音を上げてしまいそうだ。ヤバイ、知ってたけど国近ちゃんかなり馬鹿だ……オペレーターとかやってるし情報処理能力は滅茶苦茶高いはずなんだけどああいうのってIQ関係ないのかな。まあ私は勉強はできるけど情報処理能力はそんな高くないしオペレーターできるかって言われたら出来ないしな。適材適所ってやつか。いやでも学生の本分はいくらボーダーをやってようが勉強だ。
「あーもう無理。鳩原代わってー」
「えっ、いや私は今回の中間ヤバイから…」
「えええ裏切者。…犬飼ー」
「こういうときだけ俺を頼んないでよ……というか穂村が出来ないのに俺が出来るわけないでしょー」
「いけるいけるなるようになるよ」
「いやならないでしょ」
「穂村ちゃん投げないで〜」
横から国近ちゃんに泣きつかれて仕方なくまた問題の解き方を教えていく。それを向かいの席で見ていた穂刈が、薄く笑って言った。
「大変だな。国近に勉強を教えるのは」
「国近ちゃん、今のが倒置法だよ」
「あ〜、なるほど〜」
「穂村ちゃんが人を教材にしはじめた…」
「というか橘と国近は今数学やってなかったか?」
「いや丁度いい教材がいたから」
穂刈が丁度いい教材を提供してきたのでそれを使わせてもらうと、穂刈の隣に座っているゾエさんと村上に呆れた目で見られた。えーだってもう教えられるときに一々教えてかないと追いつかないよ。
「というか橘は得意なのか、国語」
「えーいや普通? なんで?」
「あ〜ドライモンスターだからでしょ?」
穂刈の質問に首を傾げながら答えると、ゾエさんがにこやかにそう言った。それだけで言わんとしていることを理解してしまって、あー、と呻く。視界の端で当真と影浦が荒船と今ちゃん、人見ちゃん加賀美ちゃんに囲まれて勉強を教えられているのが見えた。うわあ大変そう、と考えながら、答えた。
「この時の主人公の気持ちを答えなさい≠チていうのは苦手だね確かに。あれなに書いてもピンされるし毎度毎度先生に呼び出されて大丈夫かって心配されるし。だから最近はそれ系は大体白紙で出してるよ。それ以外の問題で赤点は回避できるし」
「心配されるほどの回答って何それ」
「ちょっと見てみたいな」
逆に感心している様子のゾエさんと村上を他所に、私の隣で鳩原と犬飼が顔を見合わせて苦笑している。まあこの二人は何回か私の答案見たことあるしな。いやでもあれの何が悪いんだ。思ったこと書いただけじゃないか。というか主人公の気持ちなんて作者にしか正解はわからないじゃないか。なんで皆普通に答えられるんだよ。
「…ねえねえ穂村ちゃんこれ合ってる?」
「んー? んー………………………うん合ってるよ」
「いやいや間違えてるでしょ何嘘教えてんの」
「だってここさっき教えたとこだよなんでこんな無茶苦茶な数字になってんの」
「え〜普通に計算したよ」
「絶対国近ちゃんの脳内電卓壊れてる…」
絶対私が文章題解けないのより国近ちゃんのこれ解けないほうが可笑しいよ私はなんにも可笑しくないうん。
「あーもう、もう一回説明するよ?」
「うん」
「まずはここの計算を…」
しかしまあ、やっぱり人間何にしても適材適所ってことだ。
18歳組で勉強会