三色団子様リクエスト
「ねーお願い!」
そう目の前で両手を合わせてお願いしてくる国近ちゃんに、私はうーん、と唸った。今私は国近ちゃんに「勉強を教えてほしい」と頼まれている。どうやら次のテストで赤点をとるとまずいらしい。いや、私的には別に自分の力にもなるし教えても構わないのだが、アレだ、学校が違うので範囲が違う。更に国近ちゃんの通う三門市立第一高校と私の通う六頴館高校では勉強の進みも違う。つまり今回の国近ちゃんの範囲はもう私のところではすでに終わっているので、私にはなんの実りもないわけだ。とはいえ、こんなに必死に頼み込んできている国近ちゃんを見捨てるのも気が引ける。同じ学校で成績も優秀な今ちゃんたちじゃなくて私を頼ってくれたわけだし。力にはなりたい。だけど。
「うーん……でもやっぱ今ちゃんとかに教えてもらったほうが良くない?」
「お願い〜、今B級のランク戦の時期だし皆忙しそうなんだよ〜」
「まあ……だよね…」
先日A級に上がった私はもうB級ランク戦には参加しない。そりゃあまあ確かに今ちゃんたちに比べればずっと暇だ。今回の範囲も大体は理解しているし、後は提出課題を終えれば卒業も出来る。そう考えるとやっぱり私がやるしかないのか…
「うーん……まあしょうがないね。いいよ」
「! わーい、ありがとう〜」
いつも私が了承するたび泣いて喜ぶ国近ちゃんを見ると、なんだか頑張ろうかな、という気持ちにさせられる。
▽
「……うわあ、散らかってるね」
国近ちゃんに勉強を教えるため、太刀川隊の作戦室に赴き開口一番にそう言うと、国近ちゃんが照れたように「えへへ」と笑った。いや、褒めてないよ? 流石に分かってるよね国近ちゃん。「四人とも片付け苦手だからね〜」と言われてああ確かに苦手そうと納得した。うちの隊は意外と凩さんが片付け下手だと言うと驚いていた。うん、やっぱり意外だよね。割とずぼらなんだよあの人。ふわふわした茶髪もあれ髪セットしてないからだよ。お洒落でやってると思ってたのに騙された……顔も雰囲気もイケメンだからどんな髪型しても似合うんだね分かります。
「あっ、穂村さん!」
「、おー出水。やっほう」
「こんにちは! どうしたんすか、珍しいですね」
「うんちょっと国近ちゃんに勉強を教えに」
作戦室に国近ちゃんと入ると、すぐに出水が寄ってきた。うーんなんか知らないけどやっぱりすごい懐かれてる。正直心臓撃った記憶しかないからなんで懐かれてるのか分からなさすぎて怖い。他になんかしたっけ。
部屋を見渡せば、ソファーに腰掛けている太刀川さんと、太刀川さんの影に隠れたボンが見えた。何故か太刀川隊の隊服を着ている。なんでだ。太刀川さんにペコリと会釈をしてボンにひらひらと手を振ると、短い悲鳴と共に完全に姿が見えなくなった。…うわあ、相変わらず滅茶苦茶怖がられている。脳天撃ち抜かれたのそんなに怖かったんだろうか……いやでも今は脳天撃ち抜かれるなんて大したことでもないと思うんだけど。相当なビビリだな…うん。
「柚宇さんの勉強見んの? あ、じゃあ俺も教えてよ穂村さん」
「えーあんた学校違う上に学年も違うじゃん……というか出水って平均より上じゃなかったっけ? あれ、それ以前にまだ高二はテスト先じゃないか?」
「そうですけど! 備えあれば憂いなしって言うじゃないすか!」
「うーん……まあ分かったら教えたげるよ」
「やった!」
そんな会話をしていると、それを聞いていた太刀川さんがソファーから身を乗り出して話に入ってきた。
「あ〜俺も俺も。勉強見てくれよ」
「…何いってんすかあんた」
「出水その氷点下の目やめてくれ」
「…太刀川さん」
「え?」
「私流石に太刀川さんを留年させないようにするのはちょっと荷が重いです…」
「いやいやいやいや、流石に冗談!」
「分かってますよ、こっちも冗談です。やられたらやり返すがモットーなんで」
「そんなモットー初めて聞いたよ」
うん私も初めて言ったよ国近ちゃん。別に特にモットーはないけどなんとなく言いたくなっただけだ。だけど凩さんから太刀川さんが本当に留年してしまいそうだと聞いていた。今頑張って単位を集めているらしい。凩さんも手伝わされているらしく、ちょっと疲れていた。…頑張れ凩さん。
「ねーそれより早く教えてー」
「はいはい」
「あ、太刀川さんここ使うんでちょっと片付けてください」
「ん? おー」
太刀川さんは頷くと机の上にあった色々を全て横に寄せ、それでも場所を取ったものはソファーの上にポイ、と置いた。あ、これは片付け苦手なやつや、と先ほど国近ちゃんが言っていたことを思い出して半笑いした。凩さんもこのタイプだ。凩さんになら「それ片付けって言わないんですけど」と嫌味を言うが流石に他の隊の隊長には自重した。偉いぞ私。
「よし、それじゃあお願いします!」
「はいはい」
▽
それからしばらく私と国近ちゃんを主にたまに質問してくる出水とで勉強をしていた。ふと顔を上げて時計を見ると一時間近く経っていて、少し驚く。国近ちゃんてゲーム好きでオペレーターなだけあって集中力はあるんだな。流石。
そろそろ休憩にしようか、と声を掛けると国近ちゃんがパッと顔を上げて目を輝かせた。
「じゃあゲーム! しよう! あ、わたしお茶淹れてくるね!」
そう言って給湯室まで走っていく国近ちゃんを見送って、思わず少し笑う。いやあほんとにゲーム好きだな。私はゲームとかすぐに飽きるタイプだから分かんないけど。
おれも手伝いますよ、と国近ちゃんを追いかけていった出水がいなくなって、私の話し相手がいなくなってしまった。目の前には私のちょっと苦手な太刀川さんと、私を怖がっているボンこと唯我。…うーん。
「ボーンくん」
「ヒィ!? なんですかその呼び名は!?」
「いやあ唯我ってコネで入ったボンボンじゃん? だから呼びやすく可愛くボンで」
「不名誉なアダ名で呼ばないでいただきたい!!」
「えー」
苦手な人と私を怖がってる子、どちらかを天秤にかけて私は後者を選んだ。どうせなら年下にうざ絡みしたほうが楽しい。どうやらボンというアダ名は本人にはかなり不評のようだ。まあそんなの関係なく呼ぶんだけどさ。
「太刀川さん! この人になんとか言ってやってください!」
「ん〜…いやまあ事実だからなあ」
「ボクの味方は何処に!!」
大袈裟なポーズで絶望してみせるボンを白けた目で見ていると、国近ちゃんと出水が戻ってきた。何騒いでるの?と国近ちゃんの問いに、ボンが私を指差してことの経緯を説明した。
「いやおれは全面的に穂村さんの味方だから」
「そんなっ! く、国近先輩!」
「うーん、私も穂村ちゃんに勉強教えてもらってるし、穂村ちゃんの味方で〜」
「神様はなんて残酷なんだ…!!」
どうやら二人とも私の味方をするらしい。マジかー、ラッキー。
「と、いうことでお前はボンだよ」
「嫌だあああ!!」
太刀川隊との絡み