ぷー様リクエスト
※男主になっています。苦手な方ご注意ください※
「あ、あの、橘先輩!」
呼ばれて、振り返った。目の前には知らない女の子がいる。俺のことを先輩≠ニ呼んだので、多分一年生の子だろう。何やら緊張しているらしい面持ちのその子に、「俺?」と首を傾げると、その子はコクコクと頷いた。隣で歩いていた犬飼がニヤニヤと笑っている。何だこいつウザいな。犬飼を少し睨んで女の子を再度見ると、女の子はビクリと肩を跳ねさせた。…睨んでしまったのだろうか。凩さんにお前は目が冷たいと言われるので気をつけてはいるのだが、中々上手くいかない。
「えっと、なに?」
「あっ、あの、こ、ここじゃちょっと…」
女の子は周りをちらりと見やって言い淀む。ここは二年フロアの廊下だ。確かに周りに先輩ばかりで居心地は悪いのかもしれないが、ここではダメなのだろうか。
「どうしてもここじゃ駄目?」
「えっ、い、いやあの…」
「穂村それはちょっとさ…」
犬飼が呆れたように俺の肩にポンと手を置いた。なんだ、やっぱり何かここじゃダメな理由があるのだろうか。
「ここじゃ駄目だって見たら分かるじゃん」
「は? 話の内容も分からないのに?」
「普通は大体この辺で理解出来るんだけどね!」
犬飼がヤケクソのようにそう叫んだ。え、なんで内容も聞いてないのにそんなこと分かるんだよ。と言ったら犬飼が「ドライモンスター…」と呟いて項垂れた。おい止めろそれ。
「あ、あのっ! やっぱりここでいいです!」
「えっ」
「あ、そう?」
「あ、そうじゃないよ穂村の馬鹿…!」
「橘先輩!!」
女の子の大声に、俺はあ、はいとそちらを向く。女の子は顔を真っ赤にして俺を見ていた。
「すっ、好きです!! 付き合ってください!」
▽
「…で、振るとかさ? ないよね? ありえないよね? ね? 馬鹿なの?」
「…うるさいなまさか告白とは思わないだろ」
「いやあの廊下通ってたやつ大体気づいてたよ! あ、告白かー頑張れ〜みたいな目でみんな見てたよ!」
「…マジで?」
「大マジだよ…」
犬飼は疲れたように机に突っ伏した。同じクラス、隣の席ときて同じボーダーという組織に所属している犬飼とは比較的一緒にいる時間が多く、よく話す。そして犬飼は話しているとよくこういう風に俺の行動のおかしいところを指摘してくる。俺としては何もおかしいことを言っているつもりはないのだが、どうやら犬飼から見て俺は冷たい∞人の気持ちが分かっていない≠轤オく、よくドライモンスター≠セと称される。蔑称なのは分かるのであまりいい気はしていない。
「っていうかさあ、なんで断ったの? 可愛いしあそこで告白してくるって度胸もある良い子じゃん」
「いや、普通に知らない奴とは付き合えないだろ」
「えー、ほんとにそれだけ?」
「…というと?」
「いやー、正直ボーダーでも学校でも噂になってんだよ? 穂村が…」
「あ、あの……穂村…くん」
犬飼の言葉を遮るような形で、最近聞きなれた声に名前を呼ばれた。俺は振り返って、そいつの名前を呼んだ。
「鳩原。呼び捨てでいいって言ってんのに」
「えっ、い、いや」
「あ、それとも名前呼びを要求しといて俺が苗字呼び捨てなのは不公平か? 鳩原の下の名前未来だったよな、次から未来って呼ぼ…」
「あああ、いいから! ごめんなさい! 穂村って呼びます!」
「…そうか?」
何故か物凄い勢いで拒否されてしまって、俺は少し落ち込みつつ頷いた。鳩原はホッと安堵したように息を吐いて、えっと、と要件を口にした。
鳩原は犬飼や俺と同じくボーダーに所属しており、俺と同じ狙撃手ということで仲良くさせてもらっている。とはいえ、ボーダーにはもう少し前からいたようだが話すようになったのは最近で、鳩原は俺と話すたびに緊張している。俺が男だから気を許しがたいのか、それとも俺の何かがいけないのか。犬飼に聞いたらどっちもじゃないかな、と言われた。割りかしショックだった。
俺が鳩原に興味を持ったきっかけは、鳩原が人を撃てない≠ニ聞いたからだ。というのも、それは俺のあだ名が少し関係してくる。俺のあだ名は不名誉なことにドライモンスター≠セ。これは元々俺が冷たいとか人の気持ちが分からないとかそういう理由ではなく、単純に俺が狙撃をするときに脳天を狙うからだ。入ったばかりの頃当真という同級生がふざけて付けたもので、今では脳天を狙うスタイルなど珍しくもなんともない。ただあだ名だけが糸を引いて残っているだけだ。…と、そうではなく、鳩原に興味を持った理由だ。これこそ単純な話になるが、真っ先に脳天を狙う俺と、人を撃つことすら出来ない鳩原。自分と真逆の存在が気になったという、それだけの理由だ。
俺は鳩原と友達に、あわよくば親友という位置に立ちたい。だがしかし、鳩原は中々俺と話すとき緊張を解いてくれない。
「…だって」
「ああ、分かった。ありがとう鳩原」
「うん」
用件を伝え終えると、鳩原はさっさと自分の席に戻ってしまう。休み時間が終わるまで話していけばいいのに、とその背中を見送りながら思う。折角鳩原と同じ隊に所属している犬飼がいるというのに。
「…いや、ホントさ」
「は? なに?」
「なにじゃないよ……穂村周りの自分のイメージ自覚してる?」
「知らないけど」
「うんだろうね。あのドライモンスター穂村が一人の女子を構い出したらそりゃ噂も流れるっての…」
「噂?」
「ドライモンスターが恋をした!って噂知らない?」
「…恋? 俺が?」
「うん」
「だれに?」
「だから、鳩ちゃんにだってば」
言葉を失って絶句した。恋なんてそんなんでは断じてない。俺はただ単純に自分と真逆の鳩原に興味を持って、友達になりたいと思っただけだ。そこに他意はないし、もし俺が女でも、鳩原が俺と同じ男でもそういう感情を抱いたと断言できる。どうして男女で一緒にいるとそういう風に捉えられてしまうのだろうか。
「え、違うんだ」
「違う。俺は鳩原と友達になりたいだけだ」
「それは友情と恋愛を勘違いしてるとかそういうのじゃなくて? 穂村自分の気持ちも分かってなさそうだから心配なんだよね」
「違うって言ってるだろ、流石に自分の気持ちくらいは分かるし」
断言すると、犬飼はふーん、と頬杖をついた。しかしまだちょっと疑っている目だ。違うと言っているのに。
「だって穂村俺のときはそんな必死じゃなかったし?」
「は?」
「鳩ちゃんにはそんな必死でさ、俺のときは流れで友達になった感じだし。全然違うじゃんか? なんか嫌だし、いっそ鳩ちゃんに対する気持ちが恋愛だったらいいのになーって思って」
犬飼の話を黙って聞いて、しばらく沈黙する。そうして犬飼の話をもう一度再生して、考えた。
「え、なに? お前俺の事好きなの?」
「どう聞いたって違うじゃん…!! どう聞いて理解したの? 馬鹿なの!?」
怒られる。あれ、違ったか、と首をひねった。いやまあ流石に冗談だったけど。だけど馬鹿なの、と言われたのにはイラッとした。俺はお前より頭良いんですけど。そう言ったら「そうじゃない」と疲れたように机に突っ伏してしまった。
やっぱりよく分からない。
夢主が男だったら