猪瀬様リクエスト


「もうちょっと右だな」
「はい」
「もうちょっと下」
「はい」
「はいそこ」

 言われた通り、ズドンと撃ってみる。すると見事に的のど真ん中に命中する。おお、すごい、と呟くと、東さんはすごいすごい、と頭をなでて褒めてくれる。東さんが修正してくれたから当たったのだけど、やはり嬉しい。的のど真ん中に当たると気持ちいいものだ。

「橘はちょっと左上に寄る癖があるな」
「そうですか?」
「ああ。気持ちでいいから、ちょっと右下に寄せて撃つようにしてみたら良いぞ」
「分かりました」

 そうしてしばらく狙撃を見てもらっていると、東さんが人に呼ばれてしまい、その日の訓練は終わりとなった。いやあB級に上がる前に会えていたらもっと早く上がることも出来たんだろうな、と少し悔しく思う。まあ過ぎたことをあれこれ言ってもしょうがないのだけども。
 それから適当に一人で撃っていると、隣のブースに誰かが入ってきた。C級の服を着ている。そしてその髪型に驚いた。うわ、リーゼントだ。一昔前の不良だ。声はギリギリ出さなかったが、危なかった。こんなの不意打ちで来るとかズルいだろ。気付かれない程度にその子の頭をガン見して、思わず目をそらす。今時こんな髪型のやついるんだな。
 しばらく隣を気にしながら撃っていると、ふと隣の的に目が言って、今度こそ声を上げた。

「うっわ、何その命中率」
「あ?」

 あ、やっべと慌てて口を塞いだ。リーゼントがこっちを見た。ふい、と何事もなかったかのように視線を外して、また銃を構えた。

「いやいやおいおい、今なんか言ったろお前」
「は? 何も言ってないです。なんですかイチャモンですか」
「わっかりやすい嘘の上にそんなふてぶてしい態度取られてるっていう事実に俺は驚いてる」
「ヤダコワーイこの人」
「真顔で言うなよ怖えから」

 そんなやり取りをしばらくして、なんだか白を切るのも面倒になってしまった私は到頭白状した。「はいはい言いましたよそれが何か」とおとなしく素直に認めてやると、リーゼントは「ふってぶてしいな〜」と笑っていた。なんか馬鹿にされている気がする気のせいかな。

「俺の的見て言ったのか?」
「そうですね」
「褒め言葉か?」
「私の的とあんたの的を見比べてこれが褒め言葉じゃなかったらとんだ僻みじゃんか」
「だよな」

 だよな、とか分かっていながら聞く感じも腹が立つ。なんで私声に出したんだ。いやでもだって凄かったから。仕方ないじゃないか。うん。仕方ない…よな? うん。

「んでなんなの? その命中率。ホントにC級?」
「C級の服着てんだろ」
「そりゃあそうだけど……あれだ、初心を思い出すためにC級のコスプレ」
「想像力豊かだなオイ。…普通にC級だよ。ちいと天才肌かもしれねえけど?」
「うっわ腹立つ〜」

 やばいこいつと話してるとイライラするぞ。天才肌って言うのがあながち嘘じゃないところも腹が立つ。だってさっきまで撃ってた的を見ても分かるけどこいつの命中率は今の私より格段に上だ。

「お前はB級?」
「…そうだけど」
「ほー、なるほどな」
「これでなれるんなら俺もなれるなって思ってるのバレバレなんですけど。そして間違ってないのがなんなんだ更に腹が立つ」

 きっとこいつは私が何ヶ月もかけてクリアした条件を数週間でクリアしてしまうのだろう。いや、すごい。すごいんだけど、やっぱり自分よりすごい人がいるのが悔しい。

「お前年は? つーか名前は?」
「…橘穂村。十六」
「お、俺も十六。当真勇だ。よろしくな」
「えー…」
「えーってなんだよ」
「だってお前腹立つんだもん…」
「ストレート!」

 当真はケラケラと笑って、私の頭をポンポンと撫でてきた。パシ、と払いのける。うっわ、この野郎東さんに撫でられたばっかだぞこの野郎。別に撫でられたのが特別嬉しかったわけじゃないけどお前と東さんだったら確実に東さんのが嬉しいわ。この野郎。

「同い年だし同じポジションだし、よろしくな橘」
「……はあ、しょうがない」
「めっちゃ嫌そうだな」

 そうして、私と当真は友達(?)になったのだ。

当真と初めて会った時の話

SANDGLASS