蒼様リクエスト


「お、当真じゃん」
「あ? おー橘」

 学校の帰り、ボーダーに向かっていると自転車に乗った当真と出会した。自転車通学だっけ、と首を傾げると当真は「今日遅刻しそうになってよ」と笑って言った。遅刻ってオイ。お前ただでさえ頭悪いのに遅刻とか大丈夫なのかそれ。と言ったら頭を小突かれた。いてえ。

「痛い。あーいたたたた。慰謝料かもしくは自転車後ろ乗せろ」
「当たり屋かよ」
「は? 違うし。正当な要求だし」
「正当の意味を辞書で調べてみろよばーか」
「当真に馬鹿って言われた……やだ死ぬしかない…」
「このやろう」

 一通りふざけ終わると、ほぼ無理矢理当真の後ろに乗らせてもらう。転けたら殴る、と言うと「理不尽すぎるだろ」と笑われた。当真はこういう冗談に対していつも笑って流す。振り返ってみると当真がボーダーに入隊した頃からだからそんな長い付き合いじゃないんだけどなんかすごい長い間一緒にいるような気もしてくる。まあ学校は違うけどポジションは一緒だから一緒にいる時間も長いよな。うん。

「うわなんかグラグラしてる怖い」
「文句言うなよお前が重いんだろ」
「馬鹿言え私のは身長に対しての平均体重なんだぞ普通だわボケ。むしろ男が女の子に夢見すぎなんだよ」
「あーあー止めろ夢を壊すな」

 グラグラと覚束ない当真の運転に不安になって文句を言っていると、「じゃあお前が運転するか?」と当真が振り返ってきた。ばっか前見ろあーもうほら曲がってる。

「ぎゃー馬鹿一回足付け!! バランス整えて! 転ける!!」

 当真の無駄に長い足が地面に付いた。当真の背中にしがみつきながら、ぜーはーと息を整える。何でこいつこんな運転下手くそなんだよ。

「だーからお前が運転しろって」
「アホかこんなかよわい女子に百八十台の男を後ろに乗せて自転車を漕げと? 鬼かよ」
「鬼とかお前に言われたくねえよ。つーかかよわい女子って誰だよ」

 そのまま当真の運転でボーダー本部まで行った。なんか歩いて行ったほうが早かったし疲れなかったなって着いてから思った。


 ▽


「もうやだ絶対お前と二人乗りしない…」
「俺の台詞だろそれ」

 二人でかなりの疲れを滲ませながら本部のラウンジで休む。とても来てすぐに訓練をする気にはなれなかった。二人乗りってあんなに怖かったっけ? 中学のときに友達とやった記憶あるけどあんなにぐらつかなかったんだけど。ふざけてぎゃー重い!とか叫んでた程度だ。いやもう何にしても私は当真と二人乗りなんかしない。

「あ、穂村と当真じゃん、何やってんの?」

 二人でぐったりしていると、犬飼が私達を見つけて駆け寄ってきた。うわあ今日も元気だなコイツ、と先程学校で会ったにも関わらずそんな感想を抱く。なんか今ものすごい疲れてるから犬飼が滅茶苦茶元気そうに見える。

「つーか犬飼なんでお前こいつと一緒に帰ってなかったんだよ。鳩原も」
「え、いや穂村日直でさ。いつもなら待つんだけど俺も鳩ちゃんも二宮さんに呼ばれてたから」
「あー運が悪かった…」
「人を疫病神みたく言うなよ。当真が運転下手くそなのが悪いんじゃん」

 オーマイガーみたいなポーズをしている当真にイラッとして文句を言う。犬飼はなんの話かよく分かっていないようで首を傾げている。

「なになに、なんの話?」
「当真の自転車の運転がクソ怖いって話」
「お前が後ろに乗らなきゃ滅茶苦茶上手いんだぞ俺は」
「私の女子の友達は私が乗ったくらいじゃびくともしませんでしたけど」
「えっ、ちょ、ちょっと待って。え? 二人乗りしたの? 自転車?」
「え、うん」

 まさか交通法云々言われるのだろうかと思って止めてきた犬飼を見ると、何故か拗ねているように頬を膨らませている。えっ、何だよお前。

「何それ! 俺も穂村と二人乗りしたい!」
「はあ?」
「当真だけズルいじゃん! っていうかなんで二人乗り!?」
「いや自転車乗ってる当真に会ったから乗せてけって無理矢理乗った。正直乗らないほうが早かったし楽だったけど」
「乗っといて文句言うなよお前」
「いやだってあれは酷い」
「だから俺も!」

 俺も二人乗りをしたい、と駄々をこねる犬飼に頭を掻く。いや正直当分もう二人乗りはいいかなって思ってたんだけど。当真の運転どうこうじゃなくちょっと二人乗りがトラウマになりかけてる。いやマジ怖かった。

「今日帰り! やろう!」
「…えー」
「えーじゃない」

 何故か強制的に犬飼と二人乗りをすることになってしまった。当真がポン、と肩に手を置いてくる。「悪いな」って何に対しての謝罪だそれ。運転か? 運転なのか? 謝罪はいいから慰謝料よこせよ。

「あ、当真自転車貸してよ」
「おー貸す貸す。明日返せな」
「当真の裏切り者…!」


 ▽


「さー乗って乗って」

 訓練が終わり、さー帰るかというときに犬飼に捕まった。ホントにやるのか…とうんざりしながらもう断る気力もなく、大人しく後ろに乗った。私が乗ったのを確認すると、犬飼がペダルを漕ぎだした。思わずひっと声が出た。

「あっはは! 穂村そんな声出るんだ」
「うるさい運転に集中しろ馬鹿」
「はいはい。でも当真よりは安定感ない?」
「…うーん、まあ、うん」

 確かにグラグラしない。やっぱり当真が下手くそなだけで普通がこうなのだろうか。それとも当真が普通で中学の友達と犬飼が上手いのか。

「あー安定感すごい。犬飼自転車通学すればいいのに。毎日これなら楽だわー」
「…すごい殺し文句」
「は?」
「なんでもないよー」
「? あ、でも自転車通学したら鳩原と三人で帰れないか。じゃあ今のままでいいや」
「…あ〜もう穂村ってば俺の機嫌とってんの!?」
「は? そんなことはないけど」

 何か急に怒りだした犬飼に首を傾げる。何怒ってんの、と聞くと「怒ってない! 怒ってないけど!」と返ってきた。怒ってんじゃん。

「あーもう、当真とかと二人乗りはもうしちゃダメだよ!」
「心配しなくとも二度としないわあんなの」

 当真の運転を思い出して、ブルリと震えた。

当真と仲良くしてたら犬飼に嫉妬される

SANDGLASS