柿様リクエスト


「やっぱりさあ、辻くんっておかしいよ」
「は?」

 昼休み、辻くんと一緒にお昼を食べながらそう呟くように言う。辻くんはなんのことだか分かっていないようで、眉を寄せて首を傾げている。いやいや、この状況もおかしいんだけどね? なんで私と辻くんで一緒にお昼食べてるの。いや私が誘ったからなんだけど。いやでもさ、辻くんもなんでOKすんの? 私のこと苦手なのに「辻くんお昼一緒に食べよー」って言われて「…いいけど」って答えちゃうのおかしいよね? この前バウムクーヘン食べに誘った時も思ったけど辻くんって頼まれると断れないの?

「いや。別にそんなことはないと思うけど」
「あー止めて謎が深まる」

 つい最近まで辻くんが一番分かりやすい子だと思ってたのに今では一番分からない子だよ。辻くんの心理状態ってどうなってんの? 普通苦手なやつの誘いって断らない? 私が話しかけたら嫌そうな顔はするくせに誘いには乗ってくるんだからもうわけが分からない。やばい、謎すぎる辻くん。何考えてんのか分からない。

「…あ、これチーズ入ってる。辻くん食べて」
「…しょうがないな。置いといて」
「代わりにトマト頂戴」
「嫌いなもの食べてやってるのになんで俺がおかずをやらなきゃいけないんだよ。…あ、こら」
「いいじゃんトマトくらい」
「カップルか」

 言い合いをしていると、私のものでも辻くんのものでもない声でツッコミが聞こえて、ふと動きを止めた。声のした方を見ると、廊下側の窓から顔を覗きこませた奈良坂くんがいて、私は特に驚くでもなく片手を上げた。

「やっほう奈良坂くん」
「ああ。それにしても仲が良いな」
「あっはは、でしょー。羨ましい?」
「いや別に」
「そもそも俺達は仲良くないけどな」

 きっぱりと否定する辻くんに「うわあひっどい」と笑う。ついでに奈良坂くんも酷いね。羨ましい?って聞かれてそんなにきっぱり首を横に振りますかね。私の同級生の男子はちょっと私に冷たすぎるよ。出水を見習ってよ。なんでか知らないけどめっちゃ懐いてくれてるよ。めっちゃフレンドリーだよ。なんでか知らないけど。

「私のガラスのハートが粉々だー」
「それで奈良坂はどうしたんだ?」
「うわあすごいナチュラルに無視するじゃん…」

 辻くんちょっと私に冷たすぎるな。もっと私に優しくしてよ。ドライモンスターとか呼ばれてるけどほんとに私ガラスのハートなんだよ? ホントだよ?

「いや、辻に体操着を借してもらおうと思って」
「ああ、うん。それは構わないけど。珍しいな、奈良坂が忘れ物なんて」
「一昨日に持って帰ったの忘れてたんだ」

 私を完全に放って会話をする二人を眺め、軽く息を吐いた。畜生。こんなことなら三年のとこ行って鳩原先輩と食べるかそれかひゃみちゃんとか宇佐美ちゃんのとこ行けばよかった。あーあ失敗した。やっぱり辻くんは冷たいし。
 じゃあ、と自分の教室に戻っていく奈良坂くんを見送って、辻くんに向き直る。辻くんはジッと私を見ていた。

「…え、なに?」
「…いや。ほんとに髪短いなと思って。他の女子はそうでもないのに橘はすごい後ろ姿が男に見える」
「ん? なんかすごい貶されてるね? あれ? さっきのそんなに嫌だったの?」
「? さっきの?」
「なんなのもう…」

 奈良坂くんに言われた「仲が良い」という事実に肯定したのがそんなに嫌だったのかと焦ったが、どうやらそうではないらしい。いやそうじゃないならなんで私こんな貶されてんの? 酷くね?

「別に貶したわけじゃなくて…」
「今の貶してないんだったら何だったの一体」

 なんなのやっぱり辻くん謎すぎる。男みたいと言われた髪を弄って、首を傾げる。普通にこのくらいのショートならその辺にいっぱいいると思うけどな。言うほど短くしてないよね? 辻くんの目がおかしいんじゃないの?

「伸ばしたら普通に可愛いのに、って、思っ…」
「…は?」
「……なんでもない」
「いやいや聞いたよ。なになに? 可愛いって? もう一回言って辻くん」
「うるさい黙れ」

 完全に私から顔をシャットダウンしてしまった辻くんを突いていると、昼休みが終わった。私は大人しく諦めて辻くんの隣の自分の席に戻る。まあ辻くんがそこまで言うなら髪を伸ばしてもいいかもしれない。
 なんだか少し、気分が良かった。


 ▽


「え、髪伸ばすの?」

 その日の訓練で、私は鳩原先輩に髪を伸ばす旨を伝えた。少し驚いた顔をしたあと、鳩原先輩は「いいんじゃない?」と笑った。作って顔面に貼り付けたような笑顔をする人だが、私は鳩原先輩が好きだった。

「でもどうしたの急に。髪長いと鬱陶しいって言ってたのに」
「いやあ辻くんがですね」
「辻くん?」

 私は昼休みのことをまるっと鳩原先輩に話した。すると鳩原先輩はまた驚いたような顔をして、今度は笑わずに眉を寄せて私を見てきた。鳩原先輩のこういう顔は珍しい。

「辻くんのために髪伸ばすの?」
「え? いや違いますよ……って、ん? あれ、違わないのか?」
「違わないよね?」
「……」
「……」
「……まあでもたまには違う髪型も良いじゃないですか。うん」
「(思考を放棄した…)」

 辻くんのためとかそんなの考えなかったな。でも確かにそういうことになるのかもしれない。全然意識が及んでいなかった。
 その日の訓練はなんだか身が入らず、ぼんやりとしていた。辻くんのために髪を伸ばす、という思考は一体どこから来たのか、そればかりを考えていた。

「うーん…」
「何を唸ってるんだ?」
「…あ、辻くんだ。まだ帰ってなかったの?」
「今日も橘が一緒に帰ろうって言ったんだろ」
「あー、うん。そうだけど」

 また待ってたのか、とやはり辻くんの分からない思考に首を傾げた。いやでもなんか今日は辻くんの思考だけじゃなくて自分の思考のほうもよく分からない。他人のために行動してるってなんか、変だ。

「…お互いよく分かんないね」
「は?」
「うん私もよく分かんないから」
「熱でもある? 変だよ今日」
「うんうん変。今日は早く帰って寝るわ」
「そっか、駅前の本屋に付き合ってもらおうと思ってたんだけど」
「あ、行く」
「行くんだ」

 まあよく分からない者同士、上手くやってるんじゃないかなーとは思う。

辻くんと同い年な話続編

SANDGLASS