如月様リクエスト
※なんかユズルの独白みたいになりました※


「なんっかさあ」

 オレと雨取さん、夏目の三人で集まっていろいろと他愛のないことを話していたとき、ふと夏目が話題を切り替えた。オレと雨取さんは同時に夏目の方を見やる。

「あの……ドライモンスター先輩って」
「ドライモンスター先輩?」
「ああ、橘さんだね」
「そうそう。あの人、なんでドライモンスターなんて呼ばれてんの? なんか印象そんな感じしないんだけど」

 夏目が出したのは、オレもよく知る橘さんの話だった。橘さんにあまりいい印象を抱いていないオレは思わず少し眉を寄せてしまう。それに目敏く夏目が気付いた。

「お? どうしたユズル〜、そんな顔して」
「…別に。オレあんまりあの人好きじゃないから」
「えっ、なんで!? めっちゃ良い人じゃん!」

 夏目の返答に、雨取さんも頷く。二人がそう思うのは、この二人の前であの人が猫を被っているからで…と、そこまで考えて、首を横に振る。この二人と、オレに対するあの人の態度はあまり変わらない。二人がただ単純に気づいていないだけの話だ。あの人の言葉の節々から垣間見える闇とか冷たさとか、そういう黒いものに。そんなことは二人には言えない。しばらく黙って、「あの人は鳩原先輩の親友だったから…」とそれだけ呟いた。

「親友だったから…? あ、もしかして師匠取られて嫉妬してんの?」
「……」
「あはははっ! 可愛いねえユズル!」

 夏目の笑い声にぐっと歯を食いしばる。オレがあの人を苦手なのはそういう理由も確かにあったのだけど。けど。

「でもユズルくんが羨ましくなっちゃうくらい、鳩原先輩と橘先輩は仲が良かったんだよね?」

 雨取さんがそう言って微笑んだ。恥ずかしさが一気に引っ込んだ。雨取さんはこうやって人の気持ちを落ち着けるのが得意だから、なんだか不思議だ。

「うん……でも」
「? でも?」
「鳩原先輩がいなくなってからのあの人は…なんか、鳩原先輩に依存してるように見える」

 あの人はオレのことを鳩原の弟子≠ニ呼ぶ。オレにベタベタと構ってくるのもオレに認められたいと言ったのも全て、オレに、鳩原先輩の弟子だというオレに鳩原先輩を重ねているんだ。気付いているのか無意識なのか、それともそれがどれだけ酷いことなのか気付いていないのか、それは分からない。だけどあの人の行動にいつも、オレは底知れない闇と冷たさを感じて、逃げ出したくなる。そうして、叫びたくなる。オレは鳩原先輩じゃない、と。だけどきっとあの人は叫んだオレの気持ちなんてなんにも分かっていない顔で首を傾げるのだろう。「そんなの分かってるよ」と。あの人はそれほどに、鳩原未来と言う人に依存している。

「依存…?」
「…いや、なんでもないよ」
「何がなんでもないの?」
「いやだから……、ッ!?」
「あっははは、めっちゃ驚くじゃん」
「あっ、ドライモンスター先輩こんちは!」
「こんにちは」
「こんにちはー。ところで出穂ちゃんそのドライモンスター先輩ってやめて欲しいなー」
「え? でもそう呼ばれてんすよね?」
「うんそうなんだけど……うーんまあいいか」

 いいんだ、と内心で呟きながら距離を取る。そんなオレに、当の本人……橘さんはへらっと乾いた笑みを浮かべた。ドライモンスターの名にぴったりな乾燥した笑い方だ。皆鳩原先輩の笑顔を作って貼り付けたような笑い≠セと言うけど、オレはこっちの笑いのほうが嫌いだった。

「それで? なんの話?」
「ドライモンスター先輩の話っす!」
「どら…私か。…えっ、ユズルが私の話?」

 パッと橘さんがオレを見る。驚いたような視線がウザったくて、顔を顰める。

「言い出したのはオレじゃないよ。夏目だから。オレあんたのこと嫌いだし」
「ねえねえユズルくん私も傷付くんだよ」
「わ、わたしは好きです」
「アタシも!」
「わー千佳ちゃんも出穂ちゃんも大好きー」

 ほら見ろ、と俺を眉を寄せる。あまりに乾いて心のない「大好き」は、もういっそ冷たさすら感じない。この人の言葉からオレはなにも感じ取れない。何故この人と、他の人は普通に会話ができるのか、オレには不思議でならない。

「ユズルってば冷たいよね〜ほんと」
「あ、でもユズルの師匠と仲良い先輩に嫉妬してるだけみたいなんで気にしないでいいんじゃないすか?」
「夏目!」
「いやあまあそれは知ってるんだけどね」

 オレが橘さんを嫌っている理由は全てあのA級昇格試験のときに伝えた。ただ嫉妬の理由以外は詳細には伝えていない。「あんた自身がなんか嫌だ」と曖昧に伝えているだけだ。あのとき全て伝えてしまうのも癪だったし。

「でもさあ、こんなに構い倒してるんだからちょっとくらい懐いてくれても良くない? 出穂ちゃんのネコ助も懐いてくれないしさあ。私猫系に懐かれないのかな」
「いやあれアタシのネコじゃないんで」
「人を動物とひとくくりにしないでよ」
「えーでもユズルって猫系男子だよね? …あ、ちょっと猫耳とか付けてみる?」
「……」
「あっめっちゃ本気で睨むじゃん冗談だよ」

 やっぱりオレはこの人が嫌いだ。

中二狙撃手組との絡み

SANDGLASS