影薄少女の恋
「えっ、御国さん合宿所泊まんないの!?」
「うん日向ちょっとボリューム下げて」
GW前日、昼休みに日向と出会した(ぶつかった)のでお話しています。お話っていうか、日向がいきなり「今日合宿さ! 楽しみだな!!」って叫んできたから合宿所には泊まらない旨を伝えたのだ。道行く人が日向の声の大きさに驚いている。日向、私注目されるのに慣れてないからさ。
「あ、ごめん……でも何で?」
「うーんと……まぁ、色々…?」
「でもご飯とか準備してから帰るんでしょ? 御国さん家遠いんじゃなかったっけ」
「平気平気。私の事ちゃんと認識出来る奇人は武田先生くらいだし」
「いやでも、危ないよ!?」
近い近い日向。日向も武田先生も心配し過ぎなんだよなぁ……確かにいっつもバレー部の人達と帰ってるけど、どうせ途中から一人だし、別にいつもとそんなに変わらないのに。
「…おれ、武ちゃんに相談してくる」
「えっ、ちょ日向!?」
…人の話を聞かない子だなぁもう…!
▽
「…で結局? 合宿の間武ちゃんに送り迎えしてもらうの?」
「迎えまでは良いって言ったのに……なんで人の話聞かないのあの人たち」
結局あの後すぐに武田先生が教室に来て、私の送り迎えをすると申し出てきた。日向も武田先生も行動早すぎる。橘は話を聞いて何やらニヤニヤしている。…何だよ。
「良かったじゃん、武ちゃんに送り迎え」
「……ハイ?」
「まさかバレてないとでも思ってたの? あんた今ちょっと嬉しそうよ」
「…ゴメン何の話?」
本気でわからなくてそう問えば、橘ははあ?と眉をしかめた。…え、何私変な事言った?
「あんた武ちゃんが好きなんじゃないの?」
「……ウン?」
「はぁ!? 自分で気づいてないの!? 前笑って『武田先生の前だとちょっと変なんだよねー』とか言ってたのあれ自分で分からずに言ってたの!?」
「え、いやあれは素朴な疑問というか、」
「…はー……ありえないわ」
額に手を当て大きな溜息を吐き出す橘。ええぇ……っていうか橘とこういう話した事ないからなんかちょっと照れる…
「あんた初恋もまだのパターン?」
「いや初恋は小学校の時に……その、先生に」
「そこでも先生かい!!」
そういえばあの先生も、武田先生ほどではないにしても私を気にかけてくれていた。お母さんでも私の事に気付いてくれなかったのに、いつも一番に見つけてくれた。武田先生ほどはっきり認識してはいなかったけど。
「…ちょっと待って」
「なによ」
「こっから武田先生にどう接すればいいの…!? 送り迎えあるのに!!」
「知るか!!」
いや車の中で二人きりとか死ぬ!!
▽
…さて、武田先生が好きだととんでもない自覚をしてしまった御国千景十五歳です。…で、まぁ、普通に考えるとやばいわけですよ。いや考えなくても分かるけどやばいんですよ。先生に恋とか!! そんなの叶うのは漫画とか小説の中だけですからね!? 普通に考えて無理だ。万が一に両想いとかだったとしても無理だ。先生と生徒は法律で恋をしてはダメと固く禁じられて……いやそんな事は知ってると思うのですけど。…だめだ、先生に迷惑がかかる。
「大丈夫大丈夫……私飽き性だし」
恋愛にこの飽き性が通用するのか不明だけど。
「千景ちゃん、これ洗濯してきてくれる?」
「あ、はい」
放課後、部活。音駒高校との試合を目前に控えているからか、皆さん凄くやる気です。潔子さんも私を見ることもなくとても忙しそうです。声だけの指示を聞き、私は指されたタオルを洗いに外に出た。…これから連日かなり遅くなるけどなんて言おうかな、お母さんに。うーん、いっつも私が帰ってきてるのにも気付いてないくらいだし……何もいわなきゃバレないかなぁ…バレー部のマネージャーやってるとか言ったら絶対辞めさせられるしなぁ…
『何やったって迷惑になるだけよ!!』
「……」
…GWだし、バレたら友達と遊んでたって言えばいいか。
「千景ちゃん?」
「、あ、はいここです!」
「、あぁいた。洗濯終わった?」
「はい」
「じゃあ次は…」
まあとにかく、今は仕事に集中しなければ。そう意気込んで、私は言われた仕事に取り掛かった。
「千景ちゃんって武田先生の事好きだよね」
「、え」
唐突な潔子さんの言葉に、私は暫し固まった。部活終わり、更衣室で着替えている時の事だ。
…橘はまぁともかく、何で潔子さんにまでバレてるんだろう。
「な、何で分かっ…!?」
「…見てればわかるよ。凄くわかりやすいと思う」
「え!?」
…私そんなに分かりやすいかな……いやそんなはずは……なんて考えながら、着替え終えて更衣室を出た。すると丁度校門のところで男性陣と合流した。今から合宿所に行くらしい。
「お、清水、…と御国。来たな」
「…澤村先輩」
「ん?」
「私の好きな人って誰か分かりますか?」
「…うん?」
唐突な私の問いに、澤村先輩は首を傾げた。いやまぁその反応が正解でしょうけど。
「分かりますか?」
「…いや……御国好きな人居たのか…」
「なになに、御国の好きな人? 清水とか?」
「菅原先輩。いや潔子さん好きですけど。そうじゃなくて」
「じゃあ月島?」
「絶対ないです。…やっぱり分かんないですよね?」
「いた事自体に驚きだよ俺は」
「ほら潔子さん! やっぱり見てるだけじゃ分かんないんですって!」
「じゃあ女の勘」
えぇ…女の勘凄いな……いやでも、橘と潔子さん以外にはバレてないことが救いか。バレてたら辛い。部活に居辛くなる。
「…まだバレー部居たいし」
少なくとも、お母さんにバレるまでは。
▽
「うおおおっ 初めて来たっ」
「なんか出そう」
「ちょっと止めてよ山口」
「だって…」
「御国は存在自体が幽霊みたいなもんデショ」
「月島君死んでください」
19時55分、合宿所に到着した。何だか如何にも出そうな雰囲気だなーと思ってたら山口が考えてた事まんま呟いたので余計に怖くなった。…ホラー見る分には良いんだけどなぁ……あ、いや別に信じてないけどね。月島ホントにこの合宿中にくたばればいいのに。日向が興奮して合宿所を見て回っている。…練習後に元気だなあ日向。
「一日中むさ苦しい連中と顔つき合わして何が楽しいのさ」
「「おい月島てめぇ半径500m以内に潔子さんが居る空間はむさ苦しくねぇんだよ!!」」
日向に呆れてそう呟いた月島に講義する西谷先輩と田中先輩だが、菅原先輩の「清水は家近いから用事終わったら帰っちゃうよ」という言葉に撃沈していた。しかし起き上がり「いや千景ちゃんがいる…!」と田中先輩が私を探しキョロキョロとしていたので肩をポンと叩いた。
「っ、ぅおおっ!?」
「! おお、千景! この際千景でも良い! 居るんだよな!?」
「西谷先輩あんた失礼すぎませんかね。……いや諸事情あって私も帰りますけど」
「嘘だろ!? お前家遠いって言ってたろ!?」
「だから諸事情あって、って言ってるじゃないですか」
ショックを受けたような二人の顔に苦笑して、私は潔子さんの手伝いをすべく立ち上がった。結局認識できないんだったら私が居ても居なくても一緒だと思うんですけどもね。
▽
それから潔子さんと武田先生と一緒に作ったカレーをバレー部皆で頂いた。武田先生の三角巾とエプロンが大層似合っていてちょっと笑ってしまった。後料理をする武田先生にちょっとときめいたのは秘密である。夕食を食べた後、潔子さんと武田先生の車に乗って家に帰った。潔子さんの家が本当に近くて羨ましかった。いいなぁ。
…で、まぁ二人きりな訳ですが。
「(うわあ……うわあ………うわあ……っ!!)」
やっばい心臓やばい…!! ちょ、本当に死にそう!! 武田先生は潔子さんがいた先程まで喋っていた私が黙りこんだからか、不思議そうにしている。な、何か話さないと……な、何か…!!
「つっ、月が綺麗ですね!!」
「え? …ああそうですね」
…私何月並みな事言ってんだアホか。いや洒落じゃなくて。
「…そういえば、夏目漱石にI love you≠月が綺麗ですね≠ニ訳した……なんて逸話がありましたね」
「え!? …あぁ……そうですね。でもあれデマじゃなかったですっけ」
「そうですね。…もし本当だとしたらロマンチックだとは思いますが。流石にないでしょうねぇ」
びっくりした。まさか告白として受け取ったんじゃないかと少し焦ってしまった。…いやでも、この話私の年であまり知ってる人いないよ武田先生。もし知らなかったらどうするつもりだったんだ。
段々と心臓が落ち着いてきた。窓から見える月を見ていると、思わず笑みが零れた。
「………月が綺麗ですね」
「そうですね」
デマだと言った後にこんなことを言う私はきっと臆病なのだ。それでも、遠回しにでも伝えてみたくなった。
自分の想いに気付いた日の夜の事。