頭がパンクしそう
「……まったやらかした〜……」
次の日。お馴染み自己嫌悪タイム。やってしまった。昨日のは完全にやってしまった。ありえない。何様だったんだろう、私。自主練なんてやるかやらないかは個人の自由だし、私の口を出すべきところじゃないのに。つらい。学習しないのかな、私。
練習中もなんとなく気まずくて月島のこと避けてしまうし、やっぱり学習してないのかもしれない。武田先生のときと同じことしてる。人ってそう簡単に成長しないんだな……月島に人のこと言えないわ。はは。……はー……
「……っと、御国さん、だっけ」
「えっ? あっ、えーと、赤葦さん」
見るからに落ち込みながらドリンクボトルを片付けるために運んでいると、角の出会い頭に赤葦さんに出会した。やっぱり突然現れた(ように見えただろう)私に驚いた様子はない。
「こんばんは。……それ運ぶの? 手伝うよ」
「え゛っ!? い、いやいや、練習で疲れてるだろうし自主練もあるだろうしマネージャーの仕事なんで、」
「木兎さん……ああうちのエースね、あの人の自主練始まるとノンストップなんだ。休憩がてら運ばせて、ね」
スマートに説得され、2つ持っていたカゴのうち一つを持ってもらうことになった。正直2つ重ねて歩くよりバランスが取れて運びやすい。助かる。いや、話すの二回目だけどまじでこういう人がモテるんだろうな……東京ってレベル高。
にしてもマネージャーの手伝いを休憩がてらとか言わせるボクトさん?との自主練どんだけハードなんだ。怖いな。
「……そういえば昨日月島となんか言い合い?してたよね」
「エッ、み、見られて……?」
「というか、最後の捨て台詞だけちょっと聞こえてたかな」
「う、うわーっ、すみません忘れてくれませんか」
よりにもよって一番ダサいところ聞かれてた!! 慌てて懇願すると赤葦さんは少し考えた後少し笑って「どうしようかな」と肩を竦めた。うわ、画になる。こういうとこもモテそう。ってそうじゃなくて!!
「赤葦さん!」
「……あー、そういえばあの後、月島の方はうちの木兎さんと黒尾さんに誘われてブロック練やってたよ」
「……え」
わざとらしく話をそらされたがその内容に興味を移さざるを得なくなった。そういえばなんか昨日後ろで黒尾さんの声がしてた気はしてたけど、ブロック練に誘われてたのか。月島がそれに付き合うなんて意外だな。やっぱ先輩に言われたから断れなかったのかな。……いや月島なら普通に断るな。じゃあなんでだろ。黒尾さんに挑発されたかな。これが一番ありえる気がしてきた。あの人性格悪いし……
「……えっと、つ、月島どんな感じでした……?」
「……露骨に気にするね、月島のこと」
「エッ、い、いやそりゃマネージャーなんで!」
赤葦さんは少し黙ったあと、ふいと視線をそらして再度話し始めた。
「しばらく木兎さんのスパイク練付き合う形でブロック跳んでたみたいだけど……黒尾さんにあの烏野のもう一人の……ミドルブロッカーの子のことで挑発されたらそのまま練習やめて戻っちゃったかな」
「もう一人の……て日向?」
「うん。……なんか、敵わない存在として見てるみたいだったけど」
「え……ええ〜……??」
月島が日向を、敵わない存在としてみている? あまりにも似合わない構図に思わず訝しげな顔で赤葦さんを見てしまう。いかん、他校の先輩だぞ。慌ててすみません、と謝ると赤葦さんは可笑しそうにすこし微笑んで「別にいいよ」と言ってくれる。うわ、まじでスマート。かっけえ。
また話していると目的地に着いた。「ありがとうございました!」と頭を下げれば「休憩がてらだったから。こちらこそありがとう」と逆にお礼を言われて恐縮してしまう。いい人にもほどがある。こちらとしては月島の話も聞かせてもらってマネージャーの仕事まで手伝ってもらってもらいすぎなくらいだ。どこかでお礼しなきゃな。なにか考えとこう。
「じゃあね」
「あ、はい、お疲れ様です!」
ひとまず残りの仕事を片付けてしまおう。
▽
暫く月島の様子に変化はなかったけど、山口が何やら奇声を発しながら月島を追いかけていった日から少し変化が現れたように思う。なんていうか、スパイクを止めることに意欲的になったように感じる。山口が月島に何か言ったんだろうか。やっぱり幼馴染なだけあって心を動かすに足る言葉を届けられるんだな、山口は。私はといえば幼稚な暴言を吐き気まずくなることしかできないわけですが……あ、涙出てきた。いい加減成長してもいいんじゃないですかね御国さん……はい。
月島となんとなく気まずいまま二の足を踏んでいると、赤葦さんに第三体育館での自主練習に誘われた。ボールを出したり片付けてカゴに戻したり、できればドリンクを作ってもらえると助かるんだけどと遠慮がちに言われてなにかお礼をしなければと思っていた私は二つ返事で頷いた。
「本当? ありがとう。あー……でも一緒に練習する先輩たちの癖が本当に強いんだけど……大丈夫?」
「く、癖? ああ黒尾さんとかいるんでしたっけ……まあ大丈夫です。……多分」
「多分……」
若干の不安が残る中、ひとまず赤葦さんに連れられて第三体育館に行った。……と。
「つ、月島…!?」
「あれ、言ってなかったっけ」
「聞いてないっすねえ!!」
月島とあとついでに(ごめん)日向もいた。いや日向のことは別に避けてないからいいんだけど月島はちょっと、気まずいというか。思わず赤葦さんの後ろに隠れると月島にガン見されたあとそっぽを向かれた。ガン見されるのも気まずいけどそっぽ向かれたらそれはそれで悲しいのなんでだ……
胸中にモヤモヤとしたものを抱えていると「ヘイヘーイ! 赤葦遅かったじゃん何やってたんだ!?」とめちゃめちゃ声のでかい先輩に絡まれた。赤葦さんが「木兎さん」と名前を呼んでたのでこの人が例の『ボクトさん』らしい。そういえば練習のときも一際声が大きくて注目されている人がいたな。この人か。
「ちょっとサポートにマネージャーいてくれたらと思って交渉してきました」
「マネージャー?」
そんなのどこにいんの? 交渉失敗?とキョロキョロする木兎さん。ああやっぱり見えてないな……苦笑して声を上げようとすると、赤葦さんが先に私を指差す。
「何言ってんですか、いるでしょうここに」
「え?」
少しの間。木兎さんの視線が私を捉える。
「――…ぅおッ!? エ!? いつからいた!?」
「……はは……ドーモ……」
なんか久々かも。合宿初日とかは他校のマネージャーさんにめっちゃ驚かれたりしたけど、それからそんな他校の選手と絡んだりしてないしな。絡んだといえば赤葦さん……だけど……
あれ?そういえばと思って赤葦さんを見れば、いつもと変わらない顔。……んん? 気のせいかな。気のせいか。まあそんな先生や月島みたいな人達がポンポンいるわけないよな。
「え!? なになに!? ずっといた!? 全ッ然気が付かなかった!!」
「う……、」
うるさ、と喉まで出かかったそれを既のところで押し留めた。流石に他校の先輩だしね。いやまあ黒尾さんとか及川さんとかにはもうすでに手遅れかもしれないけど。……いやでもあの二人はそもそも失礼なこと言ってきたのが悪くないか?と思うけどどうだろう。
「おっ千景ちゃんじゃーん、なになに練習手伝ってくれんの?」
「うわっ、黒尾さん」
「うわってひどくないですか? 烏野の1年はマネも生意気だね〜」
「千景ちゃんって言うの!? ねえさっきのどうやったの!?」
やばいタイプは違うけどめっちゃうるさい先輩×2に絡まれた。どうやって抜けよう。赤葦さんこの二人の扱いに慣れてそうだし赤葦さんに……と思ってたらグイと腕を引かれる。
「……、え」
「お? ……へえ、なになにツッキー、珍しいじゃん」
腕を引いたのは月島だった。月島の後ろに隠すように引っ張られてすぐに手は放されたけど、私の脳内は大混乱して爆発しそうだった。
「
「……別にそんなんじゃないですけど」
「え!? もしかしてツッキーのカノジョとか!?」
「だからそんなんでもないですけど」
月島の反応がらしくなく煮え切らない。が私の頭も大混乱していたのでそれに構っている余裕もない。完全に黒尾さんと木兎さん(こっちはそんなつもりないだろうけど)のおもちゃ状態だ。
「あ! あの! 練習! しないんですか!?」
そんな空気は打ち破ったのは日向だ。バレーボールを持ってそわそわとこちらを見ている。木兎さんは興味がそちらに逸れたみたいで「おー練習! しよう! 時間は有限だ!!」とか言いながら日向の方へ行ってしまったし、黒尾さんは毒気を抜かれたみたいで肩を竦めながら木兎さんの後を追って行った。うおお、日向ナイス。流石バレー馬鹿。
「……こんなとこに遊ばれに来たワケ?」
「……えっ、い、いやそういうわけじゃ、……赤葦さんに前ちょっと助けられたからお礼のつもりで……」
「ふーん……」
気まずい沈黙。……やばい、前暴言吐いたっきりだからまじで気まずい。どうしよう。俯いて黙っていると、月島が当てつけのようにため息を吐いた。
「赤葦さんと随分親しくなったみたいだね」
「……え? いやそんなんじゃ」
「年上なら何でもいいワケ?」
「は!?」
なんの話だ、と月島を見上げれば、ふいと顔を逸らされる。また当てつけのように溜息を吐いてそのまま練習に混ざっていく後ろ姿を見送りながら、私は呆然としていた。
……え、なに?
▽
それから放心しながらもボールを拾ったりドリンクを作ったりして赤葦さんに頼まれたサポートはしっかりとこなした。熱くなった練習は梟谷のマネージャーさんが食堂閉まるよ〜と教えてくれたことでひとまず中断された。そういえばご飯食べてなかったなとそこでようやく気づき、慌てて片付けをしながらやっぱり少し落ち込む。
「(……え、さっき月島怒ってた……よね?)」
なんかよく分からないけどよく分からない八つ当たりのされ方をした気がする。なんだろう、何に怒ってたんだろう。分からん。でもなんか普通に凹む。
あれかな、ただでさえ厄介な先輩たちのところに遊ばれるネタとして私が来たから面倒だなって怒ってるとか。……普通にありえるな。だってさっきも見事に絡まれたし。あれは申し訳ないと思う。でも赤葦さんにお礼がしたかっただけなんだけど……うーん。
「御国さん、早く行かないとホントに食堂閉まっちゃうよ」
「えっ、あ、はい」
ぐるぐると考えていれば赤葦さんに声を掛けられて慌てて残りの片付けを終わらせる。皆も粗方終わったらしく食堂に向かっているところらしい。月島をキョロキョロと探すがこちらに見向きもせずに食堂へ向かっている。うわ、凹む……
「……大丈夫?」
「えっ? あ、いえはい! 大丈夫です?」
「疑問形だね」
「あっいや……、だ、大丈夫です。大丈夫なので木兎さんたちの方行ってもらって大丈夫ですよ」
「いや俺たちのせい……というか俺が頼んだせいでこんな遅くなっちゃったんだし、折角だから一緒に行こう」
「え、あ、はい……」
押し切られるままに一緒に食堂に足を運ぶ。いや全然嫌とかではないんだけど。……ないんだけど、やっぱり赤葦さんって。
「……あの、赤葦さんって」
「ん?」
口を開いたはいいがどう聞いたらいいものか一瞬考える。私のこと見えてます?てそれはどこの幽霊だよ!だし不名誉なあだ名が思い返されるので嫌だ。うーん、なんて聞こう。
「……私のこと影が薄いとか……思ったことあります、か?」
なんだこの聞き方。いやでも他に聞き方がわからない。
「そうなのかな、とは思ってたけど俺自身御国さんの影が薄いとは思ったことないよ。……これで答えになってるかな」
「えっ、あ、いや、その……はい……すみませんなんか変なこと聞いて。赤葦さん私とぶつかってもそんな驚いてないな〜て思ってて……」
「うーん、よく分からないけど影が薄いというかむしろよく目に付くなあって思ってたよ。御国さんのこと」
「エッ!? そ、それは初めて言われました」
いつからいたの?とか目離したらいなくなるねとかはよく言われるけどよく目に付くは初めて言われた。そっか……でもそういえば武田先生も私がコソコソやってたこと結構細かいところまで見ててくれてたし赤葦さんの言うように先生の目にもよく付いてたんだろうか。月島は……知らんけど。私のこと見失わないってのは知ってるけど詳しいことは聞いたことがない。
「うん。俺が御国さんのこと好きだからかもしれないけど」
「…………えっ」
えっ