あぁもう、駄目だ。恥ずかしくて死んでしまいそう。一年生と部員の前で変な自己紹介をしてしまった次の日、私は教室で頭を抱えていた。今はまぁ、放課後である。つまりは、これから部活=醜態を晒した場所へと行かなければならない。あぁ無理だ、誰か助けて。何だよ、昨日の挨拶は。普通に名乗って、礼すれば良かっただけじゃん。国見君に見惚れ過ぎてた。あぁもう、国見君のせいだよ。国見君が、あんなに格好良いのが悪いんだ。…なんて、責任転嫁も良い所だが。それでも、人のせいにしないとやっていけない。あぁでも、国見君、格好良かったな。もう醜態とかどうでも良いから、会いたいかも。
そう考えた時、教室の入り口からひょこりと及川が顔を出し、私の名前を呼んだ。あ、一気に部活行く気失せた。ぼそりとついそう呟けば、及川は「出会い頭に酷いね!?」と半泣きで抗議してきた。止めろ、今の私は傷心中なのだ。お前の相手までしきれない。あぁぁ、それにしても、部活行きたくない。国見君に会いたいけど。国見君国見君。あ、気持ち悪いな。まぁ、いつまでもこうしているわけにもいかず私は立ち上がる。「行く気になった?」と隣で及川。うるさい、と不機嫌に一括して、溜息を吐き出した。やっぱり、行きたくないような、でもやっぱり、国見君に会いたいような。うんやっぱり恋かなこれ。似合わないけど、というか少し今更な気もするけど。後輩かぁ、とりあえず今年一年は会えるとして、卒業したら会えないな。残念だ。私ずっと年上が好きなのかと思ってたんだけどな。まぁ、国見君が格好良いので別にいいのだが。
「それにしてもさ、昨日どうしたの? 何か考え事でもしてた?」
「は?」
「あ、いや純粋な疑問だよ佑ちゃん」
及川の問いに、思わず隣を歩く及川を睨みつけたが、本気で純粋な疑問として聞いたらしい。私は少し言うのを躊躇して、しかしまぁ、これからの私の態度で、人をよく見ている及川には気付かれるかもしれないと、話すことにした。
国見君に見惚れてた、と、直球に、そのまま伝えた。及川は固まって、歩みを止めた。私は気にせずに歩く。予想内の反応だ。気にせず歩きつづける私に、及川は慌てた様子で私の名前を呼ぶ。何だよ、結構恥ずかしいんだそクソ川。「国見ちゃん!? 国見ちゃんなの!?」と詰め寄られて、眉を寄せる。何だよ、国見君いけないのか。顔は及川に負け劣らず格好良かったじゃないか。金田一君もまぁ、格好良いっちゃ格好良いが、綺麗な顔ではなかった。あ、ごめんよ金田一君。国見君駄目なの、そう問えば、及川は困惑した表情で「ダメじゃないけど」と呟くように言った。けど、なんだよ。
「佑ちゃん俺の事が好きなのかと」
「はい勘違い乙ー」
「即効否定ね分かってた!!」
私が及川を? ははっ、ないわー。つか、あんだけ無下に扱われといて、自分のこと好きなんじゃないかってよく思えたな。何だろ、Mなのかな及川。もっとしろってこと? うわぁ気持ち悪い。別に及川が嫌いとかそういう話ではなく、まぁ好きな部類には入るのだが、あくまで友達だ。及川が私に対して思ってるのと同じだろう。自惚れでなければ、それなりに大事な友達として好かれているとは思っている。
私の冷たい返しに落ち込む及川を一瞥して、部活遅れるよ、と声をかける。珍しく声をかけたからか及川は嬉しそうな顔でついてくる。おい犬か。……犬か、うん。いやまぁ、及川が良いなら良いや。何か及川と話してたらどうでも良くなってきた。醜態とか、色々。…あ、やっぱどうでも良くない。どうしよ。
そんな感じでまぁ、体育館に着いた。……あぁ着いてしまった。少し入るのを渋っていると、及川が扉を開けて大きな声で挨拶をした。やっほー、と、軽快な挨拶。いつも注意してるのにこいつは、ほんとに聞かないな。及川に続いて入ると、私に視線が集まった。あぁぁぁ。私は視線から逃げるように、慣れ親しんだクラスメイトと友人のいる場所へと走った。すると花巻が何やらニヤニヤしていたので、いつも及川にかます蹴りを一発、入れておいた。腰を抑えて震える花巻を見下ろして、嘆息。よし、いつも通りに行こう。いつも通り。いつも、通り……
「あ、昨日の先輩」
- ゴンッ
「空木!?」
…あ、ヤバい。勢い付いて頭ぶつけちゃった。岩泉の慌てたような声と、及川の吹き出した声と、花巻の「ざまーみろ」と嘲笑う声が聞こえた。とりあえず、岩泉大好き。及川と花巻、後で覚えてろ。頭を抑えて蹲りつつ、冷静に頭を巡らせて、深呼吸した。今の声は、幻聴だ。何も聞こえてない。うん。…いや、全然冷静じゃないな私。いやでも、現実逃避くらい、したっていいじゃないか。なんて、頭を巡らせていれば、「先輩」と、現実逃避の元凶の声。…まぁつまりは、国見君の声なわけで。あぁ素敵な声だ。いや待て、とりあえず、落ち着け私。昨日みたいな失態は、繰り返さないようにしなければ。私は頷いて、顔を上げて振り返る、と、目の前に、国見くんの顔、が、
「あ」
「っ!?!?」
私は反射的にすごい速さで後退った。あぁ、国見君の、き、綺麗な顔が、目の前に。私はあまり顔に出ないらしいので、顔は赤くなっていない、だろう。うん。無表情も、ちゃんと保てているはずだ。しかし、その辺が仇になったらしい。「そんな嫌がらなくても」と国見くんの言葉に、そんなつもりじゃ、と少し慌てる。いやホントに、私の心臓が保てば、いつまでもあのままで全然良いんですけど。ごめんなさい、と謝れば、「良いですよ、大丈夫ですか?」と、しゃがみ込む私に手を差し出してきた。その手を恐る恐る取って、立ち上がる。…手、大きいな。流石は男の子。手を話して、触れた方の手をぎゅっと握った。…手、洗いたくないなどうしよう。いや汚いか、流石に変態臭もするし。
「そういえば、昨日名前結局分からなかったんですが」
「う、」
結局昨日は、羞恥に耐えられず帰ってしまい、名乗ったいなかったのだ。空木佑です、と名乗ると、国見君が「空木先輩」と繰り返したので、自分の名前が呼ばれた事に少し感動した。く、く、国見君が、私の名前を。国見君は「先輩?」と、訝しげに私を見る。あぁ、格好良いな。そんな国見君を、ぼんやり、眺める。
「俺の名前覚えてますか?」
「く、国見君です」
「はい」
「国見君」
「はい」
「宜しくお願いします」
はい、と笑った国見君に、私の心臓は爆発寸前だ。
ときめき爆発
(仕事して、と珍しく及川に注意された)
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