「佑ちゃんは国見ちゃんが好きなの?」
は?と、唐突な及川の言葉に、私は眉を寄せて顔を上げた。今日、私は日直で、用事で早く帰らなければいけない相手の子の代わりに日誌を書いているところだ。因みにその子は日誌以外の仕事を私がやる前に全て片付けてしまっていたので、用事というのが嘘ではない、と断言できる。因みに、何故及川が部活の時間であるこの時間にここにいるのかと言えば、この野郎、部長のくせして足を捻挫しやがった。だから暫くの間、及川は部活禁止。絶対安静。それで暇だとかで、私が日誌を書いているのを眺めているのだ。このクソ川、暇なら手伝えっつーの。…いや、今日一日の事書くんだから違うクラスのこいつには無理か。そう内心舌打ちしつつ、日誌を書いていれば、冒頭の及川の問いだ。私は何を今更、と思いつつ、そういえば直接的には言っていなかったなと思い直す。一度国見君に見惚れてた、とは言ったが、国見くんが好きとはちゃんと言ってなかった気がする。そう思いつつ、好きだよ、と返すと、「そっか」、とどこか及川らしくない返事。……え、どうしたの。私は少し驚いて、及川を見上げた。すると及川は少し寂しそうな顔で、「娘がお嫁に行っちゃうような気分」誰が娘だ誰が。こんなうざい父さん嫌だ。そう言えば、及川はいつものように「酷いっ!」と泣き真似をした。鬱陶しいなぁ、もう。
「何、一目惚れって奴? 結構最初の方から、佑ちゃん挙動不審だったよね?」
相変わらずよく見てる。そう思いつつ、まぁねと当たり障りない回答。こいつはウザイしムカつくが、恋愛相談をするには持ってこいだ。というか、適任がいない。岩泉はこう、恋愛相談なんかすると初な反応が返ってきそうだし、花巻は面白がる。あいつに弱みは握られたくない絶対。松川は、恋愛相談…ってガラじゃないし渡君とか矢巾君とか、二年生にこんなこと言えるわけないし、金田一君だって同様だ。あの子初そうだよな……というか、恋愛相談出来るほど仲良くないし。
そして悲しいかな、他校に友達はいっぱい居るのだが、どうにも青城に友達がいないのだ。女の子の。泣きそう。いや別にコミュ症じゃないし。違うし。慣れない子と話せないだけだし。…なんて、誰に言い訳してるのか、心の中で落ち込んでいると、「おーい」と及川の声。…あ、そうだった。及川と話してたんだっけ。
「というか、何で国見ちゃん? 顔?」
「…まぁ、タイプっちゃあタイプだけど。最初に会った時、及川も見てた通り、助けてくれたから」
「………ふーん」
「何その顔」
「だから娘がお嫁にいっちゃう父親の気分」
「だからあんたみたいな父親は嫌だって」
そんな会話をしながら、私は着々と手を進めていく。早く部活に行かなければ。こいつの相手ばっかりしてられない。いやまぁ、相談に乗って貰っててアレなのだけど。最後の一言も書き終えて、よし、と日誌を閉じた時、ガラリとドアが開いた。及川ファンだったらこれはマズイな、と思いつつ、二人でそちらを向けば、何故か、その、く、く、国見君が、立っていて。私はどもりつつ、彼の名前を呼んだ。なんで、ここに。三年生の教室なのに。
「岩泉さんが、空木先輩が遅いからなにしてるのか見てこいって………及川さんもいたんですか」
「えっと、日直で、日誌をね」
そう答えると、そうですか、と眠たげな目で返事が返ってくる。というか岩泉、君は同じクラスなんだから私が日直だって知ってるでしょうに。忘れてたのか、まぁ岩泉だし怒らないけどさ。花巻とかだったらまぁ、怒るけど。及川?殴るに決まってる。
後は日誌持っていくだけだから、と伝えると、国見君は、そうですか、と先程と同じ返事を返し、部活に戻るのかと思いきや、そのままこちらを見つめてくる。な、な、何ですか。好きな人に見つめられると、こう、なんか照れるのですが。しかしそれも、国見君の一言で打ち砕かれる事になるのだけど。
「初日から気になってたんですが、及川さんと空木先輩は付き合ってるんですか」
「「は?」」
「何かしらいつも一緒にいるし、何か仲良さ気だし」
「止めてちょっと悪寒がする」
「そこまで!?」
隣で及川が騒ぐが、それを無視する。落ち着いた風を装ってはいるが、内心はかなり慌てている。ちょっと待って、もしかして初日からずっと勘違いされてたって事? 私と及川が、付き合ってるって? そんな馬鹿な。一番あり得ない勘違いされた。しかも好きな人に、とか、何それ笑えない。私は絶対違うあり得ない、と国見君に念を押して、及川を睨んだ。「理不尽だなぁ」と及川は苦笑していたが、そんなの知らない。本当に、ありえないから。だって及川は後にも先にも、友達以上には成り得ない。
「全力で否定しますね」
「違うからね」
「分かりましたよ、違うんですね」
おかしそうに笑う国見君。誤解が解けたことにホッと安堵する。本当に、及川と付き合ってるとか笑えない。そんなの、及川ファンに殺されるし。というか普通に友達だし。誤解も解けたので、私は鞄を持って、日誌を届けてくる、と国見君に伝えて椅子に座ったままの及川を振り返り、絶対安静だと念を押してから、教室を出た。すると国見君が後ろから声をかけてきたので、振り返ると、こちらに駆けてくる国見君の姿。え、と少し固まる。
「着いていきます。ついでに部活、一緒に行きましょう」
「っ! う、うん」
幸せってきっと甘い
(だって今、こんなにも甘い)
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