「烏野高校?」
あぁ、と、たった今その高校の名を口にした岩泉は、私の手渡したドリンクを口に含み、頷いた。どうやら明日、その烏野高校と練習試合をするらしい。因みに今は部活の休憩時間だ。烏野高校、か。聞いたことはあるけど、どんな高校かは知らない。ただ、高校を選ぶ時、あそこは坂がキツイから嫌だなーって思って。学力に合っててそれなりに家に近いところを選んだ。マジであの坂、キツかったし。そういえば、友達が烏野行ってたな。女の子だけど。いや、他校には、いっぱいいるんだよ、友達。青城で女の子の友達が出来ないだけで。何か悲しくなってきた。い、いや別に、悲しくなんかないもんね。ちょっと、同い年の女の子が怖い、というか、上手く話せないだけで。というか、女の子の友達が出来ないのは、及川のせいだ。くそ及川、クソ川。ホントに、天罰でも下ればいいのに。…あれ、そういえば及川といえば、あいつ今、捻挫してなかったっけ。どうすんの、と問えば、岩泉はそれなんだよな、と溜息を吐き出した。
「向こう、影山……あ、烏野の天才セッター、出せって言った手前、こっちは正セッターじゃねぇなんて格好つかねぇ」
「へー、天才セッターね。ま、及川もトスとかバレーの技術は凄いんだけどね。素人目で見ても。ウザいけど」
「あぁ、ウザいけどな」
と、いうことは、練習試合のセッターは矢巾君で行くわけだ。あの子、なんか及川の後釜辛いとか零してたし、大丈夫かな。でもまぁ、矢巾君も上手だし、何ら問題はないのだけど。それにしても、烏野のセッター、凄い子なんだ。私はよく分かんないけど、天才って言われるくらいなら凄いのかな。友達、知ってるかな。いや聞いたところによれば、その天才セッター君は一年らしいし、私の友達は当然三年だし。分かるわけ無いか。偶には調査、みたいなことして役に立とうかと思ったんだけど。らしくないことはするなって事かな。なんて、少し黙りこんで考えていれば、岩泉がちらりと横目で私を見て、「影山の事知りたいなら金田一か国見に聞けば分かるんじゃねぇ?」と、少し的外れな事を言われた。いや別に、その天才セッター君…基、影山君の事を知りたいわけじゃなくて。いやでも、国見君か………国見君と話せるなら、聞きに行ってみようかな。うん。私は練習終わりにでも聞こう、と、休憩終わりのホイッスルを聞きながら頷いた。…ちゃんと話しかけられるかな、私。いや、影山君の事聞くだけだし。
それに一年生とのコミュニケーション、取らなきゃだし。金田一君とあまり話せてないしね!
「………仕事しよ」
―――…
――――…
―――――…
「あ、金田一君、国見君」
練習終わり、私は部室から出てきた二人に声を掛けた。きょとん、とした顔で振り返った金田一君と、眠たげな目で振り返った国見君の反応の違いに、内心苦笑しつつ、練習終わりにごめんね、と前置きしてから、影山君の事なんだけど、と話を切り出した。するとあからさまに金田一君の顔が歪んで、私はビクリと肩を震わせた。あれ、もしかして私、地雷を踏んだのだろうか。もしかして影山君の話、したくない感じですか。顔には出さず内心慌てていれば、国見君が「金田一、顔怖い」と、金田一君を落ち着かせてくれた。金田一君はハッとして、「すんません!」とこっちが申し訳無くなるくらい勢い良く謝ってきたので、私はこちらこそごめんね、と謝って、とりあえずはその話を切った。
「でも何で影山の話を…?」
「あ、いやえっとね、明日の練習試合、その子が出てくるって聞いて。岩泉が二人に聞けば分かるっていうからその、い、一年生とコミュニケーションを、取ろうかと、思いまして」
「え」
「でも影山君の話は駄目みたいだね……ごめんね岩泉に言われたから大丈夫かと思って」
「い、いえそんな! その、ほんとにすみませんでした…!」
「金田一赤くなっててキモい」
「うるせーよ国見っ!!」
あ、良かった嫌われてはないみたいだ。二人のやり取りを聞きながら、ホッと安堵する。あー良かった。国見君は勿論、金田一君とかの一年生に嫌われるとか笑えない。というか、その影山君とやらはどんだけ金田一君に嫌われてるんだ。もっと凄くて、及川みたいに尊敬とかされてるのかと思ったんだけど。いやまぁ、及川は天才じゃないけど。岩泉、金田一君に影山君は禁句らしいので、影山君の事は聞けない模様です。岩泉のせいで少し焦ったのでとりあえず地味な仕返しでもしてやろうかと思います。まぁ及川なら今すぐ及川追っかけて蹴りを入れてるところだけど。まぁ、岩泉にはお世話になっているし、見逃してやろうじゃないか。まぁ仕返しはするけどね。地味に。どうしよう、ドリンクにレモンいっぱい入れてやろうか。ビタミンCいっぱい採れて、ついでに私は仕返しも出来て、一石二鳥だ。あ、でも明日練習試合か。よし明日以外のどっかでやろう。
「ごめんね、別に影山君の事知りたかったわけじゃないから、私帰るね」
「え、あ、は、はい!」
「あ、先輩」
帰ろうとしたら、国見君に呼び止められた。私はん?と国見君を振り返った。国見君が「家、どっちですか」と問うてきたので、あっち、と大まかな方向を指差せば、「もう遅いし、方向一緒なので送って行きます」とまさかのお誘いを頂いた。金田一君が「どうしたんだお前」みたいな目で国見君を見ている。それに気付いたのか、「金田一ウザい」と煩わしげな顔をした国見君に、少し笑ってしまう。なんか、新鮮で可愛いな。しかしまぁ、願ってもないお誘いなので、私はドキドキしつつ、うん、と頷いた。すると国見君が笑ってくれたので、私の心臓は更に高鳴った。
カラフルライフ
(何だこのピンク色…)
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