「青城のマネージャーの空木です」
「…清水です。宜しくお願いします」
「こちらこそ」

 ……ぅわあ、凄い美人だな。私は烏野のマネージャーさん…清水さん?を目の前に、思わず感嘆の息を漏らした。眼鏡掛けてて、知的でクール系の美人さんって感じ。青城の部員も清水さんに見惚れている。…国見君も、こんな美人さんが良いんだろうなぁ。そう思うと少し虚しくなって、溜息を吐き出した。
 挨拶を終えて、青城のベンチへ戻ると、花巻がニヤニヤしながら「烏野のマネージャー美人だな」なんて言ってきたので、蹴りを一発食らわせた。そしたら渡君が「先輩も可愛いですよ」なんて言ってくれたので、今日の渡君のドリンクはサービスします。ありがとう天使だね渡君。なんてやり取りをしていれば、どこに行っていたのか、金田一君と矢巾君が帰ってきた。どこ行ってたの、と聞いてみれば「何か烏野に喧嘩売られました」と何とも的外れな回答が返って来た。何やってるの、金田一君。矢巾君も止めなよ先輩なんだから。それ以前に烏野も、何やってんの。喧嘩売らないでよ、これから練習試合するっていうのに。
 内心溜息を吐き出していれば、国見君がひょこ、と横から顔を出して、「影山、あの仏頂面の奴ですよ」と声を掛けてきた。それにドキリとしつつ、私は国見君の指差した方向を見た。そこには、言葉通り仏頂面の、国見君と同じくらいの背の、黒髪の男の子が立っていた。成程、あれが例の影山君か。というか、私別に影山君に興味ないんだけどな。なんて言えば、国見君はいつもの無表情で、「いや今日先輩と話してないなと思って」なんて返ってきたので国見君は私を萌え時にさせたいのではないのかと本気で疑いました。死にます。なんて会話もしつつ、国見君は集合、私はマネージャーの仕事に取り掛かる。国見君の去り際、頑張って、と勇気を出して声を掛けてみれば、国見君が振り返って少し笑ってくれた気がしたので、私は今日それだけで頑張れます。


―――…
――――…
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 まぁ、色々あった。ちっちゃい五番君が緊張しすぎて第一セットの終わりで、影山君の事後頭部にボールぶつけたり(あれには噴いた)、第二セットでそのちっちゃい五番君と影山君の凄い速攻があったり、まぁ色々ありましたさ。いやでも、あの速攻、ほんとに凄いな。素人目に見ても凄いって分かるし、ついでにブロックが分散されてるのも分かる。影山君、ってほんとに天才なんだなー凄いわ。及川とはまた違った強さ、っていうか。強さっていうか凄さ、か。いやまぁ、それはどうでも良くて、凄い速攻と、そのせいで分散されたブロックにより第二セットは落としてしまった。第一セット見てる限りでは、第二セットも楽々行けるかと思ったんだけど。第三セットもちょっとヤバめだし、これは及川もいないし、ひょっとしたらひょっとしちゃうんじゃないだろうか。いや、私は青城のマネージャーであるわけだから、勿論応援してるのは青城であるけども。なんて、考えていれば、何故か周りが騒ぎ出した。特に女子。私は少し嫌な予感がして、振り返る。そこにはやはり、というか、及川がいて。烏野の坊主の子が女子にキャーキャー言われてる及川にガン飛ばしてる。うん、分かるよその気持ち。

「やほー佑ちゃん、俺が部活に居ない間、寂しかった?」
「及川はいつ死ぬの?」
「相変わらずの返しだね!?」

 なんて、騒ぐ及川。捻挫はもう大丈夫らしい。及川は監督に言われて、ウォーミングアップをやり始める。私は監督に言われて、少しキャッチボールに付き合う事になった。ぽん、と及川の打ってきたボールを、レシーブで打ち返す。これも、一年の頃は全くだったのだが、努力の甲斐もあってこうやって打ちやすいボールは返せるくらいにはなった。ふふふ、最初の頃のレシーブはもう、笑っちゃうくらい下手くそだった。あぁ思い出したくもないね、私がレシーブを打った時の、あの周りの反応。花巻でさえも気を遣ってきたくらいだ。居たたまれなかったあれは。マジで。
 暫くラリーをして、及川が笑いながら、「昔を思い出すねぇ」なんて言うので、顔面に思い切りボールを当ててやった。こういう時のコントロールは抜群である。
 とまぁそんな感じでウォーミングアップを終えた時には、本気でもうヤバい感じになっていた。で、到頭及川登場。うーん、あの点差なら、何とかなるかなぁ…っていうか国見君と交代かよっ!この野郎っ!と叫んで蹴って送り出してやる。「何で!?」と困惑する及川なんか知らない。国見君の出てる試合もっと見たかったのに。溝口さんにめっちゃ怒られてたけど。見たかったのに。くっそ。とは言いつつ、こいつが出た事で点を巻き返しているのは事実だ。狙われているあの背の高い眼鏡君、可哀想に。しかし、あの例のちっちゃい五番君もサーブ苦手なくせして、「大王様!! 俺も狙え!!」なんて言っている。……大王様って、及川か。何故に大王様。後で言ってからかってやろう。

「………先輩」
「、えっ? な、何かな国見君」
「先輩ってレシーブ出来たんですね」
「え、あぁいや、あれはまぁ、及川が良いとこ打ってくるからで………一年の頃から猛練習して、部員の相手ちょっとできるくらいだよ」
「………へぇ」

 レシーブって一朝一夕じゃどうにもならないって聞いた。それでまぁ、それなりに出来るようになった時、初めてバレー部の皆と仲良くなれた気がしたのだ。…まぁその話は、また今度。昔を思い出していれば、試合終了のホイッスルが鳴った。え、と点数の書かれたボードを見れば、烏野が勝っていて。……え、負けた?

「……負けちゃいましたね」
「………、」

 どこか淡々とした国見君の声を聞きながら、私は声も出せずに、呆然としていた。


―――…
――――…
―――――…


「……先輩って結構メンタル弱いんですね」

 隣で話す国見君の言葉を聞きながら、そうでもないよ、と弱々しい返答を返す。全くこの状態では説得力もクソもない。私が負けたわけじゃないのに、どうにも悔しかった。私は自分で、こういう勝負事には冷めている方だと思っていたから、自分で、今こうして落ち込んでいる自分に驚いている。あぁもう、及川が最初から出てて、最初から万全の状態だったら、絶対、勝ててたのに。皆強いんだから、万全なら、勝ててたに決まってるのに。そう弱々しく、ポツポツと零せば、国見君は溜息を吐き出して、「及川さんと先輩、仲良いんだか悪いんだか分かんないですね」と言った。別に仲が悪いわけじゃない。嫌いでもない。仲が良いから、ああやって遠慮なしに色々できるのだ。そう言えば、国見君は少し微妙な顔をして、再度溜息を吐き出した。

「……羨ましいですね」
「…え?」
「何でも無いです。……それより、たかが練習試合、そんなに落ち込んでどうするんですか。烏野とは多分、公式戦で当たりますから、そこで勝ちます」

 珍しく、意欲的な国見君のその言葉に、私は気圧されて、コクリ、と頷いた。


後悔は燃えるゴミ


(そんな君も好き)


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