「……あ」
「…え?」
とある、休日の事。私はパタリと先日会ったばかりの――話したことはないが――影山君と対峙した。あ、と言って固まったのは影山君である。私ではない。というか、影山君が反応しなかったら私は気付かなかっただろうし、気付いたとしたもスルーするだろう。だって別に仲が良いわけでもなし。話したことも無いし。しかしまぁ、反応されてしまったので無視するわけにも行かないだろう。私はそう思い、ペコリと頭だけ彼に下げた。所謂会釈、というやつだ。すると固まっていた影山君はハッとしたように会釈どころか思いきり頭を下げてきた。いやいや、そこまでしなくても。影山君自身も、そう思ったのか頭を上げた彼は少し気不味そうに頬を掻いていた。
彼の所属する烏野男子バレー部と、私がマネージャーを勤める青城男子バレー部とが練習試合をして、青城が見事に敗れ去ったのは、本当に、つい先日の事。その時私は試合をした選手よりも落ち込んでしまい、国見君に諭されたのは思い出である。あの時の国見君も格好良かった。…って、今はそうじゃなくて目の前の影山君である。まさか私を覚えてるとは思わなかった。そりゃまぁ、及川を蹴飛ばしたり色々していたが、彼は本当に目先の選手達にしか興味がないと思っていたから。それに国見君に少し聞いたところによれば、彼は賢そうに見えてかなりのその、馬鹿、らしいから、正直私の顔なんかはすぐに忘れてしまうだろうと思っていた。覚えていたのか、吃驚だ。
なんて少し驚きつつ、再度会釈をしてその場を去ろうとすれば、影山君に腕を掴まれた。「あの」と思い切ったような彼の声に、思わず背筋を伸ばす。な、何だ、私何かしましたか。「えっと」やら「その」やら繰り返す影山君の言葉を辛抱強く待っていれば、「レシーブ」と、ようやく単語らしい単語が絞りだされた。…レシーブ?レシーブがどうかしたのだろうか。
「その、バレーとか、やってたんですか」
「……え」
「この前の練習試合、その、すごく安定したレシーブを、打ってたから」
この前の練習試合…? 私は影山君の言葉と自分の記憶を繋ぎあわせて、漸く、及川のウォーミングアップを手伝った時の事を言っているのだと理解した。成程、まぁ烏野のコートから見ればかなり真正面らへんでやってたから、見えるか、そりゃ。私はやってないよ、と首を横に振れば、影山君は「えっ」と意外そうな顔をした。はは、期待に添えずごめんね。それにあのレシーブは、及川が打ちやすい位置に打ってくれていたからで、私が上手いわけじゃない。そりゃ努力はしたけども、大半は及川のお陰なのだ。調子に乗るから絶対に言わないけど。
とりあえずそんな感じに説明すれば、「でも、」と地味に食い下がってくる。な、何だね影山君。「フォームも完璧で、ちゃんと相手の返しやすいところに打ってましたし」なんて、こっちが照れるくらい褒めてくるので、私は少し慌てて影山君、と名前を呼んだ。すると影山君は不思議そうな顔をして私を見た。今度は何だね。なんて、少し感情の起伏が激しい影山君に疲れていると、「何で俺の名前知ってるんですか」と言われた。いやいや、そりゃまぁ、他の子はあんまり覚えてないけど(清水さんくらい)、影山君はそりゃ、覚えてるよ。凄かったし、何よりこっちで、つまり青城でよく名前が上がるからね。そう言えば、「そうすか」と案外簡単に彼は引き下がった。…うん、物分かりがいいんだから悪いんだか、分かんないなこの子は。とにかくバレーはやった事ないよ、と言えば、影山君は「じゃあ何であんなに上手いんですか」と食いついてきたので影山君からの上手い逃げ方誰か教えて下さい。
「だから、一年の時ちょっと部員の相手する時に下手すぎたから、自分で猛練習したんです!だからバレーはやった事ありません!」
そう言えば、影山君は不服そうにしながらも引き下がった。何で君はそんなに私をバレーやってた事にさせたいの。この子案外疲れるな。なんていうかあれだ、金田一君の素直さを更に全開にした感じ。ついでにこのこはバレー馬鹿だな。私が影山君への認識を改めていると、影山君が「じゃあ」と口を開いた。何だまだあるのか、そう思って半目で彼を見れば、影山君は少し赤くなって、「及川さんと付き合ってるんですか」なんて物凄い変化球を投げてきた。…いやちょっと待て、こら。何でそうなった。国見君といい影山君といい、なんでこう、私と及川が付き合ってるという一番ありえない勘違いをするのかね。そりゃ仲は良いけども、お互いにそんな目で見てないし。ありえんわ。マジで。国見君の時ほどとはいかないまでも、全力で否定すれば、影山君は「岩泉さんくらい仲良かったんで…」と言った。岩泉くらい仲が良い、イコール恋人なのか君の中では!!
「君の中での勘違いの嵐が凄いね」
「いや、烏野のほとんどかそんな感じに言ってましたけど」
「解きなさいその誤解を。Are you ok?」
「お、おーけー…」
頷いたのを確認して、よしと安堵する。あらぬ誤解を招いたままとか何それ笑えない。そして誤解の内容が笑えない。影山君は頷いた後、少し思案して、「及川さんと誤解されんの、嫌なんですか」と不思議そうに言われた。あぁ、及川のモテっぷりを見てきた影山君からすれば、私は奇怪に映るわけか。いや、確かに及川は万人受けする顔をしているし、愛想もいい。頭もいいし運動も出来る。…あ、なんかムカついてきた。いやそうじゃなくて、そりゃまぁ、完璧で理想の王子様(笑)って感じだけども、私からすれば、
「国見君の方が格好良いから」
「国見…?」
「うん、それに及川と付き合うくらいなら君と付き合うかな」
「…………………………は、」
固まってしまった影山君。呼び掛けても反応がない。……おいマジか。
応答を願います
(冗談だし例えばの話じゃないか!!)
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SANDGLASS