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私は山口と月島の部活が終わるのを待つ間、図書室で音楽を聞きながら本を読み漁っている。昔から本は好きだった。よく小説や漫画で書かれている本はいろんな世界に連れて行ってくれるから≠ネんて夢のあることを言うつもりはないが、本を読んでいると周りの音も人も外観も全部シャットアウトして、自分だけの世界に入れるから好きだ。私はいろんな世界に連れて行ってくれる≠ゥら好きなのではなく、自分だけの世界に入れる≠ゥら好きなのだ。それに本を読んでいれば、いつも下の階から聞こえるお父さんとお母さんの喧嘩も気にならなかった。お父さんとお母さんの言い合う声が聞こえるといつも逃げるように本を読んでいた。最近お母さんが特に忙しいらしくて、苛々しているため更に喧嘩が多くなった。触らぬ神に祟りなし、と、私はお母さんに話しかけないようにしているが、お父さんは馬鹿なのか喧嘩をしたいのか知らないがお母さんによくモノを頼んでいる。「疲れてるの! 見てわからないの!?」から始まる喧嘩が最近の常である。
「………っと、あれ、ヘッドホン忘れた」
ゴソゴソと自分の鞄を漁りながら呟いて、首を傾げる。どうやら昨日家で使ってそのまま忘れてきてしまったらしい。入れたと思ったんだけどなあと呟いて、どうするか頭を巡らせる。本を読めば周りの音はシャットアウトしてしまうとはいえ、ヘッドホンがないと落ち着かない。好きな音楽を聞きながら好きな本を読む。これぞ私の至福の時なのだ。分からない? 別に分かんなくていいし。
「…仕方ない、月島にでも借りに行くか」
月島にモノを頼むのは、かなり癪だけど。
▽
「おーい、月島ー」
「、え、青葉!?」
体育館にて、月島の名前を呼んだのに何故か先に山口が気付いた。続いて何か知らない坊主の先輩と小さい先輩がこちらに気付いて「じっ、女子だと…!?」と何やら衝撃を受けている。山口から聞いていたうるさい先輩たちだろう、気にしない。漸くこちらに気づいた月島は私を見るなり大いに顔を歪めた。あの野郎。
「……なに」
「ヘッドホン貸して」
「はあ? なんで」
「忘れたから」
月島は面倒そうに溜息を吐き出し、後ろを振り向いて声を張り上げる。
「スイマセンちょっと抜けます」
こいつ敬語使えるんだ、なんてちょっと馬鹿なことを考えていると、先程の坊主の人と小さい先輩が何やら騒ぎ出した。おお、どうしたんだ一体。情緒不安定なのか。そうなのか。
「月島テメェゴラァ!! 先輩差し置いて生意気だぞ!!」
「彼女か!? 彼女なのか!?」
…どうやら私を月島の彼女と勘違いしたらしかった。私が月島の彼女とかありえないんだけど、とか考えてたら月島も同じことを考えたらしく、顔を歪めていた。それはそれで腹が立つが。しかし山口まで「えっ、二人付き合ってるの!?」なんて思い込み始めてるのはいただけない。馬鹿じゃん山口。何言ってんの馬鹿なのお前は。
「違いますよ。永原は、…幼馴染みたいなもんです。…というかどっちかって言うと山口の幼馴染みたいなもんで、」
「何だと!? 女子と幼馴染とかふざけんなよ月島テメェ!!」
「何この人たち面倒くさい!!」
叫ぶ月島とか初めて見たな、と場違いなことを考えて、山口を手招きする。すると山口が駆け寄ってきて、どうしたの、なんて首を傾げた。
「月島無理そうだから山口部室まで行って取ってきてよ、ヘッドホン」
「え? …うん、分かった」
チラリと月島の方を見た山口だが、先輩たちに絡まれている姿を見て諦めたのか頷いた。私は月島に声をかけてから、山口と共に部室へと向かった。
途中付き合っているのか云々について聞かれたのでしっかり否定しておいた。
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