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「あおばちゃん、外であそぼう!」
「やだ」
「わかった、じゃあおれも本よむ!」

 最近纏わりついてくるようになった彼、山口忠は大変聞き分けの良い子供であった。まぁ、そう言ったら良いようには聞こえるが、単に流されやすい、自分の意志がないだけとも言える。私は隣で絵本を読み出した山口にちらりと視線を向けて、しかしすぐにまた本へと視線を戻した。
 こうなってしまって、困るのは先生達である。
 子供が二人も外で遊ばなくなってしまった。私達園児からすれば放っておけばいい、と単純なことであるが、先生からすれば世間体とか、色々あったのだろう。今だから分かる。しかし、その当時多少大人びていたとはいえまだ子供だった私にそんな事が分かるはずもなく、ただただ、ひたすら遊ぼうと誘ってくる先生が鬱陶しくて仕方がなかった。

「あそびたくない」

 私はひたすら首を横に振って、結局卒園するまで遊ぶことはなかったのだけど。山口も何故だかそれに付き合って、少し悪い事をしたと思っている。しかし勝手に私の真似をしていた山口も悪いので、何も言ってやらない。


 ▽


「ねぇ、なんで忠くんはあおばちゃんのところへ行くの?」

 ある日、山口がそう問われているのを聞いた。一人の子が聞いたのを皮切りに、「そうだよ」、「あの子何言っても遊んでくれないしつまんないよ」と他の子たちも口々に山口を責め立てる。私はといえば、自分が言われていることよりも、どちらかといえば山口が泣いてしまうのではないのかと少し心配になった。
 山口は優しくて、傷付きやすいのだとこの短い付き合いの中で理解した。しかし予想に反して、山口は泣きそうな顔こそしていたものの、グッとこらえて泣いていなかった。怒ったような表情を貼り付けて、その子たちを睨んでいた。

「あおばちゃんはおれの手当てしてくれたもん、すっごいいい子だもん……っ!」
「、」

 …素直に、その言葉は嬉しかった。
 泣かれたら面倒だと、そんな理由で手当てをしただけだったのに、彼は私をいい子≠セと言った。騙しているような気になるが、それでも、嬉しかった。

「………」

 誰かに褒められるって、嬉しいものなんだなぁ。
02
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SANDGLASS