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「何、結局烏野にしたワケ」
偉そうな月島の言葉を横に受けて、私はにやりと月島の方を向く。肩眉を上げてこちらを見る月島。「いやぁねぇ」いつも月島の使っているからかうような口調を真似て答える。私の隣で山口が苦笑を浮かべていた。
「月島クンがどーしても私と同じとこに行きたいって言うから? 仕方なくね?」
「…は? 一緒に行きたいとか言ってないし。バカじゃないの」
「ハイハイまったく月島クンは素直じゃありませんねー」
「………」
隣で静かに怒っているのが伝わってくる。しかしこれも私なりの感謝の表しなのである。相談にのってくれるはずの両親は忙しそうで相談にのってくれないし話を聞いてくれていた山口には私が弱みを見せられず、プライドばかりが先に行ってなかなか決まらないしで、正直困り果てていたところだった。そこに月島があの言葉をくれたおかげで、大げさだが私は烏野に進学する大義名分を手に入れたわけなのだ。いや、だからといって山口に感謝してないわけでは断じてないのだが。山口にはまあ、いつか然るべき形でお礼をしようと思う。
今日は高校受験の当日だ。何故か二日に分かれて行われる試験の会場である烏野高校に、今三人で向かっていた。オープンスクールも行かずに月島の言葉だけで決めてしまったため、今日行くのが初めてだ。
暫く三人でダラダラと駄弁っていたが、ふと三人共黙りこみ、沈黙が訪れた。決して苦な沈黙ではなかったので私はちらりと月島を見やり、思考の奥に沈む。
烏野高校は、月島の兄である明光くんが通っていた高校だ。私はその場面を直接見たわけではいのだが、明光くんが烏野のバレー部でベンチにすら入れていなかったその場面に遭遇して相当な衝撃を受けたと、ぽつりぽつりと語った月島の話を聞いて、話の筋なら知っている。明光くんは月島に格好付けたくてついつい自分がレギュラーメンバーだと嘘をついてしまっていたらしい。その衝撃を受けた日から月島は明光くんとあまり話していないのだという。月島もそりゃあショックだったろうが、弟にそんな姿を見られた明光くんもショックだっただろう。この間会った明光くんの苦笑を思い出し、何だかやるせない気分になった。
しかし月島も、今回進学校に烏野を選んだということはつまりはそういうこと≠ネのだろうか。なんだかんだ言いつつも、兄貴とバレーが好きなやつなのだ。多分。
「? 青葉どうしたの?」
「…は?」
「ツッキーのことジーッと見てるから」
「は? 見てないし。馬鹿じゃないの山口」
「えっ、ご、ごめん」
「ジロジロ見ないでくれる? 永原サン」
「ぅわウザっ」
「こっちのセリフなんだけど」
受験の日だというのに緩いなあと、内心で思わず笑った。
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