人当たりが良くて、人望もある
「日向! いるの!?」
騒がしい声と共に開かれた部屋の扉。勢い良く開けられたそれは壊れるんじゃないかと心配になるような音を立てて、限界まで開かれた。開けられた扉の向こうに居たのは見慣れた少女で、俺は思わず眉を寄せて「げ」と声を漏らした。それを耳聡く拾ったソイツ――小南桐絵は「げって何よげって!!」とキーキー喚いた。あぁうるせぇな畜生。折角の夏休み、静かに過ごさせてくれ。うるさいのは先程から外で鳴いている蝉だけで十分だ。
桐絵は准の従兄妹にあたる少女で、確か准の2つ下だったはずなので今は中学3年生、つまりはガキである。そう言ったら桐絵はキーキーまたうるさく喚くので何も言わない。桐絵は中々可愛らしい顔立ちの少女であるが、小さい頃からちょくちょく会っていた俺にはただのガキでそういう対象としては見れない。まぁ桐絵自身も俺の事をそういった目では見ていないだろうが。
「何しに来たんだよ」
「准に会いに来たら居なかったのよ。だからアンタのとこ来たの」
「あそ。帰れ」
「何よ折角会いに来たのに!!」
「うるっせぇな頼んでねぇよ!!」
桐絵の甲高い声が耳を劈いて、頭に響く。最近昼夜逆転気味の俺には辛い。今だって桐絵に邪魔されたが、今から寝る予定だったのだ。ガキの相手をする時間は正直言ってない。今俺は猛烈に眠いのである。しかしどうやら桐絵はここに居座るつもりらしい。おい巫山戯んなよ畜生。
「っていうかちょっとイケメンになった?」
「一年そこらで人の顔の作りは変わらねぇよブス」
「なっ………褒めたのに!!」
「褒め言葉になってねぇんだよドブス」
「また言ったわね!?」
「知ってるかあんまり怒ってるとどんどん顔が崩れてホントにブスになるらしいぞ」
「えっ………嘘!?」
「うん嘘」
「……日向あんたね!!」
相変わらず騙されやすいのは変わっていないらしい。何でコイツはいくら騙されても学習しねぇんだよこのガキ。そんなんじゃ将来悪い男に騙されるか、普通に面白がって遊ばれるか……まぁ後者は平和だし問題ないか。というかコイツが将来どうなろうが知ったこっちゃないのだがまぁそれはさて置きだ。いつまで居座る気だよコイツ。まさか今日一日いるつもりじゃねぇだろうな。
「っていうか准はどこ行ったのよ?」
「人気者の准君は友達に誘われて遊びに行ったよ。遊園地に行くんだと」
「アンタは行かないの?」
「行くわけねぇだろ面倒くせぇ」
准に誘われたが断った。つーか俺がいたら空気悪くなるだろ絶対。ついつい口から悪態が溢れてしまう俺は、友人と遊ぶ≠ニいう行為が向いていないのだ。だから誘ってきた准には悪いが俺はパスさせてもらった。後は単純に、桐絵に言ったように面倒くさい。桐絵は俺の答えが不満だったようで、頬を膨らませながら「夏休みなんだから友達と遊びに行くくらいしなさいよ!!」と何故だか文句を言われた。余計なお世話だっつーのブス。そう言ったら鳩尾を殴られた。痛え。言い忘れていたが桐絵は准よりもずっと前からボーダーに所属している所謂戦闘のプロである。そんな奴のパンチなんて勿論痛いに決まってる。畜生この馬鹿力め。
「准に誘われたんでしょ!?」
「だから断ったっつってんだろ」
「何でよ! 准はアンタと行きたかったのに!」
「人気者の准君に俺がいようがいまいが関係ねぇだろ。何熱くなってんだよ」
「だから!! 准にとってアンタは親友でしょって言ってんのよこの分からずや!!」
「ちょっ、首締まるっ…!!」
皆まで言われたがはっきり言おう、桐絵が何をそんなに熱くなってるのかよく分からない。親友? 何を言ってるんだコイツは。准にとって俺はただの幼なじみで、兄弟のようなものだ。親友なんかではない、と思う。これは賭けてもいい。勝つ自信がある。
「もう良いわよ日向の馬鹿!!」
「はぁ!?」
勝手に騒いで勝手に怒って、勝手に桐絵は部屋を出て行った。…いや意味分かんねぇから!!
▽
「……日向? 入るぞ?」
コンコン、とノック音で目が覚めた。ちょっとの音で目が覚めてしまう程眠りが浅かったらしい。あー何か寝た気がしねぇや。時計を見れば、夜の8時。起き上がり、部屋の前にいるだろう准に応えると、ガチャ、と扉が開かれた。1日遊んで疲れているだろうに、一体何の用だろうか。
「さっき桐絵から電話があって」
「……あ゛? 桐絵? ……あー……」
何となく用件を理解して、頭を掻いた。どうせ准に俺の文句でも言ったんだろ。
「物凄い勢いで日向の悪口を言われて切られたんだが何かあったのか? 桐絵と」
「知らねーよ、昼頃来て勝手に怒って出てった」
「来たのか、桐絵」
「お前に会いに来たのに居なかったから俺んとこ来たんだと。お前の行き先教えたらアンタは行かなかったのかとか文句言われて、お前は俺と………いや何でもねぇ」
「? 何だ? 気になる」
「……お前は俺と行きたがってるに決まってる……つってどっか行った」
「………桐絵が?」
准は驚いたような顔をして、しかしすぐにふ、と笑みを零した。俺はその笑みの意味が分からなくて、首を傾げた。
「何だよ」
「……いや、流石は従兄妹だと思ってな」
「は?」
「今日、日向と行きたかった。遊園地」
「………何言ってんだお前」
「日向は親友なんだから、そりゃ一緒に行きたいさ」
「、」
…昼、俺は准が俺の事を親友だと思ってないと、賭けてもいいと言った。が、どうやら本当にかけていたら俺は負けていたらしい。桐絵の方が正しかったなんて、何かすげぇムカつく。
「………従兄妹は関係ねぇだろバーカ」
「えっ、そうなのか?」
とりあえず今は、親友≠ニは関係ないことで悪態を吐く事しか出来そうにない。