勉強が出来て運動神経も良いとかなんなの
「あーだり。分かんね」
夏休みも過ぎると、すぐに中間テストの時期がやってくる。俺はだらりとベッドに身体を預け、目を閉じた。すると、一緒に勉強、という名目の見張りで部屋にいる准が文句を言ってくる。「ちゃんとやらないと赤点取るぞ」…うんたらかんたら。面倒なので聞き流せば、また名前を呼ばれて更に文句を言われた。うるせぇなぁ、どうせ赤点なんか採らねぇんだから、良いじゃねぇかよ別に。しかし親はそれじゃあ満足できないらしく、「准君みたいに良い点数採りなさいよ」なんて言ってくる。勉強も得意な上、運動も出来るし、あーぁ、嫌だねぇ何でも出来る奴っていうのはさぁ。
すっかりやる気をなくした俺は自分の部屋から出て、真っ直ぐに玄関へと向かった。母さんが勉強はどうしたのだとか色々言ってきたが無視して、家を出る。行く宛なんかない。准はトイレにでも行ったのだと思ったのか追いかけては来ない。俺が逃げたのだというのも知らないで。少しばかり准が追いかけてくるのを期待していたのか、行く宛も決まっていないまま俺はフラフラと家の近くを歩いた。今戻ったら准と母さんが面倒臭そうだしなぁ。コンビニで菓子でも買うか。副と佐補に…つったらちったぁ機嫌も治るだろ。母さんは……いいや面倒くせぇし。いっつも怒ってるし。
コンビニに入ると、空調が効いていて中々に快適だった。もう九月の終わりとはいえ、少し暑い。温暖化が進んできている影響だろうか。近界民といい、温暖化等の環境問題といい、地球は本格的に終わりなんじゃないだろうか。そう考えて、ふ、と笑う。何考えてんだ俺。首を振ってお菓子の棚を見ると、一つだけ残っているぼんち揚げが目についた。おい人気だなぼんち揚げ。こんな暑いのに誰が買ってくんだか。あ、そういや最近准がぼんち揚げ美味いっつってたっけな。あいつ煎餅類そんな好きだっけか? …まぁいいや。これ買って帰ってやろう。そう思い、手を伸ばすと誰かと手が重なった。女の子のものならまだ良いが男の手だった。しかも、その相手の顔を見て更に顔を歪める。
「……あれ、萩野?」
「……げ、迅」
俺の嫌いな迅悠一≠ェ、ぼんち揚げに手を伸ばしたまま固まっていた。
▽
「そういえば萩野と話した事ってないな。いっつも逃げられるし」
「逃げられてる自覚あるなら話しかけてくんな」
「冷たいなぁ」
ニコニコと笑うそいつが気に食わない。結局ぼんち揚げは取られた挙句、近くのカフェに連れて来られた。嫌だっつったのに。しかしこいつヒョロい癖にやはりボーダーだからか力が強い。普段運動なんてしていない俺の力でどうにかなるはずもなかった。
「つーか勉強しなくていいわけ? ただでさえ出席日数やべえくせに」
「んー? 心配してくれてんの?」
「んなわけねぇだろ馬鹿。…親とかうるせぇだろ」
「んー、俺母さん居ないんだよね」
「、」
「近界民に殺されたの」
ニコニコと、相変わらずの笑顔でそう言われた。ハハオヤガコロサレタ、ネイバーニ。頭にその言葉が反響して、消えていく。少しだけ間を開けて、俺はスゥ、と目を細めた。ふ、と嘲笑を浮かべる。
「あ、そ。同情でもすれば良いわけ?」
「、」
「悪いね、そんな気が利く奴じゃないもんで。准とは違うの、俺」
「………」
迅は表情を変えず、俺の言葉を聞いていた。まるで俺がそう言うと、分かっていたようだと思った。何となく気に食わなくて眉を寄せると、迅はふ、と笑みを溢して肩を竦めた。馬鹿にしたような雰囲気はなく、単純に溢れたような笑顔だった。
「日向は口は悪いけど良い奴だ=v
「は?」
「嵐山が言ってたよ。萩野の事」
「………ハッ、またそんな事言ってんのかよ」
「俺もそう思うよ」
「何言ってんだお前。大して知らねぇくせに」
「じゃあ俺には未来が視える、って言ったらどう反応する?」
「厨ニ病」
「うん、でも本当なんだよね」
「はあ?」
話題の定まっていないそいつに、俺は困惑して眉を寄せた。何で俺が良い奴云々の話から厨ニ病みたいな話になるんだよ。
「サイドエフェクトって知ってる?」
「サイドエフェクト?」
「副作用みたいなものでさ、偶にいるんだよ、持ってる人。俺のは未来視。色んな未来が視える」
「………聞いたことはある」
サイドエフェクト、という言葉を聞いたことがあったのと、近界民≠ニいう化け物が存在しているという現実が迅の話に真実味を帯びさせていた。
「……未来が視えるって大変そうだな」
「……ん?」
「嫌な未来とか楽しい未来とか、全部起こる前に分かっちまうんだろ。つまんねぇし大変そう。それに対しては同情しとくよ」
「………ほらやっぱり良い奴だ」
「ちげぇっつってんだろ馬鹿」
こうなる未来も視えてたんだろうかと、そう思うと何だかやるせなくなった。
▽
「日向! どこ行ってたんだ!?」
家の近くまで帰ると、俺を探していたのか准と出会した。やっぱりシルエットが似てるなぁと思いつつ、説教を始めようとする准の目の前に迅からぶん取ってきたぼんち揚げを突き出した。未来視で見えていただろうに、止めなかったのはくれるという事だろうと思うのでありがたく頂戴しておく。いきなり俺が滅多に食べないぼんち揚げを突き出された准は意表を突かれたような顔をして固まっている。
「……あ、え?」
「迅に会った。土産」
それだけ言って、俺はまた歩き出す。准は慌てて追いかけてきて、色々と質問してくる。
「じ、迅がくれたのか?」
「ぶん取ってきた」
「なっ、仲良くなったのか? 迅と!」
「んなわけねぇだろ馬鹿」
「何話したんだ? 楽しかったか?」
「楽しくねぇよアホか」
「今度三人で一緒に話そうな!」
「嫌だねばーか」
母さんの説教は、無駄に機嫌の良い准により阻止された。何でこんな機嫌良いんだよこいつ。