ニ次元から飛び出してきた
テンプレ主人公みてえな幼馴染みとか

「気に入らねぇんだよ!」

 そう言われて、知らない奴に殴られた。頬を抑えて、溜息を吐き出す。クラスも名前も、同じ学年かさえも分からない奴に、唐突に呼び出され、唐突に殴られた。赤くなった頬にジンジンと熱が籠もる。あぁ痛え。意味分かんねぇ。何で俺が殴られんだよ。あいつの話、というか言葉を聞く限りじゃあ、恨みの相手は俺じゃない。恐らくは俺の幼なじみ、嵐山准だ。彼女が准に惚れたせいで振られた……みたいなことを言っていたから。俺が代わりに殴られたのは、准に直接手を出すと周りが黙っていないから、だろう。だから准と仲が良く、友達も少なく人望もさしてない俺に代わりに恨みをぶつけたのだ。マジ意味分かんねぇ。何なんだよ。何で俺が。迅にでもぶつけとけよ。死ねばいいのに。女取られたくらいでウジウジしてんじゃねぇよ情けねえ。
 壁に凭れかかり、息を吐き出した。あまりの理不尽さにやるせなさが押し寄せてくる。こういう事は、准と付き合ってると、何度かあった。准の人気に嫉妬しただとか、今回のように好きな子を取られただとか。准が悪い事は一つもなかった。勿論、俺が悪いこともなかった。それでも俺が、毎回のようにいちゃもんを付けられて、殴られる。もう飽き飽きだ。偶に、女が殴ってくることもあった。嵐山君にあんたなんか相応しくないのよ、なんて意味のわからないことを言って。…あぁ、女に殴られたのは前にも言ったか。偶にじゃねぇな、男より多いかもしんねぇ。お陰様で、可愛いと言われる女子を見ても冷めた反応しか出来なくなった。同じ女子ならまだ桐絵のがマシだ。うるさいが理不尽な事は言ってこない。

「………あー………やってらんね」

 少しだけ、視界が霞んだ気がした。


 ▽


「………日向…?」

 俺にとって萩野日向は、幼なじみで、同時に憧れの対象でもあった。

 その日、俺は日向と一緒に帰ろうと、学校内を探し回っていた。何故か鞄はあるのにどこにもいなくて、俺は首を傾げながらも学校中を探し回った。靴箱を見たら靴がなかった。鞄だけ置いて帰ったのか、とそんな疑問が浮上したが、鞄の中には財布も入っていたのでそれはないと否定した。取られてはいけないと思い、鞄を持って捜索を再開した。戻ってきた時に困らないよう、置き手紙も置いておいた。その後携帯に連絡してみたが通じない。本格的に心配になってきて、周りの人たちに聞き回ってみたが誰も知らないらしい。日向のことを知らない人や、嫌そうな顔をする人もいた。何だか日向を侮辱されているようでモヤモヤした。そしてようやく、裏庭で見つけた時。頬を腫らして壁に寄りかかる日向は、確かに泣いていた。
 頭を鈍器で殴られたような衝撃が駆け巡った。今まで一緒に過ごしてきた15年間、日向の泣き顔なんて見たことがなかったから。いつも皮肉げに笑って、わざと意地悪なことを言ったり不真面目なことをしたり、色々問題があったり口が悪かったりする日向だけど、その行動の裏には優しさがあったりもして。偶に、さり気なく気づかない程の優しさを向けてくる日向は、小さい頃から俺の憧れで。どんなに日向に罵倒されても、周りが日向のことを悪く言っても、俺はずっと一緒に居続けた。日向が友達だと思ってくれてる限りは、ずっとそうで在り続けようと。日向は、自慢の友達だから。

 ―――…その日向が、涙を流していた。

「……日向!? どうしたんだ!? 何で…っ、何で泣いてるんだ!?」
「、っ!? 准…!? なっ、お前帰ったんじゃねぇのかよ! ボーダーの仕事は!」
「今日は休みだって言っただろ! 一緒に帰ろうと思って…っ、だ、誰かに殴られたのか!? 頬!」
「ちげぇよ!! 良いからほっといて帰れ!!」
「泣いてるじゃないか!! 日向をほっとけるわけないだろ!!」
「泣いてねぇよ!! やめろ馬鹿!!」

 頬に触れようとすれば必死に阻止される。口の端が切れてるのが見えた。あぁ、誰だ、日向にこんなことした奴。日向が何をしたっていうんだ。やるせなさに息が詰まる。そういえば偶に頬に湿布を貼ってくることがあった。あれも殴られて出来た傷だったのだろうか。ぶつけて出来た傷だと言ったいたけど、よくよく考えたらその言い訳もおかしい。日向は不機嫌そうに眉を寄せて、小さく舌打ちをした。

「いっつもトリオン体で怪我しねぇお前と違って慣れてんだよ、こっちは。舐めんな」
「、日向……」
「おら、立て。つか鞄返せ。自分で持つ」
「お、俺が持つ! 日向怪我して、」
「アホか。頬怪我したくらいで……舐めんのも大概にしろよ。自分で持てるわ!」

 そう言って鞄をひったくられる。その拍子に自分の鞄を落としそうになったが堪えた。日向はそんな俺を一瞥してスタスタと歩き出した。日向、と呼びかけるが反応はない。慌てて追いかけ、追い付くと日向が少しだけ振り返った。

「殴られたの」
「え?」
「別に准のせいじゃねぇから、気にすんな」
「、」

 やっぱり日向は優しい。


 ▽


 准に見られた。最悪だ。しかもうっかり泣いてしまっていたらしい。馬鹿みたいに、俺よりも泣いて自分の事のように痛そうな顔をする准を目の前にしていると、大層居たたまれない気分になった。見つからないように、バレないようにはしていたがまぁバレてしまったものは仕方がない。仕方がないが、これが自分のせいだと考えこまれては面倒なので、一応准のせいではないと釘を差しておいた。そしたら「やっぱり日向は優しいな」なんて意味の分からないことを言われてうんざりした。迅にしろ准にしろ、俺が優しいとか感覚狂ってんじゃねぇのか。馬鹿みてぇ。准はともかく迅はもうちょっとまともな感覚持ってると思ってたよ。

「な、なぁ、せめて手当させてくれないか」
「やめろ気持ちわりぃ」
「きっ………そ、そうか…」
「………だぁもう!! それで気が済むんならやればいいだろやれば!!」
「…! あ、ありがとう!」

 畜生調子が狂う。