ほうら、またアイツだけ
『何でお前ばっか、母さん達は褒めるんだろうなぁ』
日向はそう答えの見えない問を投げかけ、戸惑う俺を見て皮肉げに笑っていた。
▽
今更、と思うかもしれないがうちの親はどうにも准贔屓だ。いつも「准君はもっと…」「准君みたいに」なんて、馬鹿馬鹿しくて笑ってしまうほど、准と比べてきやがる。それは今に始まったことではないし、もう俺も慣れた。うちの親は准贔屓。だから、大学受験に合格した俺に対しての最初の一言が、「准君に勉強教えて貰ってたお陰ね!」であろうとも、最早気にしたりしない。
「あー、うっぜぇ」
…なんてまぁ、少し強がってみたところで、やはり自分の心は誤魔化せない。イライラと息を吐いて、ベッドに上着を投げ捨てた。親は、というか母さんの准贔屓は今に始まったことではないが、流石に息子の大学受験合格にあれはないと思う。褒められるとは思っていなかったが、まさかここでも准の名前が出てくるとは。昔からそう。准君、准君、准准准と、母さんの口から出てくるのは准の名前ばかり。昔から准の事で殴られることなんかもあったが、そんな事よりもも一番ダメージが大きいのは母さんの一言一言だった。俺と准を一番比べてきたのは母さんだ。周りも比べてくる事はあったが、俺もそんなに気にすることはなかった。どうせ、他人の言うことだったから。分かってくれる人は分かってくれてるのだと、そう思っていた。
「チッ…………あーくそ、あーうぜぇ」
いつも以上に暴言が飛び出てくる。思ったよりもダメージがデカいらしい。あーかっこわりぃ。だっせぇ。何だよ母親の言葉なんか一々気にしてよ。子供かよ。もう大学生だぜ、俺。いい加減慣れろよ。子供の頃から、分かりきってたことだろ。何今更ダメージ受けてんだよ、
「―――…っ、」
目の奥がツンとした。
▽
「日向? 泣いたのか?」
「泣いてねぇよ。アホか」
その夜、訪ねてきた准に内心舌打ちをしつつ、ベッドに転がったまま携帯を弄る。准はそんな俺の態度は気にした風もなく、寧ろスルーして余計な事を突いてきた。どうやら先程少し泣いてしまった後が残っていたらしい。「欠伸に決まってんだろ馬鹿」とありきたりな嘘を吐くと、人を疑うことを知らない准は「そうか」と納得したらしかった。本当単純だなコイツ。
「………なぁ日向?」
「何だよ」
「大学に入ったら暫く会えなくなるな」
「は? 何で」
「俺もボーダーの仕事が忙しくなるんだ。元々やってた広報の仕事も増える」
「あそ。いいんじゃね、お前顔良いし。頑張れよ」
「1人で泣いたりしないか?」
「泣かねぇよアホか」
ベッドに寝転び、携帯を弄りながら返事を返していれば、スッと携帯が奪い取られた。文句を言おうと見上げると、真剣な顔で俺を見下ろす准がいて、思わず口を噤んだ。
「………本当か?」
「………んだよ。意味分かんねぇ」
「おばさん、また俺の方を褒めたんだろ? 昼、一回来た時に聞こえたんだ」
「、っ」
「あの時、日向は俺の前で泣いてなかった。いつもそうだ。日向は俺の前で泣かない。でも一人の時は、」
「っざけんな!!」
「っ、」
的外れな詮索をそれ以上してほしくなかったのか、それとも図星だったのか、とりあえず准の言葉を止めたくて、俺は大声を出した。下の方から母さんの怒鳴り声が聞こえる。静かにしなさい、なんて。は、ババアの方がうるせぇじゃねぇかよ。きっと准は、昔俺が言った皮肉をずっと気にしているのだ。何でお前ばかり褒めるのか=\――…なんて、子供のようなただのやつあたり。こいつはずっと気にしていたのだ。
准は勢いで起き上がった俺の手を掴んで、ギュウ、と握った。……なんなんだよ。
「………ごめん、日向」
「……、な、ん」
「俺が幼馴染だから、だよな」
俺が、母さんに褒めてもらえないのは。そういう意味合いであろうその言葉を聞いた瞬間、プツン、と何かが切れた、気がした。
「………んなよ、」
「、え?」
「自惚れんなよこの馬鹿」
「っ、」
「お前のせい? んなわけあるかお前にそんな影響力あるわけねぇだろあのババアの根性が腐ってんだよ俺の親だぞ。誰が傍にいたって比べられんだよお前が幼馴染だからとか自惚れてんじゃねぇよ自信過剰」
「日向、」
…そうだ。准が幼馴染なのは関係ない。そんなのは最初から分かっていた。あぁいう人種はいつだって人と自分とを比べたがるのだ。知っている、小さい頃からずっと見てきたのだから。
「で、でも昔、」
「昔言ったのは!!」
「、」
「……俺の弱音だ。気にすんな」
「…!」
准の両肩に手を置き、そう言って少し顔を背けると、准は何故だかパァ、と顔を輝かせた。…何で嬉しそうなんだよこの流れで。
「お、俺に弱みを見せてくれてたのか?」
「…は?」
「俺に頼ってくれてたのか!?」
「はぁ!? ちげぇよ!! 何でそうなった!」
「ち、違うのか?」
「ちげぇよ!! アホか!」
「そ、そうか……」
「〜〜っ、あぁもうそれで良いよ!! だりぃなお前はホントに!! 意味分からん!!」
「…! そ、そうか!」
あぁ、殴られた時の手当のやつといい、俺は結構准に甘いらしい。そして准は俺に頼られたいらしい。意味が分からない。准はいつも誰かに頼られているだろうに。
とりあえず話を戻そうと、俺は頭を掻いて小さく息を吐き出した。
「…………あー、とにかく母さんの事は気にしなくていいから」
「……やっぱり日向は優しいな」
「だから意味分かんねぇっつーの」
「小さい頃から日向は俺のヒーローなんだ!」
「それこそ意味わかんねーよ!!」
これ以上准の話に付き合っているのが馬鹿馬鹿しくなった俺は首を横に振って布団を被った。それに対し文句を言ってきたが聞き流す。暫く文句を言ってきてい准だが、暫くして諦めたのか、何も言わなくなった。そして最後に一言だけ、言った。
「もっと俺に頼ってくれていいんだからな!」
「頼るか馬鹿」
お前こそ頼る事を覚えろよ馬鹿。