06
「はぁ……さっぱりした……」
ラギーが用意してくれたお湯に肩まで浸かる。自分の体のサイズに合った家具はなんて使いやすいのだろう。
ほんの数日しか使わないのにと申し訳ない気持ちでいっぱいだったが今の自分に必要な物ではあった。
購入するきっかけをくれたヴィルたちに感謝しながら一日ぶりに汗や埃をちゃんと落とすことが出来た芽唯は湯船に浸かって目を閉じる。
こうしていると小さくなったままだなんて嘘のようで、風呂から上がったら少し眠ると宣言したレオナのベッドに潜り込めるんじゃないかという気すらする。
「いつ元に戻れるかな……」
クルーウェルに預けた食べかけのクッキーの解析はいつ頃終わるだろう。
彼は教師であり優秀な魔法士だが、仮にクッキーに後から追加された何かしらが芽唯が小さくなり続けている原因だとしたらどうなることやら。
どれだけ錬金術に長けていても人の世界に材料が存在していなければどうにもならない。
妖精という生き物はこの世界でもまだまだ謎が多い存在であり、茨の谷が妖精に伝わる貴重な文献や技術などを開示するようになったのもつい最近で、研究が進むのはきっともっと先になる。
「………………」
一番確実なのは問題の妖精と接触することだが、昨日は服を掴まれ攫われかけたというのに誰もその姿を見ていない。姿を消す魔法があるのだとしたら色んな意味で厄介だ。
「はぁ…………」
考えれば考えるほど不安が尽きない。思わず出たため息に弱気になってはいけないと首を左右に振りながら立ち上がった芽唯は風呂場から出るとタオルに手を伸ばす。
多種多様なドール用品のおかげで不便は解消されたがやはり普段使っていたものが恋しい。
全身を拭いてから就寝時用にと用意してもらったパジャマに袖を通した芽唯はリビングに戻るとプラスチックの椅子に腰かける。
「昔のオンボロ寮よりも立派なのはちょっと複雑かも」
今でこそS.T.Y.Xの一件で立て直し、グリムがウルトラゴージャス寮なんて言い出す程度には豪華になったが、それまで住んでいたかつてのオンボロ寮と比べたらこのドールハウスの方が立派かもしれない。
「なんて……ゴーストのみんな怒るかな」
ふわふわとした白い家族の顔を思い浮かべてくすくす笑っていると突然コンコンと軽い音が響く。
「えっ……?」
ぱちっと目を瞬かせた芽唯は音の出所を探る。少し間を置いてからまたコンコンと鳴ったのは玄関の方だ。
「……レオナ先輩?」
咄嗟に出たのはこの部屋の本当の主の名前。けれど、彼は先ほど「少し寝る」と寝たばかりなはず。
自分に何か尋ねたくて起きていた、というのもありうるがレオナやラギーであるならば声をかけてくることはあるかもしれないが、わざわざ玄関を叩くというのは些か不自然な気がする。
「レオナ先輩ですか? それともラギー先輩?」
念のためもう一度恋人の名を呼び、次に彼の部屋に訪ねてくる頻度がもっとも多い人物の名を呼ぶ。だが、やはり返事は返ってこない。
恐る恐る自分の体を抱きしめながら玄関に近づいた芽唯はわずかな違和感に気づく。
「っ…………青い……」
ごくりと思わず息を呑んだ芽唯は少しだけ後ずさる。
視線の先、小窓から見えるめらめらと燃え続ける炎。あれが青に変わるのは妖精が居るという合図。
「ど、どうしよう……っ」
コンコン、コンコン。
焦り、不安、また捕まって今度こそどこかに連れて行かれてしまうのではないかという恐怖。
自然と息が荒くなり、口元を手で押さえた芽唯はとんっと背中に壁が当たってその場にずるずると滑り落ちて座ってしまう。
レオナにどうにかして助けを求めなければ。
大丈夫、サムはランプには結界を張る力があると言っていた。芽唯が開けない限り相手は中には入ってこれないはず。
彼は時折不思議な物を売りつけてこようとするが、商品の質について嘘をついたことは一度もない。
「大丈夫……大丈夫……」
安心させるように自分に言い聞かせながら立ち上がった芽唯は玄関から離れてレオナのベッドがある方へと向かう。
カーテンを開けて覗き込めばこちらに背を向けて寝ているのが見え、ひとまずはレオナが部屋に居ることは確認できた。
けれどあのレオナが同室に妖精が居ることに気づかず寝入っているなんてどこかおかしい。
窓越しに大好きな背中を見つめても深い呼吸を繰り返すばかりで彼の眠りが浅くないことがわかる。
「…………もしかしてレオナ先輩眠らせられてるんじゃ」
前回、芽唯をどこかに連れて行こうとした時にはレオナに邪魔をされている。彼を警戒して先手を打った可能性は高い。
仮に本当にただ気づかず眠っているのだとしても、妖精に見つからずにレオナをここから起こすことは不可能だ。
「………………」
どうするべきか答えが出ない。
小さな体でやれることは限られていて、ただでさえ相手は魔法を使える妖精なのに今は自分と対等の大きさで本気で襲われたら抵抗することはまず出来ないだろう。
レオナを起こすことを諦めて再び玄関に戻ってきた芽唯は小窓をちらりと見る。いまだにランプの炎は青く燃え上がり、妖精がいるのだと知らせている。
「……妖精が私になんの用があるの?」
意を決して翻訳用の鈴に触れながら扉越しに問えば「へえ」と少し嬉しそうな声がする。
「不思議、言葉が通じるんだ。どうしてわかったの?」
「ど、どうでもいいでしょう。昨日私をどこかに連れて行こうとしたのはあなた?」
「ついて来てほしい場所があるの。アタシじゃどうしても見つけられなくて困っててね」
「見つける……?」
妖精の返事に首を傾げた芽唯は恐る恐る小窓から外を覗いてみる。
薄緑色の服を身にまとった人型。同色の長い髪を揺らしながら飛ぶその背中からは立派な羽が生えていて、羽が揺れるたびにきらきらと粉が飛ぶ。
くりっとしたアーモンド形の青い瞳をしたその妖精はどこか気が強そうな眼差しを扉に向けていた。
「ねえ中に入れて。ゆっくりお話しましょ」
「お話って……」
柔らかな声が耳を打つ。優しく、穏やかで、どこか人を誘いこむような声に危険だと心臓は早鐘を打ち続けている。
あまり人を疑うことが得意ではない芽唯だったが、この学園に通うようになって早数か月。甘い言葉に程罠があるということは痛いほど知った。
相手に取り入って貪ろうとする人ほど優しい顔を見せてくる。
「ご、ごめんなさい! そういうのはえっと……ほ、他の人に頼んで欲しくて……」
「他の人って? ここに暮らす人間って粗雑で乱暴者ばかり。けれどたまに来るアナタは話が通じそうって思って選んだのに、また他を探せって言うの?」
「選んだ……?」
不機嫌そうな声を出した妖精は手を振り上げると今度は激しく扉を叩く。
ドンドン、ドンドン。
きっと結界が張られていなければ鍵もかからない扉は簡単に開いていただろう。
激しい音に反して扉は揺れず、彼女の手を受け止めているのは模型の扉ではなくランプが張っている結界だということがわかる。
「ねえ、入れてってば!」
ノックは激しさを増していく。けれど芽唯に出来ることは何もない。
「た、助けて! 助けてレオナ先輩……!」
それでも届くかわからない声を張り上げれば一瞬扉を叩く音が止む。
「え……?」
「ん、っちょっと! やだ! あ、こら! 待ちなさい!」
ガタンガタンと扉の向こうで妖精が騒ぐ。青い炎は小窓の向こうでいまだに揺らめいているが、妖精が離れたことだけはわかった。くぐもった声が少しずつ遠ざかっていく。
耳を澄ませば「離してっ!」っと叫ぶ妖精の声に交じって別の声が「絶対離さない!」と返す。片方の声はレオナ!と芽唯の恋人の名を呼び起きるように叫んでいる。
状況がわからないまま扉を見つめていれば、やがて炎の色が青から緑に戻り、どこかからいやー!と甲高い悲鳴が聞えた気がした。
「…………何? どうなったの?」
恐る恐る鈴の持ち手になっている紐を手放さないようにしながら扉から出ると部屋の中心で「まったく」と腰に手を当てた真紅のドレスに身を包んだ赤毛の妖精がいつのまにか起きていたレオナの傍らを飛んでいる。
彼女の視線の先を追えば、眉根を寄せたレオナが片手に持った鳥籠の中に先ほど窓越しに姿を見た妖精が捕まっていた。
「わ……」
「あ、メイ! もう大丈夫。あんな奴簡単に捕まえてやったから!」
「なんでお前が偉そうなんだ……。大丈夫かメイ」
「は、はい……。もしかしてルタがレオナ先輩を起こしてくれたの……?」
くるりと宙を一回転した赤毛の妖精……ルタは芽唯の隣に着地すると嬉しそうに頬に手を添えると微笑んだ。
「そう! 間抜けにぐーぐー寝てるライオンを叩き起こしてやったの!」
何かを蹴る真似をしたルタは自慢げに胸を張ると籠の中の妖精を指差す。
「あいつに眠らされてあなたが襲われてることにも気づいてないんだもの」
「襲うだなんて言いがかりはやめて! ちょっと探し物をしてほしいだけ!」
籠に閉じ込められた妖精は柵を両手で掴んでこちらを見下ろしながら叫ぶ。
なるほど、妖精と言い合っていた声の主はルタだったのか。
二人の顔を見比べていれば耳をぺたりと伏せたレオナと目が合う。
「うるさくてかなわねぇな……。妖精ってのはみんなこうなのか……?」
片手で顔を覆ったレオナが大きなため息をつく。
甲高い声でもめ続ける二人の妖精を交互に見た芽唯はただ苦笑することしかできなかった。
◇◆◇
あまりにも続く二人のやりとりに嫌気がさしたレオナが吼えたのはほんの数分前。
レオナの本気の咆哮に妖精二人はまるでびりびりと感電したかのように羽を震わせて大人しくなった。
初めからこうすりゃよかったと舌打ちをしたレオナは、籠を机の真ん中に置くと芽唯と鈴を手のひらに乗せて近くに移動させてから席に着く。
籠の中で肩を落としながら座っていた妖精は芽唯の顔を見ると「ちょっとお願いを聞いて欲しいだけなのに」と唇を尖らせる。
「……お願いって、そもそもあなたはだれ?」
芽唯は小さな妖精の知り合いは自分の国に帰ったであろうフュシャとグラジオ、そして自分たちが咲かせた花に住むルタしかいない。
フェアリーガラでも不特定多数の妖精と多少関わりはしたが、知り合ったと言えるほど親しい相手は居らず、あの祝祭が終わった今はもう二度と会うこともないだろう。
なのにあの祭りでカリムが助けたものづくりの妖精に作ってもらった鈴が活躍するのはこれで何度目だったか。
籠の中で不満そうに座った妖精は薄緑色の服kらすらりと伸びる細長く綺麗な足を組むと唇を尖らせながら不満を漏らす。
「アタシ? ヘルバ」
つんっと澄ましたヘルバと名乗った妖精は長い髪を煩わしそうにかきあげると芽唯をじっと見つめる。
「アナタに話があるだけなのに酷い扱いなのね」
「あんたの事情なんてどうでもいいから! 早くメイを元に戻しなさい!」
鈴の上に座っていたルタが立ち上がって籠に近寄る。ヘルバの正面に仁王立ちしたルタは腰に手を当てたまま彼女を睨むがヘルバはまったく興味がなさそうで、ルタを一瞥すると芽唯に視線を戻す。
「アナタはメイって言うの? 初対面で悪いけど、この子含めて随分劣悪な環境に居るのね」
「れ、劣悪って……」
酷い言われように目を瞬かせた芽唯は思わずレオナを見る。
額に手を当て目を閉じたレオナは深いため息をついていて、こめかみにはぎゅっと皴が寄り、口の端はぴくぴくとしていて苛立っているのは間違いない。
それもそうだろう。突然現れた妖精は恐らく芽唯を縮ませた張本人で、ただでさえ大切にしている恋人が大変な目にあっているのに夜中にやってきて騒ぎを起こした。
普段から自分の眠りを邪魔するならば……と周囲を脅すレオナの睡眠すらも邪魔をしている。レオナがヘルバに「なんですって⁉」と噛みついているルタも含めて部屋から放り投げてしまう前になんとかしなければ。
気まずそうにヘルバたちとレオナを交互に見た芽唯は少し緊張しながらもルタの隣に並び立つ。
「あの……私のことは置いておいて。ヘルバはどうしてこんなことするの? なにか理由があるんでしょう?」
妖精が自分を小さくする理由はまったく思い浮かばないが、話を聞いている限り彼女は人間にあまりいい印象を抱いていない。サバナクロー生やルタを見下している発言をするのに、なぜ自分にだけは何かしらを求めるに値すると判断しているのが不思議でならない。
芽唯の問いかけに対してヘルバは一瞬きょとんと瞬いたが、すぐに芽唯を見つめながら微笑んだ。
「ほらやっぱり。アナタはアタシの話を聞いてくれる。住んでたのがこんなのなんて最悪だけど、あの花を咲かせただけある」
「あの花って……」
「こんなのってわたしのこと⁉」
思わずちらりとルタを見れば、彼女も自身の花のことだと気づいたのか鳥籠の檻部分を両手で掴んでヘルバを睨み、捕まっているのはヘルバのはずなのに外にいるルタの方が檻から出せとせがむ囚人のように暴れだす。
柵をがたがたと揺らしたルタは「ん、もう!」と怒るとヘルバとの会話を諦めたのかレオナの方に向かって飛び立った。
「それにしても……、大きい生き物と話せるそんな便利な道具があるなら最初から話しかけておけばよかった」
芽唯の後ろにある鈴を見つめたヘルバは肩を竦めると立ち上がって芽唯に近づく。
「でも取引するには丁度いいわね。アナタ元の大きさに戻りたいでしょう?」
にやりと笑みを浮かべたヘルバは目を細めて芽唯を見つめる。整った少女のようにも大人の女性のように見える顔立ちは人間とは違う生き物なのだと納得せざるをえない不思議な雰囲気を纏っていて、気圧された芽唯は思わず一歩後ずさってしまう。
少しぴりっと張り詰めた空気が漂う中、そんな怯えに似た感情を抱いているとスッと二人の間に手のひらが割り込んでくる。
ヘルバの顔が見えなくなったことで上手く吐きだせなくなっていた息をいっきに吐いた芽唯は大きなその温もりに身を寄せた。
「大丈夫か?」
上から芽唯を見下ろすレオナが優しく声をかける一方で、芽唯が見えなくなったからか籠の中で少しだけ羽ばたいたヘルバは煩わしそうに彼を睨む。
「ちょっと! 邪魔よ!」
「ぴーちくうるせぇ妖精だな。なんでメイがお前なんかと取引をしなきゃならねぇんだ。平たく伸ばして食われたくなけりゃとっとと元に戻せ」
「やだ乱暴。……ああ、よく見たらその目の傷……アナタここの人たちのボスね?」
ゆっくりと目を細めたヘルバは改めて座り直すと指を振って空中に何かを描く。
「アタシね、落とし物をしちゃったの。やけに物がいっぱいあって飛びにくい狭い場所。わかる?」
「……がらくた置き場になってる部屋のことか」
サバナクロー寮には物置部屋が存在している。本来は生徒の部屋として使われるべき場所なのだが、使っていた生徒が退学などの理由で学園を去った部屋に寮生が次々と不要になったものを押し込めるせいで完全に埋まってしまった部屋のことだ。
以前アズールにオンボロ寮を取られてしまった際、芽唯はグリムと一緒にジャックの提案で空き部屋を貸してほしいとサバナクロー寮を訪ねたがその時ですらレオナは何か月も掃除をしていないと言っていたはず。
あれからさらに数ヶ月が経ち、自室の掃除こそすれど物置と化した部屋の掃除をしようと提案する生徒はきっとここにはいないだろう。
「そのがらくた置き場ってとこで何かに襲われて髪留めを失くしちゃったの。きらきら光ってアタシの髪にぴったりのやつ」
「そりゃ運がいい。もう一生見つからねぇと思って諦めろ」
「どうしてよ。絶対あそこにあるの。わかってるんだから探しだして。そうしたらその子を元に戻してあげる」
「そんなに探したきゃテメェで見つけりゃいい話だろ! なんでメイを巻き込んだ!」
グルルルと喉を鳴らしながら吠えるようにヘルバを睨んだレオナの手のひら越しに彼女を見上げれば、つんっと澄ましたままレオナにまったく怯えた様子はない。
逆にレオナの肩にとまっていたルタの方が迷惑そうに顔をしかめ、ラギーが運んできたであろう彼女の住処である花の方へと飛んでいく。
きっと先ほどヘルバが芽唯のドールハウスを訪ねてきた時はあそこから彼女が気付いてレオナを起こしてくれたのだろう。
その背中に軽く手を振りながら見送った芽唯は改めてヘルバを見上げる。
ルタと同じく人に似た姿形をしたすらりとした妖精で、身にまとった服と同じ薄緑色の美しく長い髪はきっとその髪留めで普段はまとめていたのだろう。
彼女の身の丈よりも長く、飛んでいなければ地面に擦れてしまうほどだ。
じっと観察していれば、煩わしそうに髪を何度もかきあげては深くため息をついていた。
そんな憂鬱気な横顔を見つめながら芽唯は慎重に口を開く。
「えっと……大事な物だったりするの?」
「おい、メイ……」
「だって……そうじゃなければ違うのを使えばいいって諦めるんじゃないかなって。本当だったら私たちと話すことだって難しいのに、そんな苦労してまで接触してくるなんてよっぽど大事な物じゃないとおかしいですよ」
たまたまレオナと芽唯はフェアリーガラで妖精に深く関わる機会があったから大きさの違う妖精同士が話すための道具を持っているが、本来であれば言葉を交わすことすら難しい。
なのに彼女は芽唯をなんらかの方法で自分と同じサイズまで縮め、ドールハウスに実質立てこもっている状態でもわざわざ訪ねてきた。
確かに自分たちにしてみれば迷惑極まりないが、彼女にとってはいくつもの障害を乗り越えてでも諦めたくない大切な品に違いない。
「きっと諦める方が簡単なのに、それでもその髪留めを探し出したい理由があるんじゃないかなって……。お話だけでも聞いてみましょうよ」
ね?とレオナを見上げればぐっと眉間にしわを寄せたレオナは視線を少しだけ彷徨わせると大きくため息をつく。
「……ほっぽりだしたら今度はお前の方からこいつを探しに行きそうだ」
肩を竦め芽唯とヘルバの間に壁のように挿し込んでいた手のひらを退けたレオナは髪を無造作に掻くと近くにあった椅子を適当に引いて腰を下ろし、机に肘をついて手であごを支えると芽唯とヘルバを交互に見つめながら不満そうにヘルバに向かって口を開いた。
「しょうがねぇから話だけは聞いてやる」
ぺし、ぺしと音を立てながら尻尾が不服そうに揺れ動く。
可愛らしいそれを見てくすくす笑っていれば、あれほど嫌がっていたのに急に態度を変えた彼を目を丸くして見ていたヘルバは芽唯の近くまで降りてくると檻越しにそっと囁く。
「やっぱり、アナタを巻き込んで正解だった」
口角を上げて満足そうに笑うヘルバは計画通りとにやりと笑っているはずなのに、どこか優しく微笑んでいるようにも見えて芽唯は少しだけ彼女のことがわかった気がした。
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