06


 週末が過ぎれば当然また学校が始まる。
 もし校内ですれ違ったらと考えると足が重いが、休むわけにもいかず今日も芽唯は授業を受けた。教師の声が右から左へ流れていくが、どうすることも出来ずにただ機械的に板書をノートに写していく。
 授業が終わり、意味を理解しきれないまま書き写したノートを見つめてため息をついた芽唯にエースが「そういえば」と声をかけた。

「日記、結局見つかったの?」
「あ、うん。ごめん、言うの忘れてたね。ありがとう、見つかったよ」

 無事とは言えないが、見つかったのは確かだ。

「そうか、あの後も心配だったんだ。やっぱり僕たちも一緒に探すべきだったんじゃないかって」
「結構すぐに見つかったからだいじょうぶだよ」

 本当はかなり探し回ったが、これくらいの嘘は許されるだろう。あまり友人たちを心配させたくなくて思わず嘘をつく。

「でもオマエ最近日記書いてないよな? 夜中のカリカリ音あれから聞いた覚えがねーんだゾ?」
「あー……」

 なんて余計なことを言うんだろうか。小さな口を思わず塞ぎたくなったが芽唯は視線を泳がせた。

「……またなんかあったわけね」

 呆れた顔で芽唯の顔を見るエースの言葉にデュースが同意する。

「メイは誤魔化すのが下手だな。僕でもわかった」

 次の授業が始まるまでまだしばらく時間がある。これは話すまで二人の視線からは逃れられないだろう。

「……実は」

 項垂れた芽唯が語る出来事に思い思いの反応を見せた二人は、最後にはどちらも同情の視線を芽唯に送っていた。

「それは、なんというか……」
「ご愁傷様としか言えないんですけど」

 芽唯は自分が聞き手側だったとしてもきっと同じような反応しかできなかっただろう。日記を盗まれ、それが一番見られたくなかった人の手に渡ってしまった……なんて哀れという以外なんと称したらいいんだろうか。

「見られたくないって具体的に何書いてたわけさ」
「そ、れは……」

 そんなことまで言わなければならないのだろうか?だが、熱心に話を聞いてくれる二人に嘘をつくのもどうかと思うし、既に本人に知られてしまったことだ……と、秘めていた恋心を打ち明けることにした。
 ざわざわと色々な声が飛び交う教室内で消え入りそうな声で芽唯が呟く。

「直接的な言葉は書いてないんだけど、その、レオナ先輩の傍に居たい、みたいな……」

 どうしても書けなかった二文字の言葉。そして今でも言葉にすら出来そうにない。大嫌いなどとも言ってしまったし、恐らく二度と言うことはないだろう。

「うっわぁ……まじかぁ……」

 どうせそんなことだろうとは思っていたが、まさか本当にそうだったとは思わずエースは顔を片手で覆う。しかし、その隣でデュースはきょとんと目を丸くしていた。

「つまり、どういうことだ?」
「は? お前マジで言ってんの⁉ メイはレオナ先輩のことが好きだって言ってんの! だから傍に居たいって!」
「ちょ、やだっ! おっきな声で言わないで‼」

 教室内でも特に大きな声を出したエースに周囲の視線が集中する。芽唯は慌ててエースの口を塞いだが間に合わなかった。だが、他の生徒たちは気にする様子を見せず、自分たちの会話へと戻っていく。
 ざわつきを取り戻した室内にそっと胸を撫で下ろすと芽唯は真っ赤な顔でエースを睨みつける。

「ごめんって! 今のはオレが悪かった‼ でもさ、割と結構今更っていうか。なぁ?」

 デュースに同意を求めるのは無駄だと判断したエースは、丸くなって耳だけ会話に傾けていたグリムに声をかける。

「も、もちろんオレ様だって気づいてたんだゾ」

 丸くなったままごにょごにょと喋るグリムにエースは「マジか……」と零す。エースの勘が良いのか、二人が鈍いのかわからなくなった芽唯だったが顔に集まった熱は下がりそうにない。

「えーっと、それで! 知られちゃってなに? もう傍にはいれないとか言い出すわけ?」
「メイ、フラれたのか?」

 直接的すぎるデュースの言葉にエースは慌てて片腕で彼の首を絞めるが、力なく首を横に振る芽唯に「あれ?」と首を傾げる。

「日記を読んでどう思ったのかは聞いてないの」
「なんで? そのまま告っちまえばよかったのに」

 芽唯の意図が読めず二人は、そして実はしっかり聞き耳を立てていた周囲の生徒たちが揃って口を閉ざす。静かになった教室内で芽唯の言葉が静かに響く。



「だって、私はいつか元の世界に帰るんだよ」



 そう言って、寂しそうに笑う芽唯に誰も言葉を発することができないまま、次の授業の始まりを知らせる鐘の音が鳴った。

◇◆◇

「さーって、昼飯っと。メイはどうすんの?」

 いつもならグリムに昼食を受け渡すと植物園へと向かっていたが、今日からはそれもなくなった。

「一緒に食べてもいい?」
「もちろん。あ、おかず交換しようぜ。オレ、メイの作ったから揚げ食べたい」
「僕は卵焼きが欲しいな」
「わかった、どっちもあるから交換しよ」

 例えレオナのところに行かなくなっても食堂で買うより自炊する方が断然安い。鞄の中からお弁当箱を取り出すとグリムを肩に乗せ、二人に挟まれて食堂へと向かった。

「先に座って席取っといて!」
「わかった!」

 既に長蛇の列が出来ている。このままでは席もあっという間に埋まってしまうだろう。弁当持参の芽唯とグリムは三人分の座席を確保すると二人がどこまで進んだか確認しようと列を見た。

「隣、いいか?」

 カタリ、と金属音に振り返ればトレーを置きながらジャックが芽唯を見下ろしている。

「もちろん」
「メイ〜オレ様の飯は〜?」
「はいはい、今出すからね」

 少しずれてジャックが座るスペースを作れば彼はそこに腰を下ろす。自分の弁当と一緒に包んでいた小さな弁当箱をグリムに渡すと瞳を輝かせるのだから思わず口元が緩んでしまう。

「ジャック早いね」
「B組は自習だったんだ。だから鐘が鳴る少し前にこっち来た」
「あ、悪い子だ。エースとデュースはまだあそこだよ」

 まだ列の半ばでメニュー表と睨み合っている二人を指させばジャックはスプーンを片手に芽唯の顔をちらりと見る。ジャックはとろりとした卵に包まれたケチャップライスを掬いあげると芽唯の眼前に突き出した。

「食え」
「え」

 いいから、とぐいぐい押し付けられれば拒絶することも出来ず、半ば強制的に口を開かされるとオムライスが芽唯の口内に放り込まれた。
 舌の上で蕩けるように解れる卵を堪能しながら芽唯はぱちくりと瞬きを繰り返す。一体これはなに?

「ラギー先輩から話は聞いた。しばらくやめるんだってな、レオナ先輩と飯食うの」

 しばらくではなくずっとだと訂正したかったが、放り込まれた量が意外と多くて返事が出来ない。

「そんな量じゃ体が持たないだろ、もっと食え」

 芽唯の小さなお弁当箱を一瞥するとジャックはもう一口だ、とスプーンを芽唯の口元に運ぶ。

「ま、待って。ジャックの分が無くなっちゃう!」
「俺のことは気にしなくて良い」

 何が良いのかさっぱりわからないと反論したかったが、口を開いた瞬間を見逃さなかったジャックにまたオムライスを放り込まれてしまえば芽唯は黙って口を動かすしかなかった。
 長蛇の列を乗り越えて、エースとデュースが漸く席に合流した頃にはジャックの物だったはずのご飯はぺろりと芽唯の胃に収まっていた。

「なに、どういう状況?」
「オレ様もわかんねぇんだゾ」

 自分の分を食べ終えてしまったグリムは二人のやりとりを見守っていたが、芽唯が止めるのも聞かずに黙々とオムライスを食べさせ続けるジャックの行動を理解することはできなかった。

「じゃ、俺は行くから」
「え⁉ ちょっと、自分の分は⁉」

 ジャックのご飯を代わりに食べてしまったのだから、量は少ないがせめて自分の分をと弁当箱を渡そうと手を伸ばす。しかし、ジャックはその手を押さえつけると食器を片手に首を横に振った。

「それもお前が食え」
「なんで⁉」

 訳が分からず立ち上がるが、そんな芽唯の様子を気にすることもなくジャックは食器を片付けて食堂から出て行ってしまった。

「なんだったんだ……?」
「さぁ……?」

 あの様子からして、追いかけても理由は話してくれそうにない。大人しく席に戻ると芽唯は腑に落ちないが言われるがまま自身の弁当の蓋を開いた。

「お前相変わらずすっくな……」

 いくら少食な人間でももう少し食べるだろうと言いたくなるほど芽唯の弁当は量が少ない。一緒に昼食をとる機会が減って忘れていたが、そういえば彼女は節約だなんだと自分の食費を削るタイプの人間だった。

「ジャックの気持ち、少しわかるわ」
「あぁ、メイはもっとしっかり食べるべきだ」

 ま、流石に自分の分を全部渡す気はないけど。とエースは約束通り彼女の弁当箱からから揚げを貰うとアスパラガスのベーコン巻きを芽唯の弁当箱に少し多めに詰め込んだ。

「僕も」

 デュースは少し多めに購入したサンドイッチの一つを半分に割って弁当箱の蓋の上に乗せると、素手で卵焼きの一つをありがたく頂戴した。

「なんか、一個に対して返ってきた量がおかしいんだけど……」

 小さめだったとはいえジャックにオムライスを丸々食べさせられたのに、これまで食べろと言うのだろうか。

「オマエ朝飯も少ししか食ってねぇんだし、これくらいでちょうどいいんだゾ!」

 二人と一匹の視線に耐え切れず、気は進まなかったが出されたものを残すわけにもいかないと食事を再開することにした。
 久しぶりにマブ達と取る昼食は、レオナとの時間とは違って賑やかだ。
 おかずを狙ったグリムと攻防するエースの机上の戦いに笑い声をあげていると何かが擦れる大きな音が聞こえ、思わずそちらを見やる。

「お、メイくん。ちゃんと食ってるッスね」

 ガサゴソと大きな音を立てながら歩いていた人物は、大量の袋を手に通り過ぎそうだったのに芽唯の前で立ち止まる。

「ラギー先輩は……レオナ先輩の昼食の買い出し、ですか」
「そッスよ、いや〜誰かさんがお弁当作るの辞めちゃったから、元の生活に逆戻りッス」

 面倒くさいな〜と笑ってはいるがそれなりの報酬はもらっているのだろう。言葉に反して表情は明るく、充実しているようにも見える。
やはりこれが正しい形に思えて、芽唯が彼の日常に自分が関わっていたことの方がおかしかったのだと実感が湧いてくる。

「っと、そうだ。これお裾分け」
「えっ。ラギー先輩もですか……?」

 どうして今日はみんな自分に食事を与えるのだろうか?食べられないわけではない、どちらかと言えばこれくらい食べてやっと適量ともいえるが、自主的に弁当の量を減らしているだけなので自分の量を減らしてまで分け与えらえる食事に罪悪感が湧いてくる。
 弁当箱の隣に置かれた飲み物は食堂で最近扱われるようになったばかりの新商品だ。一度だけレオナに買ってもらったが、とても美味しかったのを覚えている。

「じゃ、オレはとっととこれを届けなきゃいけないんでもう行くッスね!」
「あ、はい! 飲み物ありがとうございます!」
「お礼はいらないッスよ! それ、オレが金出したわけじゃないんで!」

 手を振って走り出すラギーの言葉にもしや金の出所はレオナなのではという考えが頭をよぎる。飲み物の一つや二つ勝手に後輩におごったところでレオナが気にするとは思えなかったが、現状、彼の関わるものを素直に受け取るには些か抵抗がある。

「うぅ〜……」

 芽唯のなんとも言えない雰囲気にグリムは「めんどくせーんだゾ」と勝手にストローを開けると飲み口に突き刺した。

「あっグリム! もう返せなくなっちゃったじゃない!」
「オメーに飲めって言ってたんだから別にいいじゃねーか!」
「それは、そう……なんだけど……」

 恨みがましくグリムを見たところで一度開けてしまったものは元に戻らない。仕方なく一口飲めば優しく柔らかな味が口の中に広がっていく。

「やっぱり美味しい……」

 美味しいものには罪はない。そう自分に言い聞かせて芽唯は予定よりもだいぶ多くなった昼食に再び向き合った。



 満腹感による午後特融の眠気と戦っている間に気が付けばすべての授業が終わり、生徒たちはみなそれぞれの部活へ向かうために身支度を始めていた。
 特にどの部活にも入っていない芽唯はいつも通りエースとデュースを見送ろうとするが、ふとこの後の自分の予定が何もないことを思いだした。
 元の世界に戻る方法を図書室にでも籠って探す?レオナとの縁が途切れて早々に熱心に探し出すなどあからさますぎるだろうか。うーんと唸りだす芽唯を見てエースが何か思いついたように口を開いた。

「なぁ、どうせ放課後暇なんだろ? よかったら部活見に来ない?」
「え、いいの?」
「その方が気晴らしになるっしょ? 多分、うちの先輩達なら怒らないだろうし」

 エースは確かバスケ部だっただろうか。ジャミルやフロイドが在籍していたことは覚えている。バスケは元の世界にもあったスポーツ。ルールもそれなりに知っているし、見学でも楽しめるかもしれない。

「なら、そうさせてもらおうかな」
「んじゃ決まり!」

 ほぼ二つ返事で頷くとデュースが不満そうに口を尖らせる。

「ずるいぞエース。メイ、次は陸上部にも遊びに来てくれ」
「うん!」

 まっさらになってしまった予定をあっという間に埋めてくれた友人二人に感謝しながら、芽唯は鞄の中に教科書を押し込んでグリムを抱えると四人揃って教室を出た。

「バスケ部でのジャミル先輩ってどんな感じ?」
「まぁ、普通? でもこの間フロイド先輩の気まぐれがひどくてさ。んで、気が付いたらジャミル先輩もそれに乗せられてダンスのソウルがどうの〜ってもうバスケどころじゃなくなった」
「どういうことだ?」

 途中までは道が同じなので三人肩を並べて歩く。グリムは珍しくまじめに授業を受けた疲れからか、芽唯の腕の中ですぴすぴと寝息を立てている。

「オレもよくわかんないんだよねぇ。ジャミル先輩の意外な一面を見たって言う……か……」
「エース? どうし……たっ⁉」
「メイ!」

 急に歯切れが悪くなり、足まで止めてしまったエースの顔を見るため振り向いたのと同時に芽唯は何かにぶつかった。

「ふなっ⁉ 痛ってぇんだゾ!」

 むぎゅっと芽唯と何かの間に挟まれたグリムは目を覚まして苛立った声を上げる。キッと眼前の何かを睨み上げるが、それが何か分かった途端「げっ!」と芽唯の腕の中から逃げ出しデュースの後ろへと隠れてしまう。

「グリム⁉ どうしたの⁉」

 突然グリムが逃げるので慌てて体ごと振り向いて追いかけようとしたが、ぐいっと肩を強い力で押さえつけられ動けなくなってしまった。芽唯は自分を掴む何者かと距離を取るために腕を振り払おうとするが、相手の力が強すぎてかなわない。
 とりあえず自分がぶつかったのが誰なのか確認しようと振り返ると、黄色いベストが視界に入り芽唯は小さく悲鳴をあげた。

「レオナ先輩……っ⁉」

 さーっと全身の血の気が引いていく音がする。
 芽唯の後ろではエースとデュースがあちゃーっ……と頭を抱え、グリムは毛を逆立てながら彼を威嚇する。

「…………」

 彼に会うのはあの日以来。じっと見つめてくるレオナの様子に何か言われるに違いないと身構えるが、直ぐに腕が離れて解放される。

「……っ……あのっ」
「メ、メイ! 良いから行こう‼」

 突き刺さる視線に居た堪れなくなり口を開くが、それを遮るようにエースは芽唯の腕をつかむとレオナの横を通って体育館目指して駆けだした。
 最後に振り向いて、もう一度だけレオナを見れば、その肩越しに彼を睨みつけるデュースが見えて芽唯は息を飲んだ。 



 半ば引きずられる形で走り出した芽唯は何度か足を縺れさせたが、なんとか倒れることなくエースの後に続いて体育館へと転がり込む。
 息を切らしながら駆け込んでくる二人に、先に部活を始めていた部員たちがなんだなんだとざわつくが、すぐに興味をなくして練習に戻っていく。

「まったく、騒がしいな君達は」
「ジャミル先輩……」

 どうにか呼吸を整えて顔を上げれば呆れた顔でジャミルが二人を見下ろしている。

「あの、メイなんですけど、今日一日見学させてやっても、いいッスか?」
「別に構わないが……、とりあえずお前は着替えるのが先だ。メイはそこの隅で休むと良い」

 言われるがまま腰を下ろすと芽唯は深く息を吐いた。こんなに全力で走ったのはいつ以来だろうか。

「ごめんメイ、なんかやべぇって思ったら身体が勝手に……」
「ううん。ありがとうエース……。正直、私もあの場で何言いだすかわからなかったし……」

 レオナの視線の圧に負けて何かを言いかけたが、自分は果たして彼に何を言うつもりだったのだろうか。脈打つ心臓の鼓動がうるさくて何も考えられそうにない。
 疲労困憊と言った様子の芽唯にジャミルはポケットからマジカルペンを取り出し一振りする。するとパッと彼の手元にはボトルに入った飲み物が現れ、それを芽唯に差し出した。

「飲むといい、少しは落ち着くだろう」
「迷惑かけてすみません……」

 受け取って一気に仰げば、喉を潤す涼やかなそれに幾分か気持ちが落ち着いてくる。

「事情はなんとなく察したが……。まぁ、今はいいか。ゆっくり見ていってくれ」
「はい……」

 何か言いたげに言葉を濁すジャミルだったが彼も今は部活の時間だ。芽唯が落ち着くのを見届けると練習に戻っていった。
 ボールが弾む音とバッシュのスキール音だけが響き渡る。着替えて部活に混ざったエースもすっかり先ほどまでの出来事を忘れたのか、楽しそうにボールを追いかけている。
 その様子を膝を抱えながら見守る芽唯は、今この瞬間だけをくり抜けば、まるで元の世界にいるように錯覚してしまうな、と目を閉じた。ドリブル音も指示を飛ばす声も何一つ自分の世界の物と変わらない。

「あれぇ? なんでこんなところに小エビちゃんがいんの〜?」
「フロイド先輩……?」

 目を開くと上下逆さのフロイドの顔が視界に飛び込んでくる。芽唯の背後に立ったフロイドはその長身を生かして器用な体勢で芽唯の顔を覗き込んでいた。

「えっと……話すと長くなるんですけど……」
「んーじゃあいいや。っていうか、明日暇だったりしねぇ?」
「明日、ですか……?」

 唐突なフロイドの言葉に目を瞬かせる。突然なんのお誘いだろうか。

「買い出しとかしなきゃなんねぇんだけど、なんかアズール悩んでるっぽくてさぁ。小エビちゃんなら良い感じにアドバイスしてくれんじゃねぇかなーって」
「買い出し……モストロ・ラウンジのですか?」
「新メニュー考えたいとかでさ。オレとジェイドも色々案出したんだけどいまいちピンとこないみたいなんだよねぇ」
「私で役に立てるかはわからないですけど……それでも良ければ」

 明日は陸上部を見に行こうかと思っていたが、どうせこれからは放課後はいつでも暇なのだし、せっかくのお誘いを断るのも気が引けて芽唯は首を縦に振る。
 色よい返事がもらえたことでフロイドは機嫌を良くしたのか「オレから目離さないでね」とコートに入っていく。──気分屋のフロイドがその気になった。
 長い手足を生かして動く彼に翻弄されボールを持っていた生徒は尻もちをつく。本気になった彼には誰も敵わない。ジャミルとエース、二人によるディフェンスを掻い潜ると、誰一人手も足も出せないままフロイドの投げたボールは綺麗な弧を描きながらリングへと吸い込まれた。
 流れるようなボール捌きと見事なシュートに思わず拍手を送れば、フロイドは頬を緩めてにんまりと笑みを浮かべながら芽唯に手を振った。

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