04
植物園を後にし、順番に魔法薬学室、鏡の間。図書館に購買部と見てまわった二人と一匹は色んな生徒に揶揄われることになった。
アズールには「これはこれは、未来の第二王子夫婦のお出ましですか!」とわざとらしく両手を広げて歓迎され。戸惑う芽唯をよそに、植物園でだいぶ機嫌を損ねていたはずのレオナがあのアズールに対し笑みを浮かべていたのには驚いた。
もちろんにっこりとか微笑んだりとかではない。ニヤリと上がった口角、細められた瞳。「わかってるじゃねぇか」と響く低音が少し嬉しそうに聞こえたのは気のせいじゃないだろう。
鏡の間の入り口ではヴァンパイアに扮したヴィルが数名の客と記念撮影をしていたのだが、彼のファンサービスに対して一言も二言も余計なレオナのせいで危うく喧嘩が起きそうになった時は肝が冷えた……。
結局、一般客の前だから……という部分ですぐに一歩引いて大人の対応をしたヴィルのおかげで収まったが、どうしてこの二人は顔を合わせると喧嘩をするのか。幸せが逃げるわよ、なんて言われてもため息をつくことを許して欲しい。
一触即発の空気が消え去った後、芽唯に対してはグリムと揃いの衣装を褒めてくれた彼に「ヴィル先輩も素敵です」と返せば勝ち誇ったようにレオナを見て鏡の間へと戻っていった。
ばさりと翻されたマント。彼の側に従者のように付き添うエペル。鏡の間の不思議な空気も相まってその背中は本物のヴァンパイアにしか見えなかった。無意識に「かっこいい……」と呟いた小さな声を拾ったレオナの尻尾が不満げに揺らめいたのは言うまでもないだろう。
そこから少しの間またレオナの機嫌が急降下してしまったが、図書室でプロジェクトマッピングを見ている間にそれもなんとか落ち着いた。
居合わせたイデアは委縮していたが題材のパンプキン・ホロウについて尋ねてみたところかなり饒舌に語ってくれたし、その内容がとても興味深かった。
この世界にもB級映画って存在するんだな、とか色んな発見はもちろん。パンプキン・ホロウ自体もとても面白そうで、今度彼に見やすい媒体で映像作品を貸してもらうことになった。オンボロ寮にはそういった機器はないのでレオナの部屋で見ることになるだろう。
「美味しそう……だけど、私怒ってますから!」
「拗ねんなって、早く落ち着いたところで食うぞ」
スカラビアが出展していた購買部ではサムがナイトレイブンカレッジの校章を入れたワッフルを売っていた。匂いに釣られて鳴ったお腹の音を獣人相手に誤魔化すことに失敗した芽唯が真っ赤になるのも構わず、散々声をあげて笑ったレオナはお詫びにとグリムの分も含めてワッフルを買ってきてくれた。
「あと行ってないのはコロシアムですね」
「休憩場所にはちょうどいいだろ。スタッフ用に飯を食う場所もある」
三人分のワッフルの入った袋を片手に持つとレオナは芽唯の手を引いて歩き出す。ちょうど昼頃で購買に向かうゲストが多いのかコロシアムへの道中、人通りは少ない。
物珍し気にグレート・セブンの像と写真を撮るゲストは魔法士達の憧れの的を見上げては「すごいかっこいいね」と口にした。
まさかハートの女王の像を事故とはいえ燃やしたことがあるなんて口が裂けても言えない芽唯はお客さん達から視線を逸らす。
「あれ……?」
「どうした?」
メインストリートに並んだカボチャ。その隅に人影のようなものが見えた気がした。
錯覚かとも思ったが、どうやら本当に人がいるようだ。
「先輩、あそこ」
芽唯が指さすとレオナも気が付いたのか自然と二人の足はそちらへ向かう。
グレート・セブンの像。その足元に蹲っているのは小さな女の子のようだ。特に泣いているわけでもなさそうだが、両親らしき人物は近くに見当たらない。
「……ったく、面倒だな」
声をかけるべきか一瞬悩んだ芽唯だったが、先にレオナの方が動いた。
「せん、ぱい……?」
思わぬレオナの行動に瞳を瞬かせた芽唯は一歩遅れてレオナに追いつく。
まさか彼の方が自分より先に動くとは思わなかった。レオナは子供を苦手としている。
扱い方が分からない、というよりは懐かれたり相手をすることを面倒に感じているのだとは思っていたが、明らかな迷子に自ら声をかけるだなんて、一体なんの気まぐれだろう。
「よぉ、こんなところでどうした?」
「お兄ちゃんだぁれ?」
自然な流れで少女の前に屈んだレオナに合わせて芽唯も怖がらせないよう視線を合わせる。
「俺はー……おい、メイ……」
「えーっと……。学園に詳しいお兄さん、だよ。何か困ったことでもあったのかな?」
怪我をしている様子もないし、ただここで休んでいただけなのだろうか。
芽唯の質問に少女は手に持っていた紙を両手で広げると、スタンプラリーのシートだったそれには既にいくつかスタンプが押されている。
「一人で見てまわったの?」
「ううん。お母さんと! でも、ボロボロのお家の前でおばけさん達を見てたらはぐれちゃったの……」
「ぼ、ボロボロって……」
恐らくオンボロ寮のことであろうそれに、少女の目から見てもそう感じる我が家に芽唯は少し肩を落とした。
自分から見ても確かに外装はオンボロだとは思う。けれど内装はだいぶ人が住んでいてもおかしくない程度には綺麗になってはいるのだと主張したい。
レオナだって最近は何も文句を言わずに泊ってくれてる。たまにしか開かない部屋は未だに埃っぽいが、その他の部屋は頑張って掃除をしたのでピカピカだ。
「オンボロ寮からここまで移動してきたってことか? そりゃ母ちゃん見つからねぇんだゾ」
「わ、猫ちゃんが喋った!」
「ふなっ! オレ様は猫じゃねぇ!」
会話に混ざったグリムに目を丸くした少女は立ち上がるとグリムの頭に手を伸ばす。
もみくちゃにされながらも怒り出さないグリムは珍しい。彼なりに迷子の少女に気を遣っているのだろうか。
大人しく少女のしたいように撫でさせるグリムは早く話を進めろと芽唯とレオナに目配せをする。
母親と逸れたというのなら、まずは連絡を取らせるのが定石だろう。
「お母さんとは連絡出来るのかな?」
「あのね、お兄ちゃんも一緒にいたんだけど、お兄ちゃんはおふねがもっかい見たいってあっちに行っちゃったの!」
小さな指がコロシアムの方を指さしたのと同時にレオナがため息をついた。
どうやらその兄とやらも探してやらねばならないようだ。厄介者が多い学園内。面倒ごとに巻き込まれている可能性もある。流石にゲスト……しかも子供相手に何かをするような輩は居ないと思うが、部外者が多い今。何が起きてもおかしくはない。
「えっと……えっと、それでお母さんにめーるしたらお兄ちゃんと一緒にそこで待ってて……って言ってて、でもお兄ちゃんがいなくて……それで……」
「それで困り果てて座り込んでた、ってわけか」
「とんでもねぇお騒がせ兄妹なんだゾ……」
お鬚船長の冒険シリーズを題材にしたサバナクローのセットはさぞ少年の心を刺激したのだろう。
目を輝かせ駆け出す少年の姿が簡単に想像出来た芽唯は苦笑いを浮かべて少女の手を取った。
「そしたら、もう一回お母さんにメールして。その間に一緒にお兄ちゃんのこと探そっか」
「いいの?」
「いいですよね、レオナ先輩」
腰を上げ、同じように曲げていた背筋を伸ばしたレオナの様子を窺えば、正面のグレート・セブン像──スカーを見つめながら口を開く。
「……百獣の王も群れの為に動いて傷まで負った。大事なゲストがその足元で困ってるんだから手を貸さなきゃサバナクロー寮生の名折れだろ」
渋々と言った様子だが、芽唯が掴んでいたのとは逆側の手を掴む。レオナと芽唯の間に挟まれる形になった少女は二人を見上げながら首をかしげた。
「このお兄さんも一緒に探してくれるって」
「ほんとに⁉ そっちの猫ちゃんも一緒に探してくれる?」
「オレ様は猫じゃねぇけど、手伝ってやるくらいならいいんだゾ!」
「やったー!」
漸く笑顔になった少女にまずは母親にメールをするよう促した後、彼女の歩幅に合わせて歩きながらコロシアムに向かう。意外にもレオナは慣れた風で、きっとチェカの相手で身についたのだろう。
きょろきょろと辺りを見渡しては、たまに躓きそうになる少女を支えながら歩く。
すれ違う他のゲストは関係性の見えない三人と一匹を見ては首をかしげるが、少女が笑顔なのを見て危険はないと判断したのか彼女に手を振り去っていく。
「お父さんとお母さんともよくこうやってお散歩するの!」
「そうなの?」
ぶんぶんと両手を振る少女に鬱陶しそうにため息をついたレオナだが、芽唯は家族の団欒に思いを馳せる。
物心ついたころには父親が亡くなっていた芽唯には想像しか出来ない光景だが、両親と手を繋いでする散歩は子供心にとても思い出に残るだろう。
「いいなぁ、羨ましい……」
もう芽唯は母に手を引かれて歩く歳ではないが、いつか……いつかレオナとの子供が出来たとしたら母親としてそんな風に歩くときも来るのだろうか。
ちらりとレオナの横顔を覗き見れば「なんだよ」と視線が訴えてくる。
そんな未来の話を勝手に思い描いていたなんて言えない芽唯は黙って首を振って誤魔化す。
メインストリートからコロシアムまではそう遠くはない。ようやく入り口が見えた時、正面からラギーが走ってくるのが見えた。
「レオナさんとメイくん……って誰ッスかその子」
「迷子。家族とはぐれてここで集まることになってるんだが、兄貴の方見なかったか?」
「子供ぉ? そんなん山のように居て……。いや、待てよ。そういやジャックくんに飛びついてた子……」
何か思い当たる節があるのか、少し悩んだように動きを止めたラギーは手慣れた様子で少女の前に膝をつく。
「お兄さん、どんな服着てるとか覚えてる?」
「おっきい帽子被ってる! 三角で……あの……あのお兄さんみたいなやつ!」
小さな指が刺したのはサバナクロー寮生。海賊の衣装の帽子を何度も「あれ!あれ!」と指さしては飛び跳ねる。
「あー、やっぱり」
「見覚えあるんですか?」
ゲストの中には子供も多い。賢者の島という狭い島内で暮らす子供たちにはハロウィーンで解放されるナイトレイブンカレッジは珍しい遊び場と言っても過言ではない。
待ってましたと言わんばかりに開場と共に学園内に入ってきた子供たちも多かった。
それなのに記憶に残っているということは、よっぽど特徴的か記憶に残る子だったのか。
立ち上がったラギーは振り返ると人混みの奥にいる少し他よりも頭が飛び出た巨体に向かって手を振った。
「ジャックくん! こっち来て……、あっ男の子も連れてきて欲しいッス!」
すぐにこちらに気付いたジャックは足元に気を配りながらやってくる。
ジャックにしては珍しくもたもたとして歩みが遅い。
歩きにくそうなのはなぜなのか。その原因は人混みからジャックが抜け出すとすぐに分かった。
「お兄ちゃん!」
繋いでいた手がパッと解かれる。気づいたときにはレオナと芽唯の間から勢いよく少女が駆け出していて、ジャックの足に纏わりつくようにしがみついていた少年は妹に気が付いたのか目を丸くさせてジャックから離れた。
「おっと、あぶねぇな」
少女が兄に飛びつくと倒れそうになったが、その背をジャックが支えてなんとか倒れることは免れた。
こちらもまた慣れた様子のジャックだが、そういえば彼は下の兄弟がいると言っていた気がする。
ジャックならさぞいい兄なのだろう。兄弟……それも自分より年下ならば守ろうとする姿は簡単に目に浮かぶ。
兄として振る舞うジャックの姿に想いを馳せていると、再会を喜ぶ兄妹の傍らで彼は助け船を求めるようにこちらを見ていた。
尻尾は垂れ下がり困り果てているのがよくわかる。
「えーっと……どういう状況ッスか」
少女と少年の背を押しながら近づいてきたジャックは未だに状況が呑み込みきれない様子で後頭部を掻く。
説明をする間もなく兄妹の再会に巻き込まれたのだから当然の反応だろう。クスクスと笑う芽唯はラギーとジャックに改めて経緯を説明した。
メインストリートでしゃがみ込んでいる妹を見つけたこと。母親にはここを待ち合わせ場所にすると連絡したこと、兄がコロシアムに向かってしまったと言うので一緒に探しに来たことを伝えると二人は納得したように頷いた。
「そういうことなら後は運営委員の俺に任せてください。……お前ら大人しく待てるよな?」
「海賊にーちゃん、おれずっといい子にしてただろ!」
「俺にはずっと暴れてるように見えたが……。そもそも、妹を置いて先走るやつがいい子なわけねぇだろ」
実際に自分も下の兄弟を持つ兄として許せなかったのだろう。少年の前にしゃがみ込んだジャックが軽く彼の額を小突く。
うっ……と言葉に詰まった少年は不安そうに眉をひそめた妹の手をぎゅっと握りしめた。
「そうッスよ。今回はたまたまレオナさんとメイくんが見つけてくれたからよかったッスけど。世の中悪い人が多いんだから、ちょーっと目を離したのが永遠の別れ……なんてことも」
「ラギー、お前ガキになに吹き込んでんだよ」
「ま、この島に住んでるんならそんなことないんでしょうけど。世の中厳しいってことを知っといた方がいいと思って」
呆れ顔のレオナだったがラギーは至って真剣に注意しているようで、彼の生まれがそうさせるのだろうか。小さな兄妹にはまだ難しい話だったとは思うが、妹を一人置いていったことを悔いるように兄の方は妹の手を離そうとしない。
二人に叱られ少し落ち込んでしまった兄を横目にラギーは思い出したように芽唯を見る。
「けどオレびっくりしたッス。ナチュラルに間に挟んで歩いてるから親子に見えたんスもん」
「な、何言ってるんですか……!」
ラギーの言葉に心臓がドキリと跳ねた。
ほんの少し前に考えたことを読まれたようだ。頬に集まる熱を逃がすため慌てて頭を振った芽唯にラギーは意地の悪い顔をし始める。
「なわけねぇだろ。こんなデカいガキ、いつ出来た子だよ」
「そうなんスけど、一緒に歩いてるのが様になってるっていうか。全然違和感なかったというか」
そんな芽唯の様子に気付くことなく否定するレオナとは対照的に、ラギーは言葉を続けるので顔が熱くなるのが止まらない。
「や、やめてくださいよラギー先輩! 私達まだそんな、こ、子供なんて早すぎます!」
パタパタと顔の前で手を振って否定する芽唯にニヤニヤと笑みを浮かべ続けるラギーだったが、それ以上追及はせず、レオナをちらりと見る。
視線を向けられたレオナは何を言うでもなく、ぱたりと耳を伏せると子供たちがジャックに渡ったので漸く自由になった手で芽唯を引き寄せた。
「だいぶ冷めちまったが食うか?」
「あ、ワッフル。忘れてました」
そうだ、元々はそれをコロシアムで食べようという話だった。
冷めてしまったことで匂いはだいぶしなくなってしまったが、サムは時間が経っても十分美味しいと絶賛していたので大丈夫だろう。
兄弟のことはジャックに任せ、奥に向かおうと足を踏みしめたその時。ぎゅるるる、と誰かの腹の虫が鳴き出した。咄嗟にお腹を押さえた芽唯はレオナと視線が合いかぶりを振る。
「わ、私じゃないです!」
「俺はまだ何も言ってないぜ? お前の可愛い腹の虫がずっと前から空腹に耐えてるのは知ってるしなァ?」
「もう!」
本当に自分ではない。再び熱くなった顔を手で仰ぎながら振り向けば兄弟が揃って腹を抱えて俯いている。
「おなかすいた……」
「わたしも……」
無事に再会できたことで気が緩んだのか。元気な腹の虫が飯はまだかともう一度大きく鳴き声をあげる。
子供の歩幅で学園内を歩き回ったのだからかなりの運動量だっただろう。お腹が減るのも当然だ。
母親と逸れていたのだから彼らが自分で何かを買ったとも考えにくい。
しかし、お菓子を配るのはスタンプラリーの景品として。食品の販売も購買でのみ行われているので何か食べさせてやれるものと言ったら──。
「……レオナ先輩」
「なんだよ」
「今すぐ食べれるもの、私達持ってますよね?」
言葉の意図をすぐに理解したレオナは紙袋を掲げて左右に振る。
「……これをガキにやるっていうのか?」
「なにー! メイ、それオレ様達が食うためのもんだろ!」
「でも他に今は持ってないし……。ワッフルが食べたかったら私達はまた買いに行けばいいじゃないですか」
レオナがずっと持っていてくれた紙袋。美味しい匂いはだいぶなりを潜めたが子供の腹を満たすには十分だ。二人のやりとりにラギーとジャックは首をかしげたが芽唯は力強く頷く。
「ったく、お人好しにもほどがあるな」
そう言いつつもレオナは面倒そうに子供たちの前に屈むと紙袋を広げて中身を見せる。ワッフルを見た兄妹はその小さな瞳をキラキラと瞬かせた。
「おいしそう!」
「カラスさんの絵がついてる!」
「っと、ここで食うのは零すだろうから禁止だ」
手を伸ばしてきた兄妹から長い手足を使って紙袋を引き離したレオナはそれをジャックに投げ渡す。
「良いんスか?」
「あいつが一度言い出したら聞かないのはお前も知ってるだろ。それ食わせて待たせとけ。展示が汚れるし他の客が真似しても困るから裏にでも連れてけよ。あァ、親には会場に付いたら自分達に声かけろって連絡すんのも忘れんな」
「ウッス!」
頷いたジャックは兄の手を取ると二人をゲストからは見えなくなる生徒用の控え場所に連れていく。あそこには机もあるし、多少食べかすを零してしまっても大丈夫だ。
自分達で食べるはずだったワッフルを失って不満そうなグリムが頬に頭を擦りつけてくるが芽唯は気にすることなく兄妹の後ろ姿に手を振った。
「自分たちの飯あげちまうとか、ほんとメイくんお人好しッスね」
呆れているのか感心しているのか。どちらともつかない表情でラギーは芽唯を見る。
食に執着の強いラギーにしてみれば芽唯の行動は信じられないことかもしれない。
「でもラギー先輩、あれくらいの子供だったら自分だってあげちゃうんじゃないですか?」
「さぁ?」
「だって、ラギー先輩が本当にあげるつもりがないなら『自分なら絶対渡さない』とか完全に否定するじゃないですか」
芽唯の言葉に目を見開いたラギーは視線を右往左往させては眉を下げる。
小さい子供にこそ十分な栄養を。生き延びるため、生き残るため、スラムで生きてきたラギーはなんだかんだで腹を空かした子供に弱い。
「あー、まぁ……そう……。恥ずかしいから冷静に分析とかしないで欲しいッス……」
「ふふ、ごめんなささい」
照れ隠しのように頬を掻いたラギーは息を吐きだすと「んじゃ、オレは仕事に戻るんでレオナさんをよろしくッス」と走り去った。
その背中を一瞥するとレオナはいつまでも芽唯に頭をこすりつけているグリムの首根っこを掴んで持ち上げ芽唯の腕の中に収める。
「んで? 俺達はこの後どうするんだ」
「うーん……そうですね……。食堂で何か適当に作って、先輩のお部屋で食べる……っていうのはどうですか?」
「そろそろこの騒がしいのにも飽き飽きしてきたところだしな」
「そういうと思ってました」
むしろレオナが長時間、部外者が何人も学園内を歩き回っているのに付き合ってくれた方が意外だった。
それこそ、芽唯が夢見た文化祭デートのような、そんな気分が味わえた。
「……ありがとうございます、レオナ先輩」
「…………」
芽唯の方からそっと指を絡めるように手を繋げば、レオナのそれはしっかりと応えてくれた。
穏やかなハロウィーンウィークを楽しんだ二人は、まさかこれからあんな大騒動が起きるとはまったく思っていなかっただろう。
ゴーストとグリム。彼らが何気なくアップしたマジカメの投稿がある瞬間を境に、いいねの数を増やし続けていることはまだ誰も気づいていなかった……。
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