02


欲張りな猛獣使いへ
 まさか自分の誕生日にこちらからも献上品をお届けすることになるとは驚いたぜ。もしかして、それがお前の国では常識的なやり方なのか?
 ……なんて冗談はこの辺にしておくか。
 よく考えたじゃねぇか。いや、よく見ていると言うべきか。
 返して欲しいのだとばかり思っていたが、お前の気持ちに気付くのが遅れて悪かったなァ。しばらくの間はお前のワガママとやらに付き合ってやるから、精々俺から熱烈な愛の言葉でも引き出せるようタノシイお手紙を送ってくれよ。
 あァ、先に帰した毛玉のことだが、次からはそいつに届けさせるなよ。俺の方で適当な使い魔を用意する。毎度ドアをガリガリ伸びた爪で引っ掻かれたらかなわねぇ。
 お前が俺とのやりとりをそいつに見せつけたいってなら構わねぇが。そいつ、書き終えるまで待つと言い張って便箋の傍らで内容を凝視してやがった。
 恋人同士の甘いやり取りとやらをご希望なら俺の願いを聞き届けるべきなのは賢明なお前ならわかるだろう?
 それとお前購買でなんて言ってあの便箋を買ったんだ?
 店に入った途端、ニヤニヤと笑うサムに手招きされて『羨ましい限りだね』だのなんだ言いながら次々とレターセットを出してきやがった。
 話が早くて助かるが、見透かされているようで妙に腹が立つ。
 ま、この学校で今時手紙なんてもんを買う物好き俺とお前くらいなんだろうがな。

◇◆◇

 流れるような綺麗な文字。流石は王族と言うべきか、癖は少なく、読みやすい。……それこそ後世に残っても恥ずかしくないであろうそれらは、彼かのライオンの太々しさを文字からも彷彿とさせる内容を綴っていた。
 若葉色の便箋には四葉や草の蔓を思わせるデザイン、何よりも新芽であろう双葉が描かれていて、かつて己の世界での名前の書き方を尋ねられた時の会話を今でもレオナが覚えてくれていることがわかる。

「こういうところがみんなに好かれるんだろうなぁ」

 寮長、寮長と彼を呼ぶサバナクロー生達の顔が脳裏に浮かぶ。
 マジフト大会の時には彼らの期待を裏切り、切り捨てるような言動で反感を買ったものの。喉元過ぎれば……とでも言うのだろうか、寮生たちは皆レオナを慕い続けている。
 そんな彼らのイメージカラーでもある山吹色の便箋を手に取った芽唯はさっそく返事を書こうとペンを握り、始まりの一文を綴り始めた。

◇◆◇

優しいライオンさんへ
 お返事ありがとうございます。
 グリムが拗ねながら帰ってきた時はダメだったのかな、と残念に思ったけれどルチウスが訪ねてきてびっくりしました。
 どうやってあの子に頼んだんですか?
トレイン先生にちゃんと許可を取ったんですか?
 気になる事尽くしで、すぐに答えてもらえないのを考えるとやっぱりお手紙ってちょっと不便だな。でも、それが手紙の醍醐味ですよね。
 
 サムさんは多分また『秘密のお友達』に聞いて私の気持ちを知ってたんだと思います。
 この便箋、思い立って購買部に探しに行ったら一番目立つところに置いてあったんですよ。絶対私の為に用意されたんです。……なんて、思い上がりなんでしょうか?
 でも、ついうっかりそのことを尋ねたらニヤリと笑ったサムさんに根掘り葉掘り全部聞かれてしまって。だから先輩の分のレターセットもすぐに出てきたんだと思います。
 この便箋もとっても素敵で…………その、私の世界の文字で名前をなんて書くか覚えてくれてたんですよね。
 あの頃はまだレオナ先輩は元の世界の話をするとちょっとご機嫌斜めになっちゃう困ったさんでしたけど、漢字には興味津々でしたもんね。
 ありきたりなのはわかってるけど、何気ない話をこうやって覚えてくれてるところが大好きだなって、改めて思いました。

◇◆◇
 
 あぁ、早く会いたいな。そんな気持ちを膨らませつつ、一文字ずつ出来る限り丁寧に綴った手紙に最後の一工夫を添え、配達人として待機してくれていたルチウスに手紙を預ける。
 大きな欠伸を零した彼は興味こそなさそうだが、しっかりとそのお役目を果たしてくれるようだ。

「書き終わったのか?」
「うん。……せっかくグリムから配達したいって言ってくれたのにごめんね」

 レオナに怯え、彼に威嚇されればすぐに尻尾を隠してしまうくらいには苦手としている相手に自ら会いに行ってくれると言い出すなんて以前なら考えられなかった。

「オレ様は子分が喜んでくれるならそれでいいんだゾ!」
「誕生日なのはレオナ先輩なのに、良いのかな」

 手紙のやりとり自体、自分のわがままのようなものだ。
 けれど、これ以上に彼を喜ばせる方法も浮かばない。
 そらで言えるほど自分のしたためた日記や手紙を読み込んでいるレオナ。もしかしたら彼の記憶力がそもそもで良いのかもしれないが、その一部にでも自分の言葉が刻まれているのは恥ずかしくもあり嬉しくもある。
 だからこそ、自分もレオナの言葉が欲しかった。
 もちろん日常で彼は優しい言葉を幾度もかけてくれた。
 意地悪で、計算高く、時には甘い言葉で罠へと相手を誘導するような……言葉巧みに相手の心を動かす男だが、芽唯に向ける言葉には嘘偽りなどない。
 そこにあるのは少し分かりにくくて、時には勘違いもされてしまうが、彼なりの愛が込められている。

「でも、こんなの見せられたらなぁ……」

 スマホを掴んだ芽唯は写真フォルダを開くとわざわざ振り分け保存しているとある画像を開く。
 レオナの自室、家主はいつも通りベッドの上で転がっている。
 それだけなら珍しい光景ではない。芽唯が片付けに赴くときも本を片手に出迎えられたことはあるし、お泊まりさせてもらう時も寝る直前に難しそうな本に目を通している姿を何度も見たことがある。
 しかし、画像の中のレオナはやけにくたびれた見覚えのある便箋を手に持ち、サマーグリーンの瞳は穏やかな色を浮かべて幸せに満ちていた。
 そんな顔を、たとえ画面越しにでも見せられた衝撃は言うまでもないだろう。
 その時、呆然とした芽唯に「これだ!」とはしゃぐグリムの声は数分ばかり届かなかった。

「熱烈な愛の言葉、ってどうやったら引き出せるんだろ」

 自分がレオナに送った手紙に注いだ熱量と同等の物を込めてもらうことは果たして可能なのだろうか。
 あれは元の世界に帰ることや、彼との縁が切れるのを前提に、文字通り洗いざらいぶちまけた手紙達だ。
 レオナから手紙を貰えただけで心は浮き足立ってはいるが、あのレオナほど幸せに満ちた笑みを浮かべられるかといえば違う気がする。

「なんか、主旨がズレてきてる……」

 それでもレオナが気乗りしていないわけではない。それどころか彼の方からやり取りするための使い魔を用意してくれた。

「甘えちゃってもいいのかな……?」

 ネコの宅急便ならぬネコの郵便屋さんの再来を早く早くと願いながら、芽唯はレターセットを引き出しにそっとしまった。

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