終章
世界から魔法が消えた。
生活の基盤が崩れた世界はこれまで以上に大きく荒れて、落ち着くにはきっと何十年、何百年とかかるだろう。
けれど、それ以上に私の世界から消えてしまったものがある。
「トルガル、あっちを探そうか。ジルはそっちをお願いね」
人が人らしく生きられる世界。
そんな理想を目指して戦った三人がどうなったのか、私たちはいまだに知らない。
隠れ家ではエッダさんの子供が無事に産まれたんだよ。
ガブなんてまるで本当の家族みたいにその子を抱いて離さないの。
そのせいでちょっとミドとも喧嘩になってたけど、赤ちゃんが起きちゃう!ってエッダさんに小さな声で怒られちゃったの。
やっぱり、我が子を愛するお母さんには誰も敵わないみたい。
シドの名のもとに集った人たちは混乱する世界をどうにかしようと必死に頑張ってる。
でも課題はイヤというほど多くて順調とは言い難いかな……。
けれど、アルテマの作った世界の理が失われた世界では魔法もクリスタルもなければ、石化の進行も止まったみたいで、少なくともこの現象でこれ以上誰かが苦しむことはないんだって。
伝えたいことは山ほどあるのに、私がどれだけ世界を知ってもあなたがいない。
まるでぽっかりと穴が開いたように、私の中の何かがずっと埋まらない。
「……トルガル?」
私とジルとトルガルは、あれからずっとあの三人を探している。
クライヴたちが旅立ってから泣いてばかりだったジルは、ある日「何があっても私が見つけるって、そう約束したから」と旅立ちを決意した。
もちろん、ヨーテや不死鳥教団の人たちも三人の行方を追っていて、彼らと接触してはあちこちを探し、たまに隠れ家に帰る。そんな日々が続いている。
「ジル、トルガルが何か……っ」
見つけたみたい。
そう続けようとしたのに、私は言葉が出なかった。
何かを目指して駆けるトルガルの行く先で金の髪に光が反射する。
見間違えるはずがない。
なのに、理解が追い付かない。
違う、そんなはずない。
──だって、もう二度と会えないと覚悟した人がそこにいる。
「案外、僕もしぶといだろ」
青空の下で星のように瞬いたその人は、私を見てふわりと笑う。
ずっとずっと、私の中で変わらない。
きっと何よりも眩しいその人は、困ったように私を抱き寄せまた笑う。
「困ったな、君に泣かれると弱いんだ」
見つけたらなんて言ってやろう。
おかえり?
やっと見つけた?
そんなことばかり考えながら探していたのに、脳裏に過ったのは手紙でもらった一文だった。
「好き……ずっと前から、私も、出会った時から大好きなの……っ!」
唄に、本に謳われる輝く星のような王子様は、私の世界でまた瞬きだした。
彼と一緒にメティアに向かって毎晩祈ろうか。
願わくば、もうこの輝きが取り上げられませんように。
……でも、今はただ触れられることが何よりもうれしい。
私はそっと彼の服を掴んだ。
二度とこの温もりが消えてしまわないように、しっかりと。
──これが、私と彼の物語。
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