船長を惹きつけて ▼シャボンディ(連載IF)リク シャボンディ諸島でコーティングの為数日停泊することを余儀なくされた麦わらの一味は、シャボンディ諸島にて、各々これから必要になるであろう買い物という名の、散歩を楽しんでいた。 ある者はショッピング、ある者は遊園地、そしてある者は──、 「あった!」 本屋で新刊の小説を物色していた。 欲しい小説があったのだろう、自分の背よりも高い位置に陳列してある小説を精一杯腕を伸ばして取ろうとするが、指先に背表紙が掠るだけで、数ミリも小説は動かない。 ヒノデが本棚に寄りかかるような形で、つま先と腕を伸ばしていると、突如ヒノデの体を覆い隠すほどの影が背後から現れる。 「これか?」 背後から聞こえてきた見知った声に、ヒノデが顔を上にあげるとそこに居たのは、 「トラファルガーさん!?」 そこに居たのは、ハートの海賊団船長トラファルガー・ローだった。 ローはヒノデの取ろうとしていた本を本棚から抜き取ると、ヒノデの目の前に差し出す。 「これか?」 「あ、はい、そうです。あの、ありがとうございます!」 述べられた礼の言葉に満足気に笑みを浮かべる。早速ローが取ってくれた本を受け取ろうとしたヒノデだったが、ひょいっと本を持ち上げられて、受け取ることは叶わなかった。 突然の行動に疑問符を頭に浮かべるが、周りをキョロキョロし始めたローに、何を探しているんだろうと疑問に思い、声をかけようとしたが、ヒノデが声をかけるよりも先に、ローが口を開く。 「今日は保護者は居ないんだな」 「ほ、ごしゃ……?」 「ゾロ屋の事だ」 どうやらローが探していのは、ゾロだったらしい。だとしても、『保護者』と言う言葉は流石に少し怒りを覚えるのだろう。ヒノデの眉間に皺が寄る。 「ゾロさんは保護者じゃありません……」 「じゃあ、番犬か? いつも傍に居るだろうが」 「いつも一緒なわけではないです、たまたまです」 「たまたま、ね……」 いつも傍に居ると言う言葉に、ヒノデが頬を赤く染めながら否定しているのを見て、ローの眉間に皺が寄る。 すると何を思ったのか、ローはヒノデが買おうとしていた本を、あろうことか勝手にレジに持っていき、支払いを済ませてしまったのである。まさか自分が買おうとしていた本を、ローに買われるとは思っていなかったのか、ヒノデは慌ててローの元に駆け寄る。 「トラファルガーさん! あの、その本私が――」 買おうとしていたんです。と言葉を発する前に、ヒノデの目の前に紙袋に入った本が突き出される。 突然目の前に突き出された自分が買おうと思っていた会計済みの本に、ヒノデは困惑するばかりである。だが、いつまでも目の前に突き出されている本を、無視することも出来ず、受け取ろうとするが、次の瞬間には再びヒノデが届かないであろう、高さに本をち上げられてしまう。 ローの何をしたいのか分からなかったが、突如掴まれた手首に、それ以上考えることは出来なかった。なぜなら次の瞬間には、引っ張られるように、ローに手首を引かれ、店を後にしたからである。 「え、え、あの! トラファルガーさん!?」 「本は後で渡してやる。金はいらねェ、その代わり今日一日おれに付き合え」 「付き合えって、あの、お金……」 「金は良いって言ってんだろ、おれに付き合ってもらうための報酬だ」 いつまでも本の代金を妥協しないヒノデに、ローは溜息を吐く。そんなに自分と一緒に居るのが嫌なのかと。 だが、ヒノデから出てきた言葉は、ローが想像していた物とは正反対のものだった。 「違います、私は報酬とかそう言うので、トラファルガーさんとお出かけと言うか、何というか、お金を貰ったから、トラファルガーさんとお出かけするとか、そういう関係が嫌なだけです……」 「あ?」 「いや、あの、ですから……お金と言うか報酬みたいなのを払ったから、トラファルガーさんと出かけるとかは――」 未だに言葉を詰まらせながらも、自分とお金で形作られた関係は嫌だと伝えようとするヒノデに、ローは口元に笑みを浮かべる。ひとつなぎの大秘宝を目指す以上、必ずどこかで敵対することは分かっているのに、そんな事すら考えず、自分と純粋な気持ちで付き合いたいと言うヒノデに、様々な感情が駆け巡った。 「なら、本は報酬じゃなく、今日付き合ってもらう礼だ。礼なら報酬とは違うだろ?」 ある意味言葉の解釈が違うだけで、中身はほとんど同じようなものだが、どうしてもローはヒノデからお金を貰う気はないのだろう。ヒノデは様子を伺うようローに視線を向けるが、とうとう痺れを切らしたローが押し付けるようにヒノデに本を渡す。 「買った本人が金はいらないって言ってんだ。黙って受け取れ」 「…………」 自分の両手に収まっている茶色い藁半紙の袋を数秒見つめると、ギュッと両手に抱え込むと、目の前に立っているローに笑みを向ける。 「ありがとうございます、トラファルガーさん!」 「最初からそうやって大人しく受け取ればいいんだよ」 悪態をつきながらも、嬉しそうに本を胸の前で抱きしめるヒノデに、ローの表情も穏やかなものに変わるが、本来の目的は本をプレゼントすることではなく、ヒノデと歩くことなのだ。 ローはほのぼのした雰囲気を打ち消すかのように、ヒノデの手首を掴むと、自分の方へと引っ張る。 「それじゃあ、約束通り付き合ってもらうぜ白刃屋」 ちょうどその頃、麦わらの一味や、ハートの海賊団同様シャボンディ諸島に船を停泊させ、島に上陸していたキッド海賊団船長『ユースタス・キッド』も仲間を連れて、島を散策していた。 だが、運が良いのか悪いのかと問われれば、悪い。と10人中10人が言うだろう。キッドの視界が今まさに二人で出掛けようとしていたローとヒノデを捉えたのである。 「おい、キラーありゃあ確か、トラファルガーと……」 「“異端の海賊”と言われている“白刃のヒノデ”だな。なぜあの二人が一緒に居るんだ」 疑問の声をキラーが上げる中、一人、キッドだけは不敵な笑みを見せていた。 その表情にキラーが気付いた時はすでに手遅れだった、キッドの足は一直線にヒノデ達の所に向かっていたのだから。 そんな中、キッドがこちらに向かっている事に気付いてないヒノデは、ローに手首を引かれ、世間一般で言う『デート』に出かけようとした瞬間、突如ヒノデの目の前を歩いていたローの足が止まり、背中に激突してしまう。激突した際に勢いよくローの背中に打った鼻を押さえていると、ローの高身長のせいで顔は見れないが、妙に威圧感のある低い声が聞こえてくる。 「よう、こんな所で何してんだトラファルガー」 「それはこっちのセリフだユースタス屋。何の用だ」 (ユースタス……?) どこかで聞いたことのある名前に、顎に手をやり必死に自分の記憶をたどっているヒノデを後目に、二人の会話は進んでいく、無論ヒノデを巻き込む形で、 「ハッ! ずいぶん特殊な趣味してやがるなトラファルガー、他の海賊船の船員の女を連れまわしてるって言うのは」 「お前には関係ないことだ。それともわざわざそれを言うためにおれに話しかけてきたのか? 随分暇なことだな」 その言葉に、キッドは鼻で笑うと、未だにローの背中に隠れるようにして自分の前に姿を現さないヒノデの方に目を向けると、 「おれが用があんのはこっちの女だ」 「イッ……!!?」 突然ローの背中から引きずり出す様に力強く腕を引かれたヒノデは、キッドの目の前に姿を現してしまう。痛みに声を上げたヒノデは、体勢を崩しつつも何とか体勢を立て直すと、自分の腕を引いた諜報人キッドの姿を見ようと目線をキッドに合わせようとして、思わず目を逸らした。 目の前に居たのは、上半身裸コートに、やたら物騒な装飾がついている服装やゴツイアクセサリー、そして何と言ってもヒノデに一番強烈な印象を与えたのは、その顔である。吊り上った三白眼に、これまた逆立った赤い髪、このユースタス・キッドと言う男を一言で表すのなら『海賊の中の海賊』であろう。勿論悪い意味での。 今まで出会ってきた海賊は、確かに海賊ではあったが、こんないかにもな見た目の海賊に会ったのは初めてなせいか、キッドに目を向ける事が出来ず、失礼だとは思っているが顔を下に向けてしまう。 (怖い、この人凄い怖い……!!) 恐怖で顔を上げることのできないヒノデを見て、キッドは元々目つきの悪い顔を更に苛立ちで鋭くすると、ヒノデの頬を挟むように片手で乱暴に掴みあげ、無理矢理自分と視線を合わさせる。 恐怖でカタカタと体を震わせるヒノデを見て、キッドが口元に怪しい笑みを浮かべた時、ローがヒノデとキッドの間に割って入る。 「悪いがお前にかまってる暇はないんだ、ユースタス屋」 「お前にはなくても、おれにはあるんだよ、トラファルガー」 そう言いながら、キッドは再びトラファルガーの背後に隠れているヒノデに不敵な笑みを向ける。その姿にヒノデは身震いすると、恐怖からか無意識にローの服の裾を掴んでしまう。 「異端の海賊“白刃のヒノデ”海賊でありながら絶対的な『生』を約束されてるんだからな。気にするなって言う方が無理な話しだろ。なァ? 白刃のヒノデ?」 「…………」 ニヤニヤと笑みを浮かべながら自分に話しかけてくるキッドに、返す言葉が見つからないのか、ただ恐怖の篭った眼差しを向けるだけである。 それが気に食わなかったのか、キッドは遠慮することもなく盛大に舌打ちをすると、ロー、基ヒノデに一歩近づくと、今度は腕を引くことに留まらず腹部に手をかけ、自分の肩に担ぎあげたのだ。予想外の行動に流石のローも反応が一瞬遅れるが、それよりも驚いたのはヒノデの方である。 「こいつ借りてくぞトラファルガー、聞きてえことが山ほどある。それに……」 肩に担ぎあげられて、すでに恐怖で目に涙を浮かべているヒノデを見て不敵な笑みを浮かべる。 ――丁度興味もわいてきたところだ。 その言葉に、ヒノデの顔色が一気に青くなるのと、ローが能力を発動させたのは同時だった。 だが、流石はルフィを越える3億の首と言ったところか、やすやすとローの能力の餌食になることなどなく、ヒノデを抱えたままサークルの中から抜け出す。 「ハッ! どうやらお前がトラファルガーの地雷だったみたいだな! おかげで良い暇つぶしができそうだ! キラー!」 仲間の名前を呼ぶと、肩に担いでいたヒノデを仲間に向かって投げ渡す。投げ渡された方はたまったのものではないが、そこは億越えルーキーともいうべきか、投げられたヒノデを落とすことなく、両腕で受け止める。 「そいつ預かってろ! 退屈しのぎにはなりそうだ……!!」 「ほどほどにな」 言っても聞かない船長という事が分かっているのか、一応の忠告はするが、期待はしていないようだ。 突然抱え上げられた挙句、投げられたヒノデはキラーの腕の中で放心状態である。 「すまないが、もう少し付き合ってもらうぞ。キッドの命令だからな」 「えっと……あの……」 地面に降ろされ、自分の手首をつかんで離さないキラーに、どう返事を返していいのか分からない。と言うよりも、キッドに負けず劣らずな外見の恐さに、言いたいことを言えないと言う方が正しいだろう。 だが、キラーはそんな視線などつゆ知らず、ヒノデを一瞥すると、戦闘を繰り広げているロー達に目を移す。 「厄介なのに好かれる女のようだな。同情する」 その言葉に、ヒノデもロー達に目を移す。 確かに治安の良いとは言い難い場所ではあるが、それを抜きにしても町中でハイレベルな戦闘を繰り広げている二人に、ヒノデもどう返事を返していいのか分からず、力なく、 「ご心配ありがとうございます……」 と、お礼の言葉を返すしかなかったのだった。 END TOP |