酒と咲けと

▼パンクハザード(連載IF)リク


 パンクハザードにて、目的のシーザーを捕えることに成功し、子供たちも救出することができた麦わらの一味と、トラファルガー・ロー、そして海軍のG−5は、サンジの作った『海ブタ肉入りホルモンスープ』に舌づつみをうっていた。
 それは勿論ローも同じことだが、ローとスモーカーは皆の輪から離れたところで一人手酌で酒を飲んでいた。
 そんなローとスモーカーに、輪の中心でナミ達を共に、子供たちと談笑していたヒノデが近づいていく。

「お酒とスープの方足りてますか?」
「あ? ああ、おれは大丈夫だ」

 突然自分に話しかけてきたヒノデに驚きつつ、スモーカーは返事を返す。次いで、数メートル間隔を開けて座るローに近づく。

「トラファルガーさんも、お酒とスープの方足りてますか?」

 自分の方に近づき、座っている自分と目線を合わせるように少し前屈みになりながら話すヒノデを一瞥すると、ローは自分の横に置いてある一升瓶をヒノデの
目の前に差し出す。

「酌しろ」
「へ?」
「酌しろって言ってんだよ」

 思わぬローのお願いと言うより、命令に、ヒノデは疑問の声しか上がらないが、目の前に居るローの眉間に皺が寄り始めてるのを見て、急いで酒瓶を受け取ると、ローの横にもう一つ置いてある木箱に座ると、差し出されたお猪口にお酒をつぐ。
 若干手が震えてのは仕方ないだろう。
 酒が注ぎ終わり、ヒノデがほっと胸をなで下ろし、腰を上げようとした時、ズイッと目の前にお猪口を差し出される。
 また、お酌をしてほしいのかと思ったが、ローから出てきた言葉は、ヒノデの予想していた物とは違うものだった。

「飲め」
「え……あの」
「飲め」

 一言『飲め』としか言わないローに、ヒノデは何を? と疑問を浮かべるが、すぐに目の前に差し出されたお猪口で意味を理解した。
 つまり、ヒノデに酒を飲めと言っているのだろう。確かに20歳になって酒を飲んでもいい年齢にはなったが、いかんせん、ヒノデは酒を飲める年齢になってもまだ飲んだことがないのである。
 と言うより、飲めないのである。昔一度だけ、家での宴会か何かで、無理矢理勧められ一口飲んで以来、苦手なのである。

「えっと……すみません、私お酒飲んだことなくて……」
「じゃあ、今飲め。まさか、同盟相手の船長が注いだ酒が飲めない、なんて事ありえねェよな?」

 その言葉に、ヒノデはうっ……。と声を詰まらせる。
 海賊の常識で考えれば、同盟相手の海賊、しかも船長の好意を無碍にするなど、自殺行為であるうえ、下手をしたら同盟は破棄され、殺し合いになりかねない。
 ヒノデの頭の中を最悪のビジョンがグルグルとまわり始める。この危機を回避しなくてはと、ヒノデは恐る恐るローからお猪口を両手で受け取ると、並々いっぱいに 注がれているお酒を見る。
 ローの気が変わってはいないかと、恐る恐るローに視線をやるが、見なければよかったとヒノデは後悔した。
 その眼は、いつまでたっても酒を口にしないヒノデにイラついている目だったからだ。
 流石にこのままでは、自分の身が危ぶまれると思い、いざお猪口に口をつけようとした時、突如背後から伸びてきた手に、口を覆われてしまう。
 手の持ち主とは、

「何、人のトコのクルーに無理矢理酒飲ませようとしてんだ」
(ゾロさん……!!)

 先ほどまで、G-5の海軍と共に酒盛りをしていたゾロだった。ゾロは、お猪口を両手で持ちながら、自分を見上げるヒノデを一瞥すると、目の前に居るローに視線を向ける。
 ヒノデの口を塞いだ手はそのままである。

「こいつは酒が飲めねェんだ。無理矢理飲ませようとしてんじゃねェ」
「……お前は白刃屋の保護者か何かか? ずいぶん過保護だな」
「ああ?」
(怖い……)

 まさに一触即発と言う雰囲気に、ヒノデがゾロに口を塞がれたまま、ナミ達に助けてと、目で視線を送るが、あろうことか、ナミ達はヒノデ達で賭けをしていた。

「私はヒノデがお酒を飲む方に賭けるわ」
「おいおい、良いのかナミ? おれはヒノデは酒を飲まない方に賭ける」
「おれは勿論ナミさんと同じで〜す!」
「お、おれはウソップと同じ方に賭けるぞ!!」
「じゃあ、私もウソップとチョッパーと同じ方に賭けるわ」
「じゃあ、おれは飲む方に賭けるぜ!」
「ヨホホホ、じゃあ、私は飲まない方に賭けます。ルフィさんは?」
「う〜ん、じゃあ、おれは酒を飲みたい!!」
「ルフィは飲む方ね、分かったわ。いい? 負けた方が勝った方に10万ベリーだからね!」
「は〜い!」
(ナミ……)

 自分達で賭けをしているナミ達に、ヒノデは涙を流したくなった。どうやら自分の味方は居ないらしい。
 その間にも、ヒノデを挟んで、二人の言い合いはヒートアップしていく。

「大体、他の船のクルーにお酌させるとは良い度胸じゃねェか、酌も一人でできねェのか?」
「出来るに決まってるだろ。お前はバカか? それとも、自分が白刃屋に酌してもらったことがないから、嫉妬してるのか? 醜いな」
「てめェ……ケンカ売ってんのか?」
「最初に売ってきたのは、お前だロロノア屋」

 段々殺気までで出した二人に、ヒノデには泣きたい気分になった。せめて自分を挟んでケンカしないでほしいと。しかも、未だにゾロの手はヒノデの口に添えられており、口を挟むにもはさめない。

「だったら、白刃屋に聞けばいいだろ、いい加減その手を離せ。それとも、口を開いたら酒を飲むと思って、手を離せないのか? 無様だな」
「ふざけんな、離せるに決まってんだろうが、忘れてただけだ」

 そう言いながら、ヒノデの口元から手を離したゾロだったが、ヒノデからすればこんなタイミングで口を自由にはしてほしくなかった。

「で、飲むよな? 白刃屋?」
「飲むわけなェよな? ヒノデ?」
「え、あの、わたし……」

 片方は飲め、と目で脅し、もう片方は飲むな、と目で脅している。二つの視線にはさまれ、視界の片隅では先ほどまで賭けをしていたナミ達がじっ……。とこちらを見つめている。 
 戦闘とはまた違った緊張感に、ヒノデがどうしようかどうしようかと、不安に駆られ、視線を彷徨わせている時、横から伸びてきたがヒノデの持っていたお猪口を奪い、そのまま自分の口まで持っていくと、お猪口に並々注がれていたお酒をすべて飲んでしまったのである。
 その人物とは、

「小娘脅してんじゃねェ餓鬼共」
「スモーカーさん……」

 ヒノデ達から離れた位置で、スモーカーである。流石にいくら海賊とはいえ、億越えルーキーに挟まれて、ほとんど脅しともいえる選択を迫られ、泣きそうなヒノデを見かねたのだろう。今、ヒノデにはスモーカーが、神様か菩薩様に見えているだろう。

「お前も、あっちの女共とガキ共の相手してろ」
「は、はい! ありがとうございます……!!」

 助け舟ともいえるスモーカーの言葉に、ヒノデはすぐさま立ち上がると、スモーカーに深々と頭を下げ、逃げるようにゾロ達の所から走り去った。
 賭け事をしていたナミ達は、結局飲むも飲まないも、スモーカーが飲んでしまったことで、曖昧になってしまい、結局賭けは白紙になったようだ。ヒノデはナミ達に近づくと、すぐさま文句を言うが、軽くあしらわれてしまっている。
 残されたゾロ達はと言うと、

「何で邪魔した白猟屋」
「…………」

 自分の事を睨んでくるゾロとローに溜息を吐くと、スモーカーは二人を見やる。

「女取り合うのは良いが、本人が怖がらない様にやれ、そんな事ばっかりしてると、他の男に横から掻っ攫われるぞ」

 それだけ言うと、スモーカーは踵を返し、G-5の元に向かって行った。
 残された二人は、言い返す言葉がないのか、眉間に皺を寄せると、ナミ達に文句を言っているヒノデに目を移す。
 本人は怒っているようだが、ナミ達が笑顔であしらっているあたり、嘗められているようにしか見えない。実際嘗められているのだろう。
 その姿に、溜息を吐くと、ゾロはヒノデたちの元に行こうと立ち上がる。その後ろ姿に声をかけたのは、いわずもがなローだった。

「おれは欲しい物は、必ず手に入れる。勿論他の船のクルーでもな」

 自分に対して不敵な笑みを浮かべているであろうローに、ゾロは振り返らず答える。

「手放すつもりも、渡す気もねェから、安心しろ」

 そう言い残すと、ゾロは今度こそ、ローに背を向けヒノデたちの元に向かった。
 最後にヒノデを手にするのはどちらか……それはまだ誰にも分からなかった。ただ、これからヒノデを待ち受けるであろう面倒事だけは、皆理解していたのだった。


END


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