息苦しそうな呼吸に、目が覚めた。
ぼんやりベッド脇にある時計を見ると時刻は深夜の二時だった。息苦しそうな呼吸は彼女から発せられていたものだった。なんでも、僕が彼女の身体を心配していたためにひとりで性欲を処理しようとして、でもひとりでは満たされなくて、身体的に苦しくなってしまった…といった感じだったらしい。
寝る前にあまえて僕のパジャマを借りていたのも、前兆だったのかもしれない。人肌恋しく、でも、心配はさせたくない。
どうして気づいてあげられなかったんだろうと思った。
彼女はこれまでずっとひどく傷ついてきた人間だから、愛に飢えている。これまで他人から与えられなかったぶんだけ、愛を求めてしまう。満たされないのは、トラウマを刺激してしまったのか、部屋は暑くはないのに彼女の額には汗の粒があって、呼吸は浅い。理由のわかっていない涙がこぼれていて、僕はどうにかそれを受け止めたくて、こぼれた涙を指で拭う。
「ごめんね、起こしちゃったよね」
いいんだよ、そんなこと。
でも、彼女がもし、セックスしたいと言い出しても僕は彼女にOKを出せなかっただろう。このごろ彼女は、あまり具合が良くない。僕らの体調が常日頃あまり良くないのは事実だが、できる範囲の体調というものはある。お互い入念に確認している。だから、まずは彼女を落ち着かせるのが僕の中でいちばん最優先だった。
「甘えたかったんだよね」
「…うん」
「ゆっくり呼吸しよう。だいじょうぶ。僕、あんたから離れたりしないから」
「…うん」
「今のあんたに必要なのは、ぬくもりだと思う」
だんだん彼女の呼吸が落ち着いてきて、汗も引いてきた。ただ、神経が昂ってねむれないと言う。それならこのまま今日は寝ない日にしてもいい。ふたりで静かに手を繋いで、おしゃべりする日だってかまわない。
僕がそう言うと、落ち着きを取り戻した彼女は「悠真は今日もお仕事だから、ちゃんと寝て欲しい」などと言うのだ。彼女はぼんやりとした睡眠しかとれていないのに。寝たかも怪しいのに。
ああ、きっとこのひとは、やさしすぎるんだ。
「…あんたが寝て、って言うなら寝るよ。ふふ、自分が眠れてないのに僕の心配して、そういうとこだよね。…ちょっと心配になるくらい」
「…私は、大丈夫だから」
「そう?じゃ、うとうとしてて。時間まで僕は寝るけど、また何かあったら起こしてね」
そうやって僕はゆっくり眠りに落ちていった。寝る間際に考えたのは、彼女が今日ゆっくりお昼寝できますようにとか、そういう些細なことだ。
どんなかたちでも、彼女を愛で満たしてあげたい。それだけの祈りを、繋いだてのひらに抱えていた。