11
パピーへ

お元気ですか?
わたしは元気でやってます。
相変わらず、天パーは天パーで、メガネはメガネだけど、定春はとってもかわいいです。

そして、さいきん、わたしにお姉ちゃんができました。とってもかわいくて、いつも笑ってて、バカ兄貴とちがって、じまんのお姉ちゃんです。

こんど、地球に来ることがあったら、きっとあいさつに来てくださいネ。じまんのお姉ちゃんをしょうかいします。


女子力上げるにはまず笑顔


「神楽〜何してるのー?」

「ふぇっ!わわわ、名前居たアルか!?」

和室の炬燵で一人、パピーに手紙を書いていたら、手紙から出て来たみたいに後ろからひょこっと現れた。
これが神楽の自慢のお姉ちゃん。

「居た。ごめんね、驚かせちゃって。手紙?誰に?」

便箋を封筒に慌てて仕舞ったから、中身は見られてないはず。神楽はそれでも封筒を必死に炬燵の上に押し当てた。小さな両の手では隠しきれていないそれは、名前には手紙だとバレバレだった。

「これはっ・・・パ、パピーにアル。」
「パピー・・・。神楽のお父さんかぁ。なんか想像できないなぁ。」

そう言えば、と名前は思う。
目の前で恥ずかしそうにそっぽを向く少女は、その実、夜兎という天人で、出稼ぎに一人で地球に、この江戸に出て来たのだ、と。お父さんが恋しくなっても、可笑しな話ではない。
「いいね。神楽みたいな娘がいて、お父さんきっと幸せ者だね。」

そう言うと、そっぽを向いていた顔が名前を向いた。パッと明るく嬉しそうに、年相応の無邪気な笑顔をしていた。それにつられて、名前も微笑むと余計に嬉しそうにまた笑った。

神楽には、兄もいるとか。
神楽から直接聞いたことは無かったけど、銀時や新八から聞いて名前は知っていた。
兄は戦闘種族「夜兎」の血を純粋に受け継いだ獣のような男で、父の腕も斬り落としたと聞いた。
神楽が江戸に出て来た理由には、その「バカ兄貴」を止めるために、もう一度家族の元に戻すために、その為に強くなりたい、というのもあったのだろう。
ちなみに「バカ兄貴」とは神楽がよくそう言っているらしい。
詳しくは知らないけれど、神楽のお兄ちゃんだから、きっと根は凄く優しくて妹想いの良いお兄ちゃんなんだろう、と、身も凍るような話を聞いてもなお、名前はそう想像していた。
いや、そうであって欲しいと願っている。

「神楽。今日は天気が良いから、外に出てお買い物でも行かない?」
「え。名前とデートアルか!きゃっほーい!」
「そうだね。神楽と二人は初めてだね。せっかくだし、女の子っぽいことしよっか。」
「女の子っぽいことアルか!?なになに?女の子っぽいことって何アルか!?男はぐらかせてランデブーアルか!!」
「ちょっ!か、神楽!全然違うからね。それ女の子っていうか、ただの雌ブタだからね!」
「じゃあ、何するの?」

とんでもないことを言い出した妹分に、メッ!と叱りつけてから、純粋な瞳に微笑みかける。
「あたしに任せなさーい。」

自慢のお姉ちゃんの自信ありげな笑顔に、滅多にできない女子同士のデートに、その両方に胸躍らせる神楽は、駆け足で万事屋の玄関扉を開けた。名前もそれに続いて外へ出る。

太陽は燦々と輝いていて、雨の気配など露ほども無い。

「うーん!いい天気!」
「名前ー!まずはどこ行くアルか?」

まずは、ショッピングモールでお買い物。神楽に似合う洋服やら着物やらを選定して試着室へ押し込む。名前も自分の好みのものを試着して、上機嫌で個室から出ると隣の個室から出てきた神楽と目が合った。
「わあ!神楽可愛い!やっぱりあたしの目に狂いはなかった!」

そう言ってやると神楽は照れたように、けれど年頃の女の子のように嬉しそうにはにかんだ。
いつもチャイナ服ばかり着ている神楽には珍しい着物。色は元気いっぱいの赤色の下地に、桃色とクリーム色の鞠の模様がとても可愛らしいそれを買ってやった。一方名前は奮発して少しいい着物を。朱色の大人っぽい、今まで買ったことのない色味のものを思い切って買ってみたくなったのだ。

「名前も似合ってるネ!銀ちゃんに見せてやったらきっと鼻血垂れて喜ぶヨ!」
「ええーそうかなぁ?鼻血垂れられても困るなぁ。」

けれど、銀時がこの着物を見てどんな反応をしてくれるのだろう、と名前は暫く想像を巡らせて、一人隠れて笑った。

神楽も名前も新しい着物に袖を通し、着ていた服は袋に入れてもらって、次に向かったのはパンケーキ専門店。なんでも、最近の女子たちに大人気のお店らしい。
と、名前はリサーチ済みである。ただ、実際に来るのは名前も初めてで、勿論神楽もこんな所に来るのは初めてだと、まるで宝石でも見るように目をキラキラさせていた。
「これ、何アルか!ごっさ美味そうアル!こんなの初めて見るヨ、銀ちゃんでも作ってくれたことないヨ!」

「銀さんはこういう洒落たものは作らなさそうだね。パンケーキっていうんだよ。果物も生クリームも色々乗っかってて美味しそうでしょ?」
「じゅる・・・。ねえ名前早く食べたいアル。」
「これねぇ。並ばないといけないんだ。女子に大人気だから。でも、これ食べたら女子力上がるんだよ?」

名前にそう言われると、並んででも食べて是非とも女子力を上げたい!女子らしいことをしたい!と神楽の目はさらにキラキラと輝いたのだった。そして、素直に並ぶこと1時間弱。
やっとのことで、パンケーキにありついた二人は、女子らしからぬ必死さでパンケーキを貪り、あっという間に店を出た。
しかし、家路を目指す二人の笑顔は、紛れもなく可愛らしい女子の笑顔だった。




万事屋に帰ると鍵を閉めて出掛けたのに、鍵が開いていた。
「ただいまー」

どうやら銀時が帰ってきているようだ。
「おー。お前らどこ行ってたの?」

ソファで寝そべってジャンプを読みながら、銀時は声を上げる。どうやら二人の服装の変化にまったく気づいていないようである。

「銀さん、今日のパチンコは勝てたんですか?」
「あ?今日はパチンコじゃなくて仕事だって。ちゃんと働いてきたからね、銀さん。てことで、名前のハグ・・・あれ?」
「あら。仕事だったんですか。一人で?てっきりパチンコだと。」
「今日は神楽まで二人してなんか雰囲気違くない?」

目をパタパタはためかせる銀時に対して、神楽はテレビを点けて好きなドラマの再放送に見入り、名前は平然と散らかった部屋を片付け始める。銀時は、女子二人の女子力の変化に違和感を感じるものの、どう触れていいやら分からず、という感じだ。

「銀さん、そこちょっと退いてください。またゴミ散らかして。」
「ねえ、名前?その・・・」
「何ですか?退かないなら退かしますよ?」
「珍しくない?それ。」
「これですか?ああ、今日買ったんですよ。神楽とデートしてきたんです。」
「へえ〜。そうなんだー。神楽とねぇ。俺とも今度デートし」
「退いてください。」
「はい。」

ゴミ捨てに行くと言い出した名前を、ぼーっと眺めるだけしかできない銀時に、ぼそりと悪態を吐くのは神楽だ。
「銀ちゃん。女ってのは、ちょっとした変化に気づいて、それをはっきり言ってくれなきゃ嫌っていう生き物ヨ。」

「か、神楽ちゃーん。着物なかなか似合ってるねーそれ。」
「アタシに言うなよ。」

辛辣な一言とともに玄関へと向かう猫背の背中。
「あークソ。めんどくせェ。」
と言いながらも、その顔はまったく嫌がっていない風に見えた。
そんな夕刻の万事屋。
玄関先では名前が下駄を履いたまま後ろを振り返って、にこにこ微笑んでいた。

「あー、それ・・・まあまあ似合ってんじゃね。」

名前は自分の想像通りの反応が面白くって、何だか嬉しくって、くすくす笑った。




2017.4.8

←BACK
ALICE+