04
王子様には見惚れてしまうもの


あたし、なにやってんだろう。



我に返った時には、すでに玄関にいた。
ここが、真選組の屯所…。
煙草の人もどうやらあたしと同じくらいに我に返ったらしい。

「「あ。」」

声が重なった。
さっきまで警察官に罵声を浴びせていたことに急に恥ずかしさを覚えて、顔に熱が籠もる。

「あの、ごめんなさい…。」
「あ?何急に謝ってんだよ。」
「言い過ぎました。初対面なのに。」
「……ふぅ。いや、こっちこそ。悪かったな、いきなり連れてきちまって。」

意外と素直なところもあるんだ。
あたしの中での煙草の人の好感度がひとつ上がった。
そして、よく見れば凄く整った顔立ちをしていらっしゃる。
女のあたしが嫉妬してしまうくらいに。
そうして見惚れてしまっていると、不意に後ろから声が掛けられる。

「そいつァ、やめといた方がいいですぜィ。」

どうぞ、と来客用らしきスリッパを差し出しながら、少年は言う。
栗色のサラサラした髪の毛をたなびかせる彼も、また煙草の人と同じ制服を身に纏っていた。

「あ、ありがとうございます。」

恐る恐るお礼を言うと、彼はまん丸い大きな目を此方に向けてくる。

「ところで、土方の野郎に何かされませんでしたかィ。暴言吐かれたり、唾かけられたり、変な液体かけられたり。」
「え、えっと…」
「沖田てめぇ!最後のは余計だろうが、変な液体って何だよ!苗字も黙ってねェで否定しやがれ!」
「あ、あの…土方さんっておっしゃるんですね。まだお名前をお聞きしていなかったので。沖田さん、大丈夫です。暴言吐いたのはあたしも一緒ですし、唾と変な液体はかけられてません。」

あたしがそう弁明をすると、沖田が意外そうに、まん丸い目をさらに大きく見開いてそれからニヤリと笑った。

「そうですかィ。そりゃ良かった。どうぞ、お上がりくだせェ。」
「あ、はい」
「土方さん、こっからは俺が案内するんで、いつもの犬の餌でも食って休んでてください。さっ、行きやしょう。」
「総悟てめぇ!バカにすんじゃねェ!!しかも、お前が仕事するたァ、どういう風の吹き回しだァ?何か企んでんじゃねェだろうなァ。アァ?」
「見くびってもらっちゃあ、困りまさァ。何も企んでなんかいませんぜ。安心してマヨネーズでも啜っててくだせェ。俺が姐さん口説いときますんで。」

沖田さんは、そう言いながら土方さんに見せびらかすみたいに、あたしの腰に腕を回してきた。
あたしはそれを避ける気もないし、いい気分でもなくて、なんて言ったらいいのか。
本当に急な出来事だったので、結果的に無感情でそれを受け入れた形になった。
唖然としている土方さんを横目に、沖田さんはあたしを連れて廊下の奥へと歩き出す。

横目に沖田さんの顔を眺める。
大人びている気もするが、歳は20歳前後というところだろう。

「口説くというのは、尋問するということですか?」

あたしが尋ねると、これまた意外そうな顔で此方を見下ろす沖田さん。
そのまん丸い目に吸い込まれそうになって、あたしは慌てて目を逸らした。

「何でィ。えらく肝の座った女かと思ったが、こういうのには弱いのかィ。」
「何ですか?こういうのって。」
「こういうのは、こういうのでさァ。」

沖田さんは、あたしの顎を持ち上げて自分の方に向かせる。
生まれてこのかた、こんなことをされた覚えがないし、まして最近のことを考えると男性に触れられた記憶さえない。
動揺するあたしを気にも留めず、というよりは、寧ろ愉しむように目線を絡ませてくる。
片方の手は腰に回し、もう片方の手で顎を持ち上げて、目線をしっかり捕まえられている。
逃げ場がない、というのはまさにこの事。


て、これ、キスできる距離じゃない…?

あたしがさらに動揺を露わにし出すと、彼は黒い笑顔を纏う。
そして、放つ。
黒いコトバを。

「弱い女にこんなことやっても大して面白味がねぇんでィ。肝の座った女に仕掛けて、そいつが動揺するのがいいんでさァ。」
「…………」

この人……
サディスティック星の王子様だァァァァァァァ!!!
何なんだ。
警察っていうのは、まともな人間がいないのか。

それにしても、さっきから何も抵抗しないでいれば、好き勝手して。
何だか、腹が立ってきた。
あたしだって女なんだから、そんな易々と男に触れさせて溜まるものか。

「アンタ…からかってるの?離して。」
「くくっ…。アンタじゃねぇやィ。沖田総悟でさァ。」
「は?またからかって…!…沖田さん離して。」
「沖田さん?響かねぇなぁー。総悟の方がいいなぁー」
「は?総悟の方がいいなぁって何よ。離してったら離して!訴えるわよ!」
「やっぱり面白ぇや。今日のところは見逃してやらァ。」
「何で上から……。」

次からは覚悟しときなせェ。

あたしはどうやら、このドSに目をつけられてしまったらしい。
次って何なのよ。
もう警察のお世話になんかならないんだから。


「もう2度とここには来ませんんんんんん!!」





2016/1/23
ドS王子登場。
次はヒーロー再登場させたい。

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