-adabana-
「さくらぁーさくらぁー」

もうすぐ満開になる庭の桜。
その庭の縁側に年頃の女が一人。
名を名前。
空に浮かぶお星様と、月明かりに照らされる桜の木を交互に眺めながら、デタラメな歌を歌っている。
そこへやって来たのは、一人の男。

「粋狂だなァ」
「晋助。帰って来てたの」
「あァ、さっきな。で、お前は何で起きてる。」
「晋助たちの帰りを待ってたんだよ。眠れなくってさ。まあ、晋助も座りなよ。」

名前は自分の隣をバシバシ叩いて、晋助を座るように促す。晋助は仕方なくという風に、そこに胡座をかいて座る。すると、名前は満足気に笑って膝を抱えてまた夜空を見上げた。
「月がまん丸だねぇ、今日は。」

「そうだな。」
「どうしたの?顔色悪いね」
「いや何でもない。ただ少し・・・疲れた」

晋助は胡座をかいたまま、隣の名前に寄り掛かる。寄り掛かられた当の本人は、目を月と同じくまん丸にして身を硬くする。
なぜなら、普段の晋助はこんなことをする人じゃないのだ。滅多に弱音なんか吐かないし、いつもなら名前の方が弱音を吐いて慰めてもらうのに。今日はいつもの逆だ。

「めずらしいね。」
「たまにはいいだろう」
「びっくりするから、たまにでいいよ。」
「アホか、たまにやるからびっくりするんだろ?」
「あ、そっか。あははっ。どっちにしろ晋助のこんな姿を見たら、銀ちゃんたちもびっくりするだろうね。」
「ふっ。あいつらに見せるわけがねェだろう。まあ、万が一見られたとしたら、走ってきて俺を蹴飛ばすだろうがな。」

晋助は銀時たちが今にも走って来そうだ、と一人想像して笑みを零した。名前もつられてにやける。そして、横から伝わる体温が暖かいことに安心する。いつもみんなの帰りをただ待つことだけしかできない名前にとって、そんな些細なことが気を休められる良い精神安定剤の役割をしていた。
それに、晋助が珍しく弱音を吐くから何かあったかと心配になっていた。笑っているところを見ると、本当に疲れているだけなのかも、と酷く安心する。
「良かった・・・」

「ん?」
「晋助が笑ってるってことは、みんな帰って来てるのね。おかえりなさい。」
「ったく、お前はいつもいつも心配しすぎなんだよ。そんなんじゃ身が持たねェからやめろっていつも言ってるだろうが。」
「あははっ。やめれたらやめてますぅ。」

不安だらけであっても、笑顔は絶やさない。それが、名前の良いところであり、晋助たちが心配するところでもあり、逆に晋助たちにとって帰ってくる意味となっていた。
名前が笑ってくれるなら、何度でも戦場に立とう。そして、何度でも帰ってこよう。身も心もぼろぼろになっても、生きて帰ろう。
晋助たちには、暗黙の中で、そんな集団意識があった。

晋助は名前の横顔を盗み見て、それからまた庭へと視線を向ける。
夜空を見上げれば、無数の星。異国の舟。そして、まん丸な月。
月明かりに照らされる桜の木は、繊細で且つ大胆だ。
なんとなく、自分に似ていると晋助は思う。


「もう暫く、居てもいいか。」

「晋助の気がすむまで居ればいいよ」


は君を弱らせる



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