片恋こころ

「久しぶり××くん!!」
「久しぶりソニア」

故郷であるハロンタウン。俺自身が幼い頃、それこそダンデがチャンピオンになる前の時期に暮らしていたところだ。今住んでいるシュートシティとは打って変わってのどかな雰囲気で溢れている。そこら中から聞こえてくるウールーたちの鳴き声が心地よい。そのハロンタウンから少し先、1番道路を抜けたところにあるのがソニアのいる研究所。今いる所だ。

「滅多に連絡くれないから生きてるのか心配してたんだからね!」
「用事もないのに連絡するのもおかしいだろ。だから用事がある時にこうやって直接赴いたわけなんだからさ」

と言いつつも、俺達は先週顔を合わせている。俺が一方的に助けてもらっただけだが、それでも感謝の気持ちは直接伝えたいと足を運んだ次第。もちろん詫びの品はきっちり持ってきた。彼女が好きそうなスイーツとアクセサリーひとつ。女性の喜ぶものに詳しくないので、店員さんのオススメをそのまま買ってきただけですが。

「はいこれ。この間はありがとう」
「えっ! このケーキめちゃくちゃ人気のやつじゃん! ありがとう〜!!」

髪留めも可愛い〜!!と箱を手にしてクルクル、飴細工をもらったマホミルの様にまわっている。ケーキ崩れるぞ。
案内された椅子に腰掛け、休憩をとる。

「あれ、××さん」
「ホップ! 久しぶりだな!」

幼なじみであり今はなんだかんだ特殊な関係にあるダンデ。その弟だ。王族だなんだと一時期ガラルが大荒れになった時、なんやかんや時を経て博士になるという目標を持った彼の成長は早かった。今でこそソニアの元で動いているだけだが、彼の観察眼や優れた行動力。そして何よりポケモンを思う気持ちがあるのだからすぐにでも博士号を取ることができるだろうと予測している。

「本当に久しぶりに顔見た気がするぞ! 大人っぽくなったなあ〜」
「まあもう大人だからな。ホップこそ随分落ち着いたね。昔はすぐ走り回って怒られてたのに」

クスクスと笑いながらからかうと、耳を赤くして恥じらう様が見れた。可愛らしい、こういうところはまだまだ子どものようだ。

「あ゛!!」
「どうしたソニア」
「家に忘れ物してきちゃった……取ってくる!」

いきなり声を上げたかと思えば、バタバタと慌ただしく出て行った。何を忘れたのか知らないが、そんなに急ぐことなのだろうか……?

「……行っちゃったな」
「な。どうせだしホップの話たくさん聞かせてくれよ」
「もちろんだ! とりあえずコーヒー入れてくるな!」

ニカッと笑う彼はあまりにも兄に似ていて、一瞬家に帰ってきたのかと思ってしまった。遺伝ってすごいんだな、血筋を感じる。




「はい、甘いの苦手だったよな?」
「よく知ってるね、ありがとう」

俺の好みを把握しているらしい彼は、それに合わせてブラックのコーヒーをくれた。香りを楽しみ、口を付ける。あ、めちゃくちゃ美味い。なんのメーカーのだろうか。

「美味しくできてるか?」
「……ああ、めっちゃ美味い。これどこ、」

どこの、と続けようとした。したのだけれど、続けられなかったのだ。唇に触れたのは無機質なカップではない。たしかに人間の感触だった。なんだこれ。目の前の存在が離れていく時、ちゅっとリップ音が響いた。

「う、俺にはちょっと、苦すぎるな」
「ほっ…………ぷ」

何を言えばいいのだろう。何を考えてこんなことをしたのだろう。彼はどう思っているのだろう。考えてもわかりやしないけど、どこか寂しげに笑うホップの顔を見ていると何も言えなくなった。

「…………へへ、兄貴のことが好きなのは知ってるぞ。ずっと見てきたからな。兄貴も、××さんも。でもこれくらい、ちょっといたずらするくらいは許してほしい」

そう言ってカップを持ったまま固まった俺の右手の甲にちゅ、と唇を落とす小さな彼。その姿が10年前のあの日に似ていて____

「……お前ほんと、成長したなあ」

こんなことしか言えなかった。




「ただいま! 迷子拾ってきたよ、××くん!」
「おかえりソニア」

固まったまま見つめ合う俺とホップだったが、そんな沈黙を破るようにソニアが扉を勢いよく開けて帰還する。紙袋を抱える彼女の後ろには、見慣れた男がいた。

「あれ、ダンデ。なんでこっちに?」
「君を探してたんだが……ここに居たんだな!」
「駅でウロウロしてたから連れてきたの。××くんこの迷子連れて帰ってくれる?」
「うん、いいよ」

すると嬉しそうに笑うダンデ。ホップに似ている。逆か、ホップがダンデに似てるのか。

「××さん、今日のこと忘れないでほしい」
「ああ、多分ずっと忘れないと思う。ありがとう」

俺の服の裾をくいっと引っ張り、諦めたように笑っていた。そんなホップの頭を撫でてから、ダンデの手を取り歩き出す。

「じゃあ俺達は帰るな。また機会があればこっち来るよ」
「迷惑かけたな! ありがとうソニア。ホップもほどほどに頑張れよ!」

研究所を後にする。さてどうしようか。これからどんな顔をしてホップに会えば良いのだろうか。そもそも彼は、俺が好きなのか? いたずらと言っていたし、ただのやんちゃの延長線かもしれない。

いや、あの顔は、そんな無責任なキスをする男の顔ではないか。

「なあ、」
「ん?」
「ホップと何かあったのか」
「いんや、何も無いよ。ただ成長したなあって思ってさ」

成長して、ダンデに似てきた。だからキスを咎めなかったんだって言ったら、こいつは笑って許してくれるかな。