俺は新しいアイデアの開拓の一環としてナックルスタジアムに来ていた。スタジアムと言ってもここは事務室で、目の前にはキバナとそのポケモンたちが寛いでゆっくりしているだけだ。
「で? なんか良さそうなの思いついたか」
「…………ヌメルゴン、可愛いね。いいかもしれない」
「へえ、もっとちゃんと見るか?」
「いいのか? 俺が近づいたらビビられないかな」
キバナの横ですやすやと安らいで眠るヌメルゴンを起こしてしまうのは少しはばかれるが、ゆっくり、1歩ずつ近づいていき目の前でその寝顔を眺めた。かわいい。
「メスだっけ。めちゃくちゃ可愛い」
「だろ? ウチのお姫様だからな」
それはそれは。種族値が高いポケモンとは思えないほど可愛らしい顔をしているが、バトルとなると凶器に変わる。いや恐ろしいものだ、キバナみたいだな。
「……」
「あっ、起きちゃった?」
「ヌ……?」
「ごめんね、邪魔しちゃったかな。可愛くてつい近くで見たくなっちゃったんだ」
「ヌッ……!!」
パチリ、と目を覚ましたヌメルゴンの顔を撫でながら謝罪の意を込めてそう伝えたのだが、知らないトレーナーにいきなり触れられてビックリしてしまったのかソファの後ろに隠れてしまった。うぅっ、申し訳ないです……。
「どうしたヌメルゴン〜、そんなに恥ずかしがり屋だったっけ」
「知らない人だったからビックリしちゃったんだろうな。ごめんな〜」
キバナがヌメルゴンの頭をぽんぽんと撫でる。かわいい……かわいいな。癒し空間とはここにあったのだ。
「あれ、ヌメルゴン大丈夫か? ……!! お前、まさか」
「どうした、体調でも悪いのか?」
そういえばさっき触れた時、少し熱っぽかったような……そういう個体なのかもしれないと気にせずにいたがやはり不調だったのだろうか? ごめんなヌメルゴン……!!
「いや、別に不調とかじゃないから気にしなくて大丈夫だぜ。ただ照れちゃってるみたいだな」
「照れてるのか、可愛いな」
「ヌ〜〜!」
ヌメルゴンがぽかぽかとキバナを優しく叩く。普通に痛そうだが、慣れているのか笑って受け入れるキバナに素直に尊敬してしまう。
「あっはは、可愛いやつだな〜。××のこと好きになっちゃったのか? でも残念! ××にはオレさまがいるからな〜」
「おいおい、俺らそういう関係じゃないぞ」
別にキバナと付き合ってる訳では無い。というかそんなつもりもない。したらキバナは不機嫌そうな顔をして、俺の腕を引っ張りながらソファに寝転がる。
「うわっ、危ないだろ」
「ふふ、押し倒されちゃったな。どうだ? このままここでオレとイイコトしねぇ?」
押し倒されちゃったじゃなくて押し倒されるようにしたんだろう。俺の下で挑発的に笑い、己の服をたくし上げるキバナは確かに扇情的でとても可愛くいやらしい。健康的な褐色の肌が俺を誘う。しかしここで流される訳にはいかない。まずキバナのポケモン達が見てるんだぞ、さすがに無理です。
「だーめ。ポケモンたちに見られるだろ」
「見られなきゃしてくれんの」
「……それは」
してはいけないことはわかってる。俺にはダンデがいるわけだし、付き合ってないにしろお互い好きあっているのだからこういった不誠実なことは良くないことくらい、理解している。理解はしているが……理性が保てるかどうか。
「なあ、ダンデじゃなくて俺を見ろよ。俺ならあいつよりすっげぇプレイでもしてやれるぜ」
俺の顔を彼のデカい両手が包み、だんだんと顔が近づいていく。ダメだ、このままじゃ流されてしまいそう。手を振りほどこうにも、自分の手はソファにつき体勢を保つことが精一杯でキバナの手を退かすことが出来ない。やめてくれ。触れ、そう
「ヌッ! ヌメッ」
「ヌッ……メルゴン、いい所で邪魔してくれたなぁ」
唇が触れそう、になった所でヌメルゴンが遮ってくれた。目の前に現れた粘液まみれのお手手に感謝しかない。あっぶね、本気で流されるとこだった。ありがとうヌメルゴン、お詫びに美味しいポケフードでもプレゼントさせてくれ。
「ということでお預け。こういうのはダメだからな」
「ちぇ、また今度お前が欲求不満そうな時に誘ってやるとするか。したら流されてくれるだろ?」
俺は既成事実が欲しいんだ、と温厚そうにへにゃあっとヌメラっぽい笑みを浮かべる。ほんとに何がしたいんだか。
「まあダンデに飽きたら俺んとこ来いよ。俺はずっとアンタのこと好きで大好きで愛してるから」
「………………0.02%くらいならありえるかもな」
あるいは、ダンデが俺に飽きた時だろうけれど、多分おそらくきっと、そんな日は来ないだろう。