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雲雀さんと、どういう関係なのかなって……

そう聞いてきた沢田くんは、ホームルーム前の眩しい朝日を浴びて百面相をしながらわたわたと慌てている。どうやら私と雲雀さんの関係が気になるらしい、たしかに他の人に比べれば距離が近い……のかも?

「うーん、友達って感じじゃないしなあ」
「でも雲雀さん、××には優しいし」
「それは否定できない」

ちなみに、彼が私を名前で呼んでくれるのは私がお願いしたからだ。京子ちゃんたちと名前で呼び合う仲になってから姓で呼ばれるのが逆にもどかしくなってしまって。獄寺くんや山本くんも今では名前で呼んでくれる。

そんなことより雲雀さんの話だ、関係性を問われると難しい。言い表す言葉が思いつかないのだ。いざと言う時逃げ込める場所、避難所? それとも上司みたいな……でも私は風紀委員ではないし。

「しいていえば……お母さん?」
「えっ!? おかあさん? お父さんじゃなくて?」
「うん、どっちかっていうと」

一緒に居て落ち着く、なんだかんだちゃんとできたことは褒めてくれる、守られてるというのも自覚している。お母さんみたいだ。私の中のお父さんの像があまりにも酷いからか、父親とは思えない。

「なんだ、てっきり付き合ってるのかと」
「つっ!? つきあっ!?」

安堵のため息をついた沢田くんの言葉に必死で否定する。そんな訳ない、お互いにそんな、恋愛感情なんてない。おそらく、きっと。傍においてもデメリットがないから置いてくれているだけだろう。そう説明すると沢田くんも笑いながら「付き合っている」ということに対して否定的になってくれた。

「あの雲雀さんがそんなことするわけないか」
「そうだよ、きっとそう……」

私からしたら彼は家族みたいな……大事な存在だけど、彼から見た私はどうなのだろう。ふと浮かんだ疑問に脳が満ちていく。

迷惑にはなっていないだろうけど、私って何なんだろう。

答えなんて出るはずもなく、午前の授業はその問いを残したまま臨むこととなり、内容は大して頭に入ってこなかった。


お昼休み。本人に直接聞く勇気もなく黙々と昼食を食べ終えた。大好きな裁縫道具にも手が伸びずぼーっとするだけの私を一目見て、雲雀さんが声を掛けてくれる。

「僕は見回りに行くけど。体調が悪いなら休んでていいよ」
「はーい……」

見回りかぁ。私はここで一人でぼんやりするだけでいい。いつもなら集中しているせいでこの声も聞こえないが、今日ははっきり聞こえた。右から左へ聞き流したせいで頭には残っていないが。

今朝にしていた縫い物の続きを手に取り細い針先を見つめる。日頃の手入れのおかげで輝いている銀色が窓から差し込む光を反射して眩しい。目を細めてじっとその様子を見ていると、すっと光が消えた。太陽を遮るように、窓に何かが置かれたみたいに。曇っただけかな、とゆっくりと顔を上げて確かめる。そこには何か、誰か? がちょこんと立っていた。……とても小さい誰かが。

「え……誰? 赤ちゃん?」
「ちゃおっス、お前が縫部××だな」
「そうだけど……えっ!? ここ二階だよ!? 危ないって!」

窓枠に立っているのは赤ちゃんだった。スーツを着て、ボルサリーノを被って、ばっちり決めてる子。どこから迷い込んだのか知らないけれどさすがにそこは危ないだろうと、針をしっかり針刺しに戻して立ち上がり急いで近づいた。するとその子はぴょんっと飛び、雲雀さんが作業に使っている机に着地する。み、身軽だ……!
さっきまでぼんやりしてたのも吹っ飛んでしまうほどの衝撃。どこの子なんだろう。

「誰かの弟さん? 雲雀さんに報告しないと……」
「俺はリボーン。ツナのカテキョーだ」
「かてきょ……?」

おそらく沢田くんの知り合いなのだろう。馴染みのない言葉に首を傾げる。普通ではない事なんて既にわかっている、子どもにできる芸当ではない。少し舌足らずではあるが言葉はしっかりしているし……子どもとして考えるのはやめておこう。

「沢田くんを探しているの?」
「いや、お前を探してたんだ」
「私? どうして?」

もちろん初対面である。私はこの子のことを知らないし、この子が何故私のことを知っているのかも知らない。沢田くんが私の話をしていた可能性も無くはないけれど……

「勧誘しに来たんだ。××、ツナのファミリーに入んねーか?」
「…………ふぁみりー?」

ファミリー、家族。沢田くんの家族? 沢田くんの家にはたくさん居候さんがいる話を聞いたけれど私も誘われているということ? 理解が追いつかない。

「イタリアで勢力を拡大し続けているマフィア、ボンゴレファミリーだ。ツナはその十代目でその仲間を集めてるんだぞ」

ああ確かに、獄寺くんが沢田くんを十代目と呼んでいたのはそれだったのか。てっきり不良特有の兄貴の名称みたいなやつかと。

「じゃあ獄寺くんたちもそのファミリーなんだね?」
「ああ、あのヒバリもだ」
「えっ、雲雀さん……?」

あの集団に入って群れるのが大嫌いな彼が誰かの下につくとは思えないけれど。それとも沢田くんにそれだけのカリスマ性があるということだろうか、雲雀さんは彼のことを「よくわからない」と言うけれど内心では気にしてたりする……のかなあ?

唐突な話についていけなくなってきて脳がこんがらがってしまう。大きな瞳を見つめながら立ち尽くし、無言で色々考えてしまった。もうこの事で頭がいっぱいで雲雀さんが私をどうのこうのとかいうのは吹き飛んでしまったのだ。

「うーん。申し訳ないけど私は遠慮しようかな。こう、チームとかに入るのは苦手で。役割とか、そういうの好きじゃないんだ」
「……ほんとにそっくりだな」
「ん?」

帽子のつばで陰った表情はよく見えなかった。言葉も小さくはっきり聞き取れたわけではないが、聞こえてたとして真意はわからないだろう。

「そう言われると思って最高の殺し文句を用意してきたぞ、心して聞け」
「殺し文句……?」
「母親に、会いたくないか?」

「………………えっ」

立ち尽くす。時が止まったようにも思えた。頭が真っ白になり瞬きすらできない。そのせいで目や口は乾き指先が震え始める。
どうしてこの小さな子が母のことを知っているのかとか、そんなこと言われても信じられないとか、正常だったらきっと断れていただろう。けれど……。

「…………ほんとに? ほんとにお母さんに会えるの?」

口は歪んで目が潤む。震える喉奥から必死に絞り出した声が唯一の質問を投げ掛けた。

「ああ。お前がきっちり仕事をすれば、な」

3年ほど前から会えていない母親について言及されれば、私はそれに縋るしかなくなる。それにしか、希望が見いだせないのなら。多少の面倒くささはあれど手を伸ばしてみるのもいいのかもしれない。

「でも待って、どうして貴方がお母さんを知ってるの?」
「同業だったんだ、顔も中身もよく知ってる」
「……じゃあお父さんのことも?」
「ああ、アイツは同業じゃねぇ。でも知ってるぞ、アイツがお前にしてたことも。直接聞いたことがあるからな」

ある日を境に、機嫌が悪くなると直ぐに手が出るようになってしまった父親に付けられた傷は数え切れない。今でも消えない痣となっている物もある。でもそれはお母さんの方がきっとひどい仕打ちを受けていたし、私にとってはたった1人の父親で、嫌いになることは出来なかった。好きにもなれなかったけど。

「……うん、わかったよ。そのファミリーになればいいのね」
「助かるぞ、ツナはまだまだ弱くて役に立たないが、お前がいてくれるなら相当心強い」
「いや、私なんにも出来ないけど」

そもそも私、ただお裁縫が得意なだけの一般人だから。

「今はな。いずれ最強の殺し屋に育ててやる」
「殺し屋って何、流石に無理でしょ」

この時は本当に無理だと思っていた。人を殺めるだなんて、そんなこと私には出来ないと思っていた。数ヶ月後、人というのは色んな体験を経て変わるものだと深く理解することになる。そんな日来なくてよかったのに、ね。